#9,自閉症児の人生を左右する大人達
普通学校から特別支援学校への移行は日本ではどのように行われているのだろうか。
私の住む国では、前述したように、福祉システムの落とし穴で待機時間が非常に長くなり、必然的な不登校時期が長くなるという本末転倒なことが起こってしまっているのが現状である。
息子も、最初の年は、半年間家での待機時間、プラス療養期間を経て、初めての特別支援学校へと足を運ぶことになるのであるが、スムーズには行かなかった。
まずは、環境に慣れるところから始めなければならないため、学校訪問を数回続け、空いた教室を借りて、コンサルタントと2人での時間を過ごすことから慣らしていった。日本で言うところの保健室登校といったところなのだろうか…
ラッキーなことに、その時のコンサルタントの青年は、息子にとっては大変良いマッチングで、彼をロールモデルにして、息子は少しずつ新しい学校での活動範囲を増やしていき、普通学校に行かなくなってからちょうど1年後には、コンサルタントと一緒に頑張って通学出来る日が増えてきていた。
でも、とてもアンラッキーだったのは、息子のクラス担任が普通学校から転勤してきたばかりの新しい先生で、特別支援についての知識が極端に乏しい先生であったことだった。
クラスは全員で6人。担任1人に養護教員2人が入れ替わりで子供たちの面倒を見てくれていた。しかし、息子が転校と同時に懐いていた2人の養護教員が、その後すぐに産休に入ってしまったのだ。息子はここでも、周りの大人の環境にはあまり恵まれなかった。
そして、付け加えておきたいのは、息子が新しい学校に頑張って通おうとしていた時期は、私がちょうど乳癌が発覚して集中的な抗がん剤治療が始まった頃のこと。
心が繊細な彼は、また必要以上に新しい学校にも「頑張って」過剰適応しようとしてしまっていたのだった。今思えば、彼なりに、母親の闘病に精一杯協力しようとしてくれていたのだろう。
そして、私にとっても、半年以上に及ぶ辛い抗がん剤、そして手術、そのあとの放射線療法と長く苦しい治療が続き(それについては又書こうと思う)少しでも学校に行ってくれる日が増えて大変有難く思っていたのだった。
そんなある秋の日に事件は起きた。
課外活動の大好きな息子は、その日のツアーに出かけるのを楽しみにしていた。学校から私用のマイクロバスで近くの森へ出かけたのは、担任と養護教員1人、そして子供たち4人。
森の中での焚火を使ったおやつを作って食べたあと、車に戻る途中で、息子は歩き疲れてしまったらしい。
もともと感覚刺激障害が強い息子は、長時間新しい活動をしたり、長距離を歩いたりするのは苦手だ。歩き疲れた息子は、途中で座り込んで歩かなくなってしまったらしく、それも日常で良くあることだった。
1人の養護教員と他の子供たちは車を取りに駐車場まで歩いて行ったらしい。そこに残されていたのは、息子と、彼が苦手とする担任教師。そこで、いったいどんな会話が行われたのか、そして、担任がいったいどこに居たのか、そして息子が1人でどれくらい待たされていたのか、今となってはわからない。
ただ、わかっていることは、息子はそこで1人ぼっちに置き去りにされてしまったというのだ。そして、大きな岩に座って泣き出してしまった息子を見つけた散歩中の年配女性が、息子に名前と学校名を聞き、そして学校に電話がかかり、学校側から迎えの車が来て、そこから全員が一緒に帰って来たらしい。
らしい、、、というのは後から私達が校長に呼ばれてその時の詳細を聞いたからである。その日迎えに行った息子は、泣きはらして目で「もう二度と学校へは行かない!」とその怒りを私にぶつけてきた。
もともと、担任とは折り合いが合わなかった息子は(その先生は他の子供たちとも上手く行っていなかった)、その事件を機会に「もう絶対に学校へは行かない」と決めてしまい、そしてその言葉の通り、ニ度とその学校には行くことはなかった。
そのあとの、学校側とのやり取りは、とてもストレスフルなもので、あまり詳細を思い出したくはないが、その担任は結局、息子が学校に行かなくなってから数か月後に学校側から解雇されたと、同じクラスの母親から聞いた。
息子はその後、またしても2回目の長い不登校期間に入ってしまったのだった。その学校で1つだけ得られたことといえば、クラスの1人の男の子と仲良くなり、その後学校に行かなくなってからも、何回も家を行き来して遊ぶ仲になったことだろうか(残念ながら今は途切れてしまっているが) 。
自閉症の子供たちにとっては、幼いころからの養育環境、特にどんな大人が自分に関わってくれるのかということが、彼らの人生を大きく左右してしまう。そのことを療育者、教育者、そして私たち親も含めて良く良く知って対応していかなければならないと改めてこの記事を書いていて強く思う。
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