街と自発性 「選択したい生き方」
こんにちは、デンソー先行デザインチームの平賀です。今回はデンソーの幸福研究が先行している事業分野についてお話したいと思います。
先端農業事業から幸福に
都市に関連した事業はモビリティがその筆頭になりますが、自発性の向上という文脈では農業分野で研究が先行しています。これは直接のユーザーを中小企業や個人といった方々を想定しているためで
農業の自動化によって生まれた余暇時間をどうデザインすれば、個人の幸せにもっと貢献できるのか?
という視点から始まっています。
前回までの幸福研究の話を踏まえると、ポジティブ心理学や自発性といった要素を取り入れることで人の幸福度が向上する可能性が見えてきました。
仮にこれを農業UXに組み込むとどうなるかをまとめたのが以下の表です
PERMAの5要素は本来順番を持ちませんが、カスタマージャーニー上でうまく分布できそうだったので一連の流れとしてまとめています。
機能的な部分だけ見るとメディア、ゲーム、コミュニティというバズワードが並んでいますが、これらの分野が心理学などの人間研究を早くから活用して成功したと考えると納得感があります。
仕組みの前に、「どう生きたいか」を考える
では単純に、自動化された農業にメディアとゲームとコミュニティの機能を持たせれば、ユーザーは新しいことを自発的に始めて幸せになるのでしょうか?
私は直感的にはNOだと感じています。仕組みの前にまず動機というか、人の自発性をドライブさせる核のようなものが必要だと思います。
ここで少し私個人の話をします。私が人生で最もPERMAを感じた時間の一つは「美大生」の時だったと思っています。
日がな一日課題について考えて手を動かし、周りの生徒も閉門時間ギリギリまで作業。見知らぬ人とも作品を通じて会話をし、門限で警備員さんに追い出されても近くの居酒屋に移動して延長戦を行う。
この一連の体験は自発性も没頭も関係性も存在する、確かなPERMAの状態でした。
ではこの体験を得るに至った一番の要因はなんでしょうか?美大の授業でしょうか?学友の存在?リッチな設備?門限にゆるい時代性?
どれも要素として重要ですが、一番の答えは
「私がそう生きたいと望んだから」
です。もっと正確に表現すると「ハチクロのような世界線で生きていたかったから」ともいえます。
そう当時を振り返るに、こんなモノが作りたいとか、どんなデザイナーになりたいとか以上に、「ハチクロのような生き方がしたい」という最初の強い動機があり、それに必要なものや自分に合う行動を選択し、自分の体験を形成していったのですね。
ここまでの話はあくまで私個人の経験によるものですが、
「どう生きたいか」という選択基準は一時の利便性や快楽より重要度が高い
ということは、世間一般の人にも言えるのではないでしょうか? また「こういう生き方がしたい」という動機は、漫然と何か新しいことを始めたいという動機より、強く自発性を引き出すのではないでしょうか?
農業がある生き方を選択してもらうには
ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学のnudge理論は「人にとってより重要度の高い選択が選びやすくなる未来」を目指していますが、それを実現するための技術は今後多く生まれてくることが予想出来ます。誰もが望む生き方を、もっと簡単に選択できる時代がやってくるでしょう。
そう考えると、我々がまずすべきなのは「こんな生き方をしたい」と思える農業のある新しい暮らしを描くこと、そしてその障害になる事象をサービスや技術で解決していくことなのではないかと思っています。
次回以降は「こんな生き方がしたい」と思える暮らし、特に農業のある暮らしを、取材や実験を通して、私が思いつくなりに描いていこうかと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。