マンガの教育コンテンツ事業を考えてみた(教育コンテンツ開発)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回は、教育コンテンツ開発の授業のまとめです。自分だったらどんなコンテンツをつくってビジネスを企画するか、を考えてみました。
サービス名:まん学
考えたのは、学習マンガを使ったオンライン塾サービスです。まんがで学ぶから、サービス名は「まん学」です。
事業概要を、エレベーターピッチ的にまとめます。
次に、この案を考えた背景を紹介します。
1. 努力は夢中に勝てない
上の見出しの言葉は、元陸上選手の為末大さんの座右の銘(論語に書かれていたこと)です。この考えがサービスを発想する起点です。
努力には、本人の性格や適正などに加えて周囲のサポートも必要です。一方で、好きでやっている夢中は、周囲の期待や評価などに関係なく没頭して取り組むので、周囲の影響を受けずに続けられます。
学校の勉強は基本的に「努力すること」を求めています。努力できる生徒であれば、塾に通ったりして成績を伸ばすことにやりがいを感じられますが、勉強が合わずに努力できない、努力したくない生徒もたくさんいます。
つまり、現状の教育サービスは「努力する人を後押しするため」の人向けなので、フィットする生徒は一部に限られます。
教育コンテンツを、努力ではなく夢中にシフトすることで、あたらしい学び方の需要がうまれるのではないか?ということが、本サービスの企画を考えたきっかけです。
2. いまの学習マンガの課題
じゃあ、10代が夢中になれるものは何かというと、ゲーム・マンガやアニメ・アイドルなどがあります。
なかでもマンガは日本が誇る、ジャンル自体「質の高いコンテンツ」です。授業を受ける、授業動画を観るよりも、マンガを読んだりアニメを観る方が、生徒の関心は高いです。
マンガが持つ魅力を活かして、学習に活用している例はすで多くあります。「まんが・日本の歴史」などの本格的な学習マンガもあれば、学習を目的としていなくても、古くは「三国志」、最近では「ドラゴン桜」や「はたらく細胞」など、学びになるマンガも数多く存在します。
ただし、こういった学習マンガを読めば、学校の勉強はバッチリかというと、そうではありません。あくまで娯楽を優先とした作品なので、いまの学習マンガは授業で教えていることをすべて網羅しているわけではないし、暗記以外の領域で学習マンガはあまりありません。
いっぽうで、書店でよく見られる「マンガでわかる〜シリーズ」などの本は、教科書の入門書的な位置付けで数多く出版されています。
ところが、これらの本の多くは、娯楽マンガに比べるとコンテンツに課題があります。作画が無難な表現であったり、ストーリーが単調であったり、マンガなのに吹き出しの説明が中心になっているなど、人気作品に比べてマンガとしての魅力を感じるものではありません。
そこで、教科書を代替するような学習マンガをつくればよいのでは?と考えました。
3. 教科書を娯楽化する
教科書と同等の内容であり、娯楽マンガと同等の面白さを両立させるために、以下の体制をつくり競合が追従できないコンテンツを目指します。
a. ベテラン漫画家に入ってもらう
漫画家のスキルは画力だけではなく、見やすい絵やコマ割り、キャラクターやストーリーの魅力なども含まれます。ベテランの漫画家と経験の浅い漫画家の差はここに表れます。
マンガ教室に通っていた時に教えてもらったことですが、特に少年サンデーで長く活躍するレジェンド級の漫画家は、このスキルが顕著です。高橋留美子、あだち充、ゆうきまさみ、藤田和日郎、青山剛昌、荒川弘などの先生方は、読みやすさの質がすごいんです。
例えば、ゆうきまさみ先生「パトレイバー」の1ページ。巧妙なカメラワークとコマ割り構成で、会話のやりとりだけなのに単調にならず、途中で人が増えてもストーリーが混乱しない。すごい。プロの実力がわかります。
b. 原作に人気塾講師が関わる
近年は脚本と作画のペアによるマンガが増えています。特に対象テーマが難しく専門性や高い領域において、この体制は効果的です。では、学習分野の専門家は誰か。それは塾講師です。
人気講師は、面白くないと思われがちな授業を面白く伝える脚本家としてのスキルを持っています。こうした塾講師と漫画家を組み合わせて、編集者がディレクションをすることで3者のコラボレーションによる体制がストーリーの質に大きく関係します。
c. 連載形式にする
日本のマンガコンテンツ産業が発展した理由の1つは、週刊や月刊などの締め切りがあることだと言われています。それに加えて、雑誌内での人気を競うことで漫画家は切磋琢磨してきました。
学習専門のマンガでもこの手法を取り入れて、どのマンガの作品が人気があるかや学習効果が高いかなどを評価することによって、コンテンツの質を高めていくことが効果的と考えます。
4. 提供内容とビジネスモデル
具体的にはこのようなコンテンツの提供を考えています。
専用アプリもしくは紙雑誌
週に1-3回更新される(塾と同じ頻度)
コンテンツ最後の問題に回答しないと次週のコンテンツを読めない
読んだ内容に対して評価や感想を書き込める(理解度や面白さなど)
ビジネスモデルと皮算用はこうなります。
月額のサブスクモデル、3科目で月3000円、5科目で月4500円
中学生の場合:3万人(日本の1%)x4500円x12ヶ月=16.2億円の売上
より深く学びたい人には解説コースや個別指導を誘導する(オンライン学習塾サービスと連携して、紹介料をもらう副次ビジネス)
コンテンツはオンラインのみだが、リアルイベントやゲームなどの版権ビジネスに発展させる
東アジアと東南アジアを中心に、海外展開をする
人件費はマンガのコンテンツ開発に注力して、運営はなるべく自動化して費用をおさえる
5. ビジネスモデルと競合への差別化
ベンチマークとするビジネスは、ディズニー英語システムです。コンテンツが安売りされず、多くの子どもと親に受け入れられて、高い収益性をあげているビジネスであると思われます。
対して、競合との差別化ではこのように考えます。
塾は敵対する存在でなく相互補完の関係をめざします。「まん学」のターゲットユーザーは塾にはいきたくない、いっても学力伸びないと思っている子どもたちなので、塾の層とは重なりません。(塾と提携して、まん学から勉強に興味を持ってきた子をお誘いするという考え方もできるかもです)
進研ゼミやZ会などの通信教育サービスは競合ですが、「勉強するぞ」という意識を持たずにダラダラする感覚で使ってもらうことで、敷居の低さで差を打ち出します。学習意欲の低い子どもに対しては通信教育よりもマンガの方が関心を持ってくれます。
スタディサプリなどの動画コンテンツサービスも競合となりますが、授業風景ではなくマンガなのでコンテンツの種類が異なります。もしコンテンツが話題になっても、スタディサプリとは違って学校の先生の授業とライバルの関係にはならないので、学校の教員も好意的に見てくれる副次的な効果も期待できます。
6. 事業実現に向けた課題
大学院の授業で受けた学びに、多くの教育サービスが失敗した理由の1つはコンテンツの質の低さが要因でした。このことから学び、いかに質の高いコンテンツをつくれるか?が何よりもが重要だと考えます。
そのためにノウハウを持つマンガ出版社との企業連携が不可欠ですが、この計画は初期投資が高くなるため、資金調達や撤退に対して高いリスクを負うことになります。言い換えると参入障壁の高い事業です。
また、教育事業の起業家の多くが高学歴ゆえに見落としていた点に着目し、進学や成績優秀とは違ったアプローチを意識しました。ただし、生徒やその親から疑問や指摘には誠実に対応するため、コンテンツの効果は十分に検証する必要があります。
そして何よりも、この事業に漫画家が賛同してくれるか?という課題もあります。社会的意義を見出してくれるベテラン作家と出会うための期間は、腰を据えて時間をかける必要があると考えます。
以上が、僕が考える教育コンテンツの事業企画でした。
学んだこと
紹介した案は、ビジネスとして教育産業を考えてみるために、いま自分が研究しているテーマとは別のアイデアで考えてみました。
最初、僕はデジタルのみのサービスを考えていましたが、先生からは「小中学生はスマホが侵食していない最後の聖域であり、紙の雑誌だからダラダラ読んだり見返すことができると思う」という観点をいただきました。確かにデジタルにしないことがサービスの魅力になるのかもしれません。
自分で企画してみて、教育はビジネスとして本当に難しいことがよくわかりました。強い社会的意義があっても、慈善事業だけでは継続できません。
Cool Head but Warm Heart という言葉を友人から教えてもらいました。ビジネスだけで割り切れない領域だからこそ、一方では冷静な考えをもって取り組むことが必要だと、あらためて実感できる分野が、教育産業です。
今日はここまでです。