AI時代の広報を考える 人間に残るものはなんだろう
AIの存在により、多くの会社が変革期を迎えています。会社として、クリエイターとして、AIとどう向き合いどう生きていくかが、日々問い直されています。
私は最近ずっと、人間に残ることはなんだろう、と考えていました。AIによって数秒で書き出される文章を眺めながら、「人間が書く」意味はなんだろう、と。仕事の仕方も変わりつつあるなかで、かなり悩んでいたのが「広報」の在り方でした。
このnoteも、エルの広報のひとつです。「エルで感じたことを、エル目線で、等身大のことばで伝える」を軸に、会社のらしさを発信しています。AIとの協働を考えるうえで、どこまでAIに頼り、どこを人間が行うべきなのか。効率化は大切だけど、エルらしい温度感は失いたくない…。広報としてどう動けばいいか、悶々としていました。
それでも、メンバーが前向きにAIの情報を共有してくれるおかげで、すこしずつ理解が深まり、「人間に残るものは、たしかにある」と感じるようになりました。
これからの時代、広報として「AIには言えないこと」を発信するために、なにを意識すべきなのか。「人間だから伝えられること」はなんなのか。自分なりに考えたことを、まとめてみました。
「感じる」を大切にする
AIと人間の大きな違いは、「感情があるかどうか」です。感情らしいプログラムが実現できたとしても、AIには、私たちと同じような感情はありません。
感情は人間にとって、とても厄介な特権だと思います。怒りやかなしみを感じなければ、生きるのはもっと楽になるだろうな、と思うこともあれば、大きなよろこびを感じたときは、「この瞬間のために生きてる!」と思うこともあります。さらに、「喜怒哀楽」以外にも、しあわせなのに涙が出るとか、うれしいのにかなしいとか、言語化できない複雑な感情がたくさんあります。
だからこそ、人間がつくるものには「らしさ」が生まれます。感情から生まれた表現は、誰かの感情を動かす力を持ちます。AIは、指示からなにかを生成できても、感情からなにかを生成することはできません。
もうひとつ、人間にあってAIにないものは「主体」です。主体があるからこそ、人間はいろいろなことを体験し、感情を抱くことができます。仕事でいえば、クライアントと話したり、メンバーとディスカッションしたり、ああでもないこうでもないと手を動かしたり。その過程で、楽しいと感じたり、難しいと悩んだり。
なにを書くか、の根底には、なにを感じたか、があります。私はnoteのテーマ集めとして、働くなかで感じたことを書き残すようにしています。(PCには断片的なメモがたくさん、見られたら恥ずかしい…)。
「どう伝えるか」ばかり考えていると、「なにを感じているのか」をつい忘れがちです。広報の役割は、「その組織/人にしかわからないこと」を、「その組織/人らしく」伝えること。きれいであること、整っていることを目指すのではなく、等身大の姿を、等身大のことばで伝えること。そのためにはまず、「自分は今、なにを感じているのか?」を自覚することが必要です。
クライアントの広報支援をする際も、「まずは自身が感じたことを大切にしてほしい」とお伝えしています。
「伝えたい」を見つける
社内でAIについて話していたとき、デザイナーの海野が言った言葉です。本当にそのとおりだ、と思いました。
指示する側に「なにを伝えたいか」がなければ、AIは思うようなアウトプットを出してくれません。伝えたいことが曖昧だと、どんな指示をすればいいか、どんな表現をよしとすればいいのかわかりません。結果、できあがるものもぼやっとしてしまいます。
広報も同じです。「自分はなにを伝えたいのか」を持つことで、届けたい人に届く発信になります。
「伝えたいこと」は、所属している会社や組織によってさまざまだと思います。内部の人にしかわからない雰囲気、会話、熱量…それらを近くで実感できるのが、広報のラッキーなところ。当たり前だと思っていた文化が、外から見るととても素敵な特徴なこともあるし、ふとした会話のなかに、「うちらしさ」が潜んでいることもあります。
「伝えたい」を軸にすると、そのためにどんな発信をすべきかがわかってきます。私が広報で大切にしているのは、書くこと自体を目的にするのではなく、伝えたいことがあるから書いている、というスタンス。そうすると「書きたい」が動機になるので、「書かなきゃ…」という義務感がなくなり、前向きに広報に取り組めるようになります。
「自分の」ことばで書く
広報は、「らしさ」の代弁だと思っています。
そのうえで大切なのが、自分のことばで書くこと。これは、主語を大きくする、自分語りをするということではありません。自分が感じて、伝えたいと思ったことを、借り物ではない、等身大のことばで伝えることを指します。
クライアントの広報支援を行う際は、「クライアントのことば」をできるだけ生かしたいと思っています。言い回し、表現、文章の癖。その全部がクライアントらしさであり、その人にしか書けないものだからです。そのらしさを尊重したうえで、ターゲットのことを考えて届け方を編集する、という姿勢を意識しています。
社内でメンバーが記事を書く際も、一人ひとりの「らしさ」をそのまま大切にしてほしい!というのが私の思いです。「エルらしさ」も大切ですが、エルらしさをつくっているのは、メンバー一人ひとりの「らしさ」。つくるデザインにも使うことばにも、その人にしかない魅力があります。だから、できるだけそのままの純度で伝えたいと思っています。エルは少数精鋭の会社なので、一人ひとりがそれぞれ広報、とも思っています。
私もそうですが、人間の文章は完璧ではありません。すべてAIを通して完璧にしてしまったら、「らしさ」もなにもなくなってしまいます。文章自体をコピーできたとしても、その文章の奥底にある感情まではコピーできません。
「その人が書く」から、魅力が生まれることがあります。推しのアイドルが書くブログ。好きな小説家が書くエッセイ。好きな人からもらう手紙。それらのことばに魅力があるのは、「その人自身」から生まれたことばだからです。その人にしか書けない、その人だけの表現だからです。ただの文字の羅列ではなく、らしさがにじみ出ているものである文章は、とても光って見えます。
AI時代の、広報の在り方
AIは、とても優秀です。実際に触ると、否応なく実感します。
でも、AIが不得意で、人間が得意な領域もあります。明確な正解がない問いや、表現の微妙なニュアンス、行間に隠された思いを理解すること。自分の感情を使いながら、相手の感情に寄り添うこと。つまり、「主体」と「感情」が必要な部分です。広報もまさに、ここに含まれると思いました。
これは、積極的にAIの知見を共有してくれていたデザイナー百瀬のことばです。これを聞いて私は、もやもやがぱっと晴れた気がしました。AIについて知ることは、仕事をすべて渡すことではなく、人間に残ること、力を注ぐべきことを見つけることなのだと。だから、悲観的になることはないのだと。
思えばこれまでの歴史のなかでも、さまざまなツールが生まれ、クリエイティブの方法は変化してきました。けれど、人間だから生み出せる価値は残り続けています。AIによる効率化で時間を生み出せれば、人間にしかできない仕事に、より熱を入れることができるかもしれません。クライアントとじっくり向き合ったり、ディスカッションしたり、頭と心を使って制作に励んだり。その時間からしか生まれない価値が、きっとあります。
エルは、AI時代におけるクリエイティブの姿勢として、
「AIとともだちに。入り口(対話)と出口(クリエイティブ)に、人の心を宿す。」
を掲げました。
ブランディングを軸にする会社として、「らしさ」を表現することに力を注ぐ。そのためのパートナーとして、AIを使う。そのなかでも、人間らしさ(完璧じゃない、優等生じゃない)を大切にする。できることとできないことを把握し、やるべきこと・やらないことを区別し、クリエイターとしての矜持を持つ。
エルとしてのAIとの付き合い方は、こんなふうに言語化されました。今も、最新の情報を取り入れながら、一人ひとりが自分の得意分野とAI技術を組み合わせ、試行錯誤している最中です。
広報についてはこれからも、「自分たちで感じて、伝えたいと思ったことを、自分たちのことばで」発信していこうと思います。変化を前向きに楽しみながら、感じたことを大切に、私たちらしく。
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