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モバイル電子申告率が劇的に急上昇した理由 ~2020年度の確定申告をfreeeはいかにデザインしたのか?~

自営業、フリーランスのみなさんにとって、1年に1度の超面倒くさい恒例行事といえば……そう、確定申告です。

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その確定申告の電子申告が、スマホアプリでできるようになりました。電子申告によって、自宅から確定申告を完了できることで人同士の接触が減ります。新型コロナウイルス感染拡大を防止の観点からも意義深いことですし、そもそも税務署の長蛇の列に並ばなくて済むのもメリット大ですよね。

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確定申告の世界がまた1段進化したわけですが、実現にいたるまでにどんな議論が交わされ、デザインの試行錯誤があったのか…は関係者以外はわかりません。

申し遅れました。私、freeeマジ価値デザイン研究所の研究員です。

うなぎ登りの電子申告率のウワサを聞きつけ、freee社内を調査すべく、関係者にインタビューを敢行します!


〔 登場人物 〕


るーさとさんのアイコン

るーさとさん:申告freee担当のプロダクトマネージャー(2020〜2021年当時)。2020年度の確定申告対応では、電子申告アプリ全般を担当。公認会計士・税理士。監査法人で会計監査/内部統制監査に従事した後、freeeに入社。


グレさんのアイコン

グレさん:モバイル担当のプロダクトマネージャー(2020〜2021年当時)。2020年度の確定申告対応では、電子申告アプリの企画、Webからアプリにつながる基本体験設計を担当。freee入社前は、大手印刷会社やメディア企業でのプロダクト企画をやっていたそうです。


マイマイさんのアイコン

マイマイさん:グロース担当のプロダクトマネージャー(2020~2021年当時)。2020年度の確定申告対応では、チーム横断で会計freeeから電子申告アプリまでの体験設計を担当。
前職の受託制作会社では、PM/UXデザイナーとして多くのプロジェクトで企画からUI設計に携わっていたそうです。


イケダさんのアイコン

イケダさん:UX/UIデザイナー(2020~2021年当時)。2020年度の確定申告対応では、電子申告アプリのUIデザインを担当。サービス事業会社3社で重要なポジションを経験後、デザイン会社を設立。数年前からfreeeの色んなサービスを手伝ってくれています


そなこさんのアイコン

そなこさん:グロース担当のUXデザイナー(2020~2021年当時)。2020年度の確定申告では、マイマイさんとともに、モバイルアプリを使った電子申告をスムーズにするための会計freeeのデザイン改修を行いました。freeeに入る前は、様々な業種・業態の企業の PRを目的とした 、webサイトの企画、デザイン、コーディング、出版物など分野問わず行っていたそうです。


研究員のアイコン

研究員:freeeマジ価値デザイン研究所の研究員。freeeのプロダクト(サービス)を、より使いやすくするためにはどうしたらよいのかを、日々研究しています。




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確定申告の電子申告に本格的に取り組んだ2020年度


研究員

2020年度版の確定申告機能の開発って、いつ頃から始まったんですか?


グレさん

キックオフは4月から5月にかけて、でした。去年はコロナの影響で確定申告の〆切が伸びたので、確定申告シーズンがまだ終わってなかったタイミングでのキックオフでしたね。


研究員

前年の確定申告時期がまだ終わっていない段階なのに、キックオフしたんですね。かなり先走っている感もありますが、なぜそうしたんですか?


るーさとさん

「電子申告にガッツリと取り組みたい」という意思の表れです。法改正など国による電子申告推しの流れがあり、さらに控除があるのもわかっていましたし、「やるなら今年だ!」となりました。

ちなみに、2019年度には、電子申告が伸びるという仮説のもと、電子申告開始ナビというサービスをリリースして、けっこうヒットしたんです。freeeとして、電子申告に本格的に取り組むことができたのは、19年度の成功で自信を持てたからというのはあります。


研究員

国による後押しというのは大きいですね。


るーさとさん

国税庁の方でも電子申告の浸透にかなり力を入れていて、freee主催の電子申告に関するイベントにも参加してくれたりしました。

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イベントは『おうちで電子申告やろう』ってテーマだったので、おうちっぽさを表現するためにコタツを用意して、DSさん(freeeの創業者、CEOである佐々木大輔。社員からはDSさん、大輔さんと呼ばれてます)と国税庁の人が同じコタツに入る…というかなりカジュアルな演出に乗っていただけるなど、今までにない前向きさ?を感じました(笑)。




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電子申告率が一気にウン倍にアップ?!


研究員

2019年度の確定申告の時点で、電子申告はそれなりに浸透していたんでしたっけ?


るーさとさん

いえ、電子申告率は低く、数年ずっと横ばいでした。

理由は「郵送の方が手っ取り早かったから」というのが、調査からは見えていました。ユーザーさんからすると、「今のやり方のままで問題なかった」し、PCで電子申告するのは大変だったこともあって、浸透率はまだまだでしたね。


研究員

今年の手応えはどんな感じです?


マイマイさん

ここまで伸びるのは予想外でした。電子申告するには、マイナンバーカードを保有する必要があるのですが、保有率が全体の10%程度という数字が出ていたので、嬉しい誤算です。

ただ、過去のデータから、電子申告の割合が下がる傾向にあるのは把握していました。1月4日から確定申告が始まって、4月で締め切り…の流れで、4月に近づくほど申告する人は増えていきます。

2~3月に確定申告を行なっているのは、締め切りまでの時間の余裕があるのもあってか、新しいやり方をすることにモチベーションが高い人が多いです。


研究員

振り返ってみて、今回の成果の要因は何だったと思いますか?


るーさとさん

追い風は2つあって、ひとつは先程も挙げた、「法改正などの国による後押し」です。なかでも大きかったのは、電子申告による10万円控除が増えるのが2020年度からという点。つまり、時流の波に乗ったんですね。

もうひとつは、「freeeでスマホから電子申告ができる」ようにした点。iPhoneでNFC読み取りができる技術的な後押しがあったからです。

2019年度まではカードリーダーの準備が必要だったので、それと比べるとセットアップがシンプルで、これまでやっていた人からすると、「こんな簡単にできるの?」と驚かれたと思います。


マイマイさん

スマホから電子申告という点で言うと、電子申告アプリへの移動をできる限りわかりやすく、スムーズになるようにデザインしたことは、けっこう大きいと思います。




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ユーザーに考えさせない、立ち止まらせないデザイン


研究員

お、良いですね。デザインで力を入れたところをもうちょっと聞かせてください。


マイマイさん

例えば、簡単に電子申告にできそうなデザインにできたこと、ですね。今までの確定申告は、文章量の多い画面でした。電子申告でも、ユーザーさんにやってもらう作業は変わらないので、極力、必要なことのみを表示するようにしました。

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ユーザーさんが「どこまで進んだのか」「作業が完了したのか」がわからない現状があって、情報の取捨選択によって交通整理をしたイメージです。

具体的には、PCとモバイルのどちらで電子申告をするかによって、進めたときに表示するコンテンツを分けています。アコーディオンの形にすることで、「必要な情報を必要な人に見せる」仕様に変更しました。

情報量を引き算することで、「表示されている操作の一区切りは、どこまでで1セットなのか」がわかりやすくなり、直感で操作しやすい仕組みになりました。


グレさん

電子申告アプリで言うと、アプリを作るだけでなく、どのようにユーザーさんに遷移してもらうか…の体験設計は気合を入れて設計しました。

書類のデータ、仕訳のデータを入れてもらって、最後に電子申告アプリを入れて申告する、という流れで、今回は別アプリで作っているのもあって、スムーズかつ迷わず行けるようにする、を実現できるようにしました。

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たとえば、PCで最後にインストールを促す表示を出す体験設定をしたり、QRコードを読み込む→アプリが立ち上がって電子申告できる…ようにしたり。


そなこさん

画面をいくつも遷移させてしまうと、ユーザーに「これって何?どういう意味?」と、いちいち立ち止まらせてしまいます。そうならないよう、ストレスなく自然に進められるように設計した結果、ですね。

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研究員

それって、確定申告だけではなくfreee全体にも当てはまる考えですか?


そなこさん

ですね。他のプロジェクトでも、できるだけわかりやすい言葉に言い換えたり、今やらなくて構わない作業は、取捨選択にしたり。

たとえば、その情報は必要な人はいるかを考えて、ヘルプページに飛ばすこともあります。不親切にならない程度に、無意識に受け入れられる絶妙な情報量のバランスを目指しています。


研究員

情報量って多すぎても少なすぎてもダメなので、さじ加減が大事ですね。


イケダさん

デザインそのものという話ではありませんが、私がfreeeに来る前に関わったプロジェクトと比べると、毎回ドキュメント化されていて、デザインなどの要件を固めるやり方が「型化」されている印象があります。

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開発のプロセスにおいて、作るもののコンセプトも非常にハッキリしてるので、デザインしやすいし、作る上でも不整合が起きにくいと感じます。

今回参加した電子申告アプリ制作に関わらず、どのプロジェクトに参加しても、おおむね同じ流れがありますね。




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B向けサービスとC向けサービスって、デザインの仕方は異なる?


研究員

デザインしやすくなっているというのは面白い視点ですね。それって、コンシューマー向けのサービス(C向け)かビジネス向けのサービス(B向け)かで生まれる違いなんですか?


イケダさん

モノによりますが、B向けは「要件を満たさないと、サービスとして成り立たない」ことが多い。C向けの場合は、要件が予めはっきりしていない機能もあるけど、B向けの場合は、そういう曖昧さは許されません。よって、そのためのドキュメント化がしっかりなされていて、Yes/Noをはっきりさせる必要性はありますね。


研究員

つまり、B向けの方が考慮すべき要素が多い?


イケダさん

考える観点が思った以上に違います。仕様が一転二転してしまうことは、C向け、B向けどちらでもありますが、C向けの場合は、ユーザーに触ってもらいながら、使い方も提供する価値も探っていく…というのがけっこうあって、デザインの観点で言うと、実験的にリリースすることも多かったりします。

あと、B向けサービスはその業務の経験をしてないとまったく想像できないことが多く、普段の生活での体験の延長線上では作れないケースがほとんど。専門的な領域が多いので、意識的にそれについて学んでいかないとできません。

たとえば、確定申告をやったことがあるだけではなく、法律や制度の変化を含めてどのような仕組みになっているのかなど、確定申告について満遍なく理解していないと、確定申告に関わるサービスのデザインをするのは難しいです。


そなこさん

私は個人事業主歴が長くて、もともとfreeeユーザーでした。デザイナーになる前は経理をしていたこともあります。ですので「経理のことはけっこうわかっているよ、フフフ…」と自信を持って入社しました。

が、じつはそれは考えが甘く、自分のやっていた経理のレベルが低かった…ことを思い知らされました(笑)。


研究員

あぁ…(何かを思い出し、遠い目になる)




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作ってリリースして終わり!…ではない


研究員

リリースされた完成品しか知らないユーザーには見えない部分で、相当な労力と時間をかけて試行錯誤されているんだなというのは、分かってきました。

そうやって、さんざん頑張ってリリースしても、実際に確定申告の期間になって「使いにくい」とか「分からない」、「できない」といった声が上がることもありますよね?そんな場合はどうするんですか?


るーさとさん

リアルタイムで改修しますよ。過去の確定申告でも、リリース→フィードバック→改善のサイクルは回してきました。今回の2020年度版だと、まだ出して間もないのですが、マイナンバーカードの読み取りの部分とか、すでにいくつかか済ませています。


研究員

リアルタイムでやるんだ…。となると、確定申告期間中の2月~4月半ばまで、関わっているチームメンバーはソワソワするとか、土日も落ち着かない日々が続くのでは?


るーさとさん

そうでもないです(笑)。サポートチームに問い合わせがきたら、コミュニケーションツールでフォードバックを起票し、1~2営業日でエンジニアが回答する体制ができていますから。

ただ、以前ほどフィードバックは来ておらず、最近は安定しています。自動で経理と並ぶくらい歴史があって、ある意味完成系に近い。ソフトによって熟練度が違いますからね。

『自動で経理』とは
会計freeeのメイン機能の1つで、銀行やカードのWEB口座を連携することで、会計freeeに明細を取り込み、明細にある情報を元に自動で勘定科目を推測し、仕訳を作成するものです。


研究員

他に、デザイン改善をする際に参考にするものってありますか?


マイマイさん

私が普段やっているプロジェクト(注釈:そなこさんと一緒にやる事が多いそうです)だとA/B テストをよくします。小さな機能とか、一画面での修正など、軽微なデザイン修正はA/Bテストして良い方にしていくことが多いです。そのために、A/Bテストができる機能を、プロダクトの中に埋め込んでいます。

あとは…、広く社内の他チームの人に見てもらって、フィードバックをもらうこともあります。

『A/Bテスト』とは
同じ画面で、表示されている情報やデザインが違う物を用意し、どちらをユーザーに表示すると高い成果が得られるかを検証する手法です。


研究員

ユーザーの知らないところで、そんな細かいチューニングをしているんですね。


マイマイさん

大規模な改修、ホーム画面の全面リニューアル、ユーザーインタビューやユーザーテスト、何を目標にするかによってその時その時でやり方を変えています。もちろん、A/Bテストではビジネスインパクトにつながるように、厳密に数値を取得しています。


研究員

リリース後の改修はありつつも、現時点では大成功に思える2020年度の確定申告ですが、あえて反省するとしたらどんな点がありますか? 


るーさとさん

ただ電子申告アプリを作るという単純な話ではなく、会計freee含めて、もっと早い段階で全体の設計をチーム横断ですべきだったかなと。

例えば、確定申告を準備する手前の時点から、電子申告を認識してもらえるように訴求する必要がありました。つまり、「確定申告をどうしようかな?」というスタートから、「電子申告をし終わる」のゴールまでの体験を、もっと広く見据えられればよかったと感じています。


研究員

2020年度の確定申告はまだ終わっていないので気は抜けないかもですが、とりあえずお疲れ様でした!

確定申告シーズンが終わったら、改めてお話を聞かせてください!




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編集後記


研究員

何気なく使っているスマホアプリの裏側で、様々な試行錯誤が重ねられ、多くの汗が流れていたことに驚きを隠せません。これからfreeeアプリを使う際は、感謝の念を込めてタップしようと思います。

ちなみに、2020年度の確定申告の申告期間は、2021年(令和3年)4月15日(木)まで。これから申告書を作成するぞ!という方は、モバイル電子申告をチェックしてみてはいかがでしょうか。



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