文理を融合する横と斜めのデザイン実践知識(実践と理論の融合)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回は前期の要の授業だった「実践と理論の融合」の最終課題を紹介します。
自身の専門領域のデザインで考えてみました。
分断しがちなデザインの現状
デザインでの実践と理論は、ビジネスの現場で活躍するデザイナーと、デザインとは何かを探索する研究者や批評家に、それぞれ分かれます。
ここがそれほど分断されている印象はありません。というのも、デザインの実践には理論が裏付けされている場合が多くあるからです。
古典的なデザイナーや建築家(例えば、柳宗理やル・コルビジェなどを想像してみましょう)は、手がけたデザインを通じて自身の理論や哲学を語り、実践と理論を結びつけていました。
しかし、2000年代から新しい要素が出てきました。文系と理系の軸です。
ここで示す文系と理系とは、人文科学と自然科学のことです。従来のデザインは人文科学よりで、いわゆるアートのカテゴリに位置付けられることが多くありました。ところが、デザイン思考の普及によって、デザインをよりサイエンスから取り組むアプローチが増えていきました。
ここに理論と実践の軸を重ねて、できた4ブロックにあてはまる言葉を、それぞれ置いてみます。理論では思想哲学↔︎方法論、実践では感性表現↔︎テクニックとします。
次にそれぞれの関係性を見てみましょう。
おたがい縦(理論↔︎実践)はつながりやすいとわかります。文系アプローチは、先に述べた古典的デザイナーの理論と混ざった実践があります。理系アプローチは、法則や汎用性をもとに理論と実践をつなげています。
縦に対して、横や斜めの関係はつながりにくいように見えます。
この分断のもとは、デザイナーは特別だと捉える態度か、デザイナーは誰もがなれると捉える態度か、の違いだと考えます。
この分断は今でも根強くあります。対して今の時代に求められていることは文理融合、STEAM教育、リベラルアーツなどの横断した視点です。そこでどうすれば、この壁を横断できるのかを考えてみました。
中範囲を設けてみる
そこで、それぞれの間にもう一つの箱を設けてみました。これで3x3の9ブロックになります。
以前、中範囲の理論を紹介しましたが、理論と実践の間だけでなく、文系と理系の間にも中範囲をつくってみることで、分断を解消するきっかけにつながると考えてみました。
まず、文系と理系の間の態度とはどんなものか見ていきます。
例えばデザインリサーチを行った場合、定性と定量のどちらかだけでなく、両方をバランスよく取り入れることが当てはまります。
統計データからユーザーが感じている課題のあたりをつける、でも潜在的な課題意識は、実際に話を聞いてみて強い気づきを得る。このような理論と実践を行き来するのが、文系と理系の間の態度です。
何かをつくるときでも同じように、主観と客観の両方の視点を行き来することが大事ではないかと考えます。
そうすると、ときに文系的な思考に、ときに理系的な思考ができるようになります。ある場合はサイエンスのアプローチで整理していこう、それでは打破できないときはアートのアプローチに振ってみよう、など。
この振り幅を持っておくと、斜めのつながりがつくれます。
例えば、これまで文系よりで創作をしていた人が、方法論を取り入れて新しい表現を試みることで、自身の感性や表現力の幅が広がったり、方法論をどう使えばよいかが分かるようになります。(職人的なデザイナーが別領域に活動の幅を広げていくようなながれ)
逆に理系よりで実践してきた人は、汎用的なテクニックを繰り返す中で自身と向き合うことで、自分なりの考えに基づいた独自の表現を発展させることができるようになります。(デザイン思考から自身の創作スタイルを身につけるようなながれ)
このように、中範囲を定めることで、文理の壁を取りはらい、理論と実践をより広い領域で活動できるのではないかと考えます。
これが僕が考える、デザインの実践と理論の融合です。
学んだこと
今回の整理で、自分がこのような横断を実践してきたことを理論的に整理することができたように思えます。
もともと自分は、お絵描きが好きなアート寄りのデザイナーでした。ですがちょっと理屈っぽい性格もあり、サイエンスのアプローチにそれほど拒否感はなかったので、デザイン思考や方法論のながれに対して、わりと自然に受け入れていました。
両要素を取り入れていくなかで、自然と真ん中の態度が形成されていったのだと思います。振り返ってみると、成り行きではありましたが、この授業を受けたことで、これまでの経験の意味を見出すことができました。
今度は「学習」の領域で、実践と理論を展開してみたいと思います。そのためのよいステップを歩むことができました。
今日はここまでです。