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カタカナロゴ制作未経験のデザイナーが、カタカナロゴを作るときに考えたこと。
カタカナロゴってつくるの難しくないですか。
自分はこれまでアルファベットでロゴを作成することが多く、カタカナでロゴを作ったことがほぼありませんでした。そんな私がどのようにカタカナロゴと向き合ったのか、ここで打ち明けさせてください。
カタカナ反対運動
弊社が提供するSaaSプロダクト「スピーダ」のリブランディングに伴い、「新しいロゴはカタカナでいく」と聞いたその日の夜、私はスピーダという名前の医薬品のパッケージをデザインする夢を見ました。
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夢の影響のせいかロゴ制作のモチベーションを上げることができず、気が付けばカタカナ反対運動に必死になっていました。
なぜこのような行動に出たのか。なんとなくダサいから?・・・
いえいえ違います。それは、カタカナという文字の造形的特徴が大きな理由にあります。
カタカナとアルファベットの違い
たづがね角ゴシックを例に見てみます。「スピーダ」を横に組んでみると高さや幅がそれぞれ異なり、その絶妙なバランスによって文字が成り立っていることがわかります。それに対してアルファベットの「Speeda」は、文字の高さや幅に一貫性があり造形的に安定感があります。
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この造形的な安定感があることでロゴとしての佇まいが形成しやすくなる(気がする)のですが、カタカナ「スピーダ」で成立させようとするとなんだか難しい。行き詰まった私はカタカナ反対運動を続けることにしました。
読む書体と見る書体
(反対運動はさておき)それではどのようにしてカタカナに造形的安定感を与えロゴとしての佇まいを形成すればよいのでしょうか。
ちなみに、書体研究家・佐藤敬之輔氏の「カタカナ商標文字の設計項目」によると、「読む書体」と「見る書体」の移行段階があるとのこと。(佐藤敬之輔氏は「文字のデザインシリーズ」などの書籍が有名ですね。)
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なるほどよくわからん。ただ、「読む書体」としてではなく「見る書体」として図形的特徴を加えることで文字に安定感を与え、ロゴとして成立させることができるかも。
そう思った私は、この解釈を参考にカタカナにジオメトリック(幾何学)要素を取り入れるという方法で解決しようと考えました。
・・・が、これまた注意が必要です。
それは、一歩間違えると「時代を感じる書体」になってしまう可能性があるからです。(1960年から80年代にかけて、まさにジオメトリックな特徴を持つ日本語書体が流行したのも関係しているように思えます。)
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ちなみに、左)UDタイポス:前身である「タイポス」は1965年に登場。
中央)ニタラゴ:前身である「タイプラボ・ゴシック」は1985年に登場。
右)ヘルムートシュミット氏によるカタカナ書体「エル」は1968–71年に登場。棒引きのクセ。
昔の看板とかでカタカナ文字よくありましたよね。こうした傾向によって、自然とカタカナそのものに対してレトロな印象を抱く人も多いのではないでしょうか。なんだか、また振り出しに戻った気分です。
理想的なカタカナ
「造形的な安定感がありつつ、時代を感じさせないカタカナ」という難題に直面し再びカタカナ反対運動の準備をしようと思ったその時、とある書体が脳裏をよぎりました。それが今回「スピーダ」のベース書体となった「Shorai Sans(ショウライ・サンズ)」です。
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1970年から80年代の日本語ゴシック体に大きな変革をもたらした書体デザインの第一人者、
中村征宏氏を制作メンバーに迎え、Monotypeの小林章氏、土井遼太氏の3人によって
デザインされました。(詳しいフォントストーリーはこちら)
この書体は「Avenir Next(アベニール・ネクスト)」というジオメトリック書体を元に開発され、造形的安定感がありながらも現代的で洗練された美しい曲線が特徴です。急転直下、まさに今回のカタカナに求める要素が備わっていると感じました。何より、もうカタカナ反対運動をしなくていいんだと安心しました。
さらに、書体名の「Shorai(ショウライ)」は、松の枝を吹き抜ける風や音の意味である「松籟(ショウライ)」に由来しています。この軽やかなスピード感と日本的で優雅な響きが、カタカナ=日本語のシンボルを掲げていくこれからの「スピーダ」にぴったりだと思いました。書体のストーリーとブランドの方向性がマッチしているのもポイントです。
こうして、紆余曲折がありながらも「Shorai Sans」をベース書体としてロゴ開発を進めることにしました。
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書体の方針が決まってからは、プロダクトデザインチームも巻き込み、UIでの見え方などを考慮しつつカタカナの造形の検証に取り組みました。可読性を高めるためにユニバーサルデザイン書体(UD書体)の考えを取り入れたり、より洗練した印象を与えるために0.1mm単位で形状に変化を加えたりなどなど、元のイメージは崩さないように知識、経験、感覚、技術をフルに活用してカタカナをデザインしていきました。ご協力頂いた皆様ありがとうございました。
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おわりに
一部端折りながらではありますが、こうした経緯を経て新しいスピーダロゴの書体は作られました。どのように考えて作られたものなのか背景を知ることで、これまでとはまた違った印象でロゴが見えてきませんか?
今後もスピーダのリブランディングの裏側について少しづつご紹介できればと思いますので、ぜひ見ていただけると嬉しいです。ではでは、次回もお楽しみに。
筆者プロフィール
南澤 裕文/スピーダ ブランドデザインチーム・デザイナー。千葉工業大学大学院を卒業後、株式会社AXISを経て、2022年に株式会社ユーザベースに入社。
その他の記事はこちらから!ぜひご覧ください!
第1弾「スピーダ リブランディングの軌跡」
第2弾「デザインに集中するためにチームで取り組んで良かったこと・失敗したこと」
第3弾「スピーダの赤色を探す旅」
第4弾「カタカナロゴを作るときに考えたこと」
第5弾「膨大な営業資料のデザイン刷新してもらった話」