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創造性と教育の偉人-3. レフ・ヴィゴツキー(探究演習)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」。教育のなかで創造性に関する代表的な3名の思想家や学者から、今回はレフ・ヴィゴツキーをご紹介します。


こんな人です

レフ・ヴィゴツキーは1896〜1943 年にロシア(現ベラルーシ)で活躍した心理学者です。前回紹介したピアジェとはほぼ同年代ですが、ピアジェやデューイーが長生きだったのに対して、ヴィゴツキーはわずか37歳でこの世を去りました。

しかしながらわずかな期間でもその功績はすばらしく、「心理学のモーツァルト」と形容されることもあるようです。入り口としては、こちらの本がとてもわかりやすいのでオススメです。

ピアジェが内の人に対して、ヴィゴツキーは外の人です。

2人は異なるアプローチで子どもの学習と発達や創造性を論じます。なので、2人をそれぞれ知ることで、今日の教育観を理解することができます。

社会と学習の関係に目を向けた

ヴィゴツキーの着眼点は「子どもは身近な社会から学ぶ」です。

2人の子どもがいます。どちらも知能年齢は8歳です。この子どもたちにもう少し難しいテストを与えます。解答するまでのなかで誘導的な質問やヒントを出して助けてあげます。すると1人は12歳までの問題を解き、もう1人は9歳までの問題を解きました。

柴田義松(2006)『ヴィゴツキー入門』より解説文章を要約

この結果から、自分の力だけでなく、他者の協力を得ることで能力を上げることができるという考えを主張しました。

そりゃそうだろうとか、それはズルではないか、と思ったかもです。でも、子どもは答えを教えてもらったわけではなく、あくまで自分の力で答えに辿り着きました。ここの違いを理解することはとても大事です。

なぜなら、世の中で行われているほとんどの活動は、誰かと協力したり助け合ったりしているからです。学習は1人でやらなければいけないなんて規則は、どこにもありません。

発達の最近接領域

ヴィゴツキーのこの着眼点は「発達の最近説領域」という理論にまとめられます。定義はこのようになります。

自分一人ではできないけど、支援があれば実践可能な水準

伊庭崇(2019)『クリエイティブ・ラーニング』慶應義塾大学出版社より引用

子どもは身近な存在から刺激をうけます。例えば親がやっていることを見よう見まねで模倣してみる。友達と同じように真似てみたり、兄弟で競い合ったり一緒に遊んでみたり。このようにして学び、できることを増やしていきます。

同じ年齢や学力の仲間と一緒に学ぶ学校は、発達の最近説領域の学習に適した場であると考えることもできます。

以前にこちらでもまとめています。

このように、ヴィゴツキーは外に目を向けて、他者や社会との関わりから学ぶ大切さを主張しました。ピアジェとは逆の発想です。(どっちが正しいではなく両方とも大事)

模倣と創造の関係

学ぶことは真似ぶことだといいます。そこで、真似ることと創造することの関係についてもみていきます。

模倣は誰にでもできることだと考えられがちだけど、人の発達水準によって模倣できる範囲は変わります。小学1年生に、いきなり微分積分の計算はできないけど、歌ったり踊ったりは模倣を通じてできるようになります。

模倣によって最近接領域を拡張することが創造にあたると、ヴィゴツキーは考えます。

教授ー学習の本質的特徴は、教授・学習が発達の最近接領域を創造する

ヴィゴツキー(2003)『発達の最近接領域の理論』

模倣は単なるコピーではなく、模倣する行為を通じてできることを伸ばす、できることが増えると、創造する活動につながります。

これについては、ヴィゴツキーの後の研究者が参考になります。

認知的徒弟制と正統的周辺参加論

ヴィゴツキーの研究は1980年代に再注目されます。

その中でまず、ブラウンという研究者は「認知的徒弟制」という概念を発見します。

これは、職人の世界で古くから行われている、師匠と弟子の関係性に着目したものです。熟達者(師匠)は学習者(弟子)に、やり方を見せたうえで、できそうなこと(足場かけ)を少しずつやらせてみます。その過程を通じて学習者は単なる模倣ではなく、自分なりのやり方を習得していきます。

僕自身もデザインで学んだことは、座学ではなくこのスタイルでした。具体的な学習方法はこちらに書いています。

もう一組の研究、レイヴ&ウェンガーは「正統的周辺参加論」という理論を打ち出します。これは、家族、友人、他者との関わりを通じて、学習者が周辺的な位置から少しずつ中心的な役割へと変わる過程を、学習と捉えた考え方です。

知識だけあってもはじめから中心的役割を担うのは難しいです。下積みとか修行とか、会社員でもはじめOJTからはじめていくことの必要性が、この理論からわかります。

詳細については、こちらの後半の方に書いています。

というように、認知的徒弟制と正統的周辺参加論によって、ヴィゴツキーが主張していた「発達の最近説領域」を通じて、模倣から創造につなげていくことの学習の発展が見てとれます。

創造はみんなのもの

最後にもう1つ。ヴィゴツキーも子どもの学習に着目しますが、そのなかで想像力と創造について言及したものがあります。

少し長いですが、引用します。

ふつうの考え方で創造といえば、それは少数の選ばれた人々、つまり偉大な芸術作品を創造したり、科学的な大発見をしたり、技術分野で何かの改良を発明した、天才たちのものをいいます。私たちはトルストイ、エジソン、ダーウィンの活動における想像をすなおに何のためらいもなく認めますが、平凡な人々の生活におけるこのような小さな発明を創造とは考えしません。(中略)創造というものは偉大な歴史的作品を生みだすようなときばかりではなく、人間が想像し、複合化させ、変化させ、そして何か新しいものをつくりだすときはどこであろうと、またそのつくりだした新しいものが天才のそれに比べどんなときにささやかなものであろうとも、いたるところに実際に存在しているのです。

Lev Vygotsky (1930)

ヴィゴツキーは創造を、一部の天才のものではないといいます。子どもの頃から社会との関わりを通じて、想像する力を育み、学んだことから新しいものごとを生み出す行為が創造につながる、このように考えます。

ステップ・バイ・ステップで創造性を高める考えは、以前紹介した4つの創造性の分類とも深く関係します。


学んだこと

ヴィゴツキーの考えは、今日の共創とか社会との関わりを通じた学びの大切さにつながっています。

ピアジェは創造を、認識の仕方を主体的に行なっていくことで獲得できると考えました。ヴィゴツキーは創造を、近しい社会との関与や模倣を通じて獲得していけると考えました。

どちらか片方ではなく、この両面を取り入れることが、創造性の学習においてとても大切だということがわかります。加えてデューイーの実践を通じた経験も、創造性には欠かせないことです。

主体的な認識、他者との関与、実践と経験、これらが創造性学習に欠かせないことだとわかりました。

今日はここまでです。

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ジマタロ
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。