旺文社が切り開いた教育コンテンツのデザイン(教育コンテンツ開発)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回は授業の名前通り、教育コンテンツで産業を切りひらいた先駆者のご紹介です。
旺文社という出版社はなんとなく知っているかと思いますが、この会社を創業した人が今回の主役です。
教育コンテンツの革新者
旺文社の創業者、赤尾好夫さんの実績はこちら。
1931年:旺文社を設立(大学卒業後すぐ)
1937年:赤尾の豆単といわれる英語単語集を発売(大ロングセラー)
1952年:文化放送の創業に参加
1957年:日本教育テレビ(現在のテレビ朝日)を設立
1963年:英検を発案
1981年:放送大学の設立に貢献
すごすぎる。戦前〜戦後にかけて、学校以外での学び方の基盤をつくった人であり、これらの取り組みに影響を受けた人がのちに、Z会、進研ゼミ、東進ハイスクールなどの教育産業に発展しています。
こちらの先生の動画でわかりやすく説明を聞くことができます。(僕はほとんどこの内容をもとにテキストに落としただけです)ぜひご覧ください。
では何が教育ビジネスとしてすごいのかを、コンテンツ産業という面から整理してみます。
1.学びを食べやすくした
「赤尾の豆単」がでる前まで、英語を学ぶ方法は辞書でした。辞書を暗記したらそのページを食べるという話もあったそうです。それを受験に役立つ5000語に集約して、持ち運びやすいコンテンツにしました。累計売上は1700万部以上だそうです。すごい。
これが出た当時は戦前で、参考書というカテゴリ自体があまりなかった時代だと思います。なので、まずカテゴリを確立させたこと、そして参考書が持つコンテンツの価値、つまり教科書では得られない魅力をユーザーに実感できるクオリティで提供できたこと、の2点がビジネスとして秀逸です。
赤尾の豆単は、僕からすると本というインターフェイスをデザインした革新事例です。
2.ブロードキャストに目をつけた
いまでは珍しくないですが、当時の理解では「ラジオ局やテレビ局が教育と何の関係あるの?」と思われたはずです。この時代に、遠隔地でも学べるブロードキャストという技術に目のつけたことの先見性に驚きます。
ではこれが産業としてどう発展したのか?例えばラジオであれば、こんな3点のコンテンツを組み合わせたことで、収益を生み出します。
ラジオ配信;ラジオ講座でどこでも講義が受けられた
雑誌:蛍雪時代という受験生の情報を月刊誌で出していた
通信添削:全国模試の実力判定テストをやった
まずラジオ配信で全国のユーザーを獲得します。ラジオだけではまだ無料ですが(広告収入はあったかも)、ここに参考書を組み合わせることで、書籍購入の収益につながります。
加えて、雑誌を出すことで、受験者同士の仲間意識や動向が知れて、塾に近い性質を持つことができます。
さらに通信添削です。僕の世代では進研ゼミがおなじみですが、日本で最初にやったのは旺文社です。全国模試の通信添削は、地方にいながらでも自分のレベルを知ることができるという、双方向性の関わりがあります。
ブロードキャストでユーザー数を獲得したうえで、参考書の出版コンテンツを販売し、雑誌・通信添削によるインタラクション性を持つことで、事業が成り立っています。このビジネスモデルの鋭さは、今日のネットビジネスでも十分当てはまります。
3.資格をつくった
英検は日本で英語の実力を図る基準になっています。TOEICなどに押された時期もありましたが、いまでは学生にとっては不動の資格として確立されています。
英検がすごいのは、資格というコンテンツの価値を「ブランド」として確立させたことだと考えます。
教育のブランドでわかりやすいのは学歴や出身校です。ここはあまり民間が手を出せるところではありませんが、資格であれば可能です。かつそれを、◯級という階層で示すことによって、誰でも取得ができて(大学は入れる人しか取得できない)、自身の実力をわかりやすくアピールできます。
ブランドは古びません。なので、仕組みができてしまえばビジネスは自動的にまわります。
英検は、毎年全国で何回もテストが行われて受験料を集め、そのための参考書やコンテンツなどが売れて、進学や履歴書などで証明できるから、学校も受験を推奨する、という仕組みで産業が成り立っています。
学んだこと
あらためて、コンテンツとして何がすごいのか?をまとめてみます。
参考書という食べやすいコンテンツ
放送という多くの人が享受できるコンテンツ
実力をブランドで証明するコンテンツ
教育コンテンツにはたくさんの可能性があります。そして、コンテンツを広義の意味でどうデザインするか?がビジネスとして、とても大切な役目をもっているといえます。
今日の教育コンテンツには、継続できずに終了してしまったものも少なくありません。ビジネスとしての成否がどこにあるのか?を考えるうえで、旺文社の先行事例から学べることはたくさんあるはずです。
今日はここまでです。