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世界初!サブテラヘルツ帯のオムニアンテナについて聞いてみた

「5G」って一般的になってきましたよね!
総務省の調べによると5Gの人口カバー率は2024年3月末で98.1%とのことで、着々と5G環境が整備されています。

そして、その先にあるのが「Beyond5G(B5G)」「6G」
正直、「5Gになったのも最近で、B5G、6Gって言われても…」
という感じなんですが、その6Gで利用が検討されている電波=
「サブテラヘルツ帯」の研究が当社で行われていて、しかも…
世界初!?のアンテナを開発したとのビッグニュースが舞い込んできたので、
当社のサブテラヘルツ帯アンテナの研究者に話を聞きに行きました。


サブテラヘルツ帯オムニアンテナ開発者 市川さん

はつらつとお話してくれた市川さん!

R&D統括センター ワイヤレス研究所 アンテナ開発課 市川舜太
2020年当社入社
入社以来、移動通信用アンテナや電波伝搬の研究・開発に従事。
今、ハマっていることは登山。
最近では山形の鳥海山、青森の岩木山、日光の男体山を踏破。
座右の銘は、「毎日成長」
「昨日より今日、今日より明日」と日々精進しています。

まず、サブテラヘルツ帯とは?

--市川さん!初歩の初歩で申し訳ないんですが、「サブテラヘルツ帯」って何なんでしょうか?

約100~300GHzの周波数帯のことを「サブテラヘルツ帯」と言います。下の表で言うと、「サブミリ波」に含まれる帯域ですね。
ちなみに約100GHz~3THzの周波数帯のことを「テラヘルツ帯」といい、それの少し下なのでサブテラヘルツ帯という感じですね。
さらに言うと、日本の電波法では3KHz~3THzが電波として扱われていて、3THz以上は、赤外線などの光、X線などの放射線として扱われます。

電磁波の種類とサブテラヘルツ帯の位置

--なるほど。そのサブテラヘルツ帯なんですが、なぜ6Gでの利用が検討されているんでしょうか?

6G時代では、より高速に、より多くのデータ量を送る必要があるためです。
一般的に、周波数帯が高くなればなるほど高速かつ多くのデータを送信することができます。
サブテラヘルツ帯については、5Gのミリ波(28GHz帯)と比較すると10倍の通信速度が期待できるといわれています。

--10倍!5Gでも速いなと思ってたんですが、より高速になるんですね!

COPILOT画伯による「6Gが普及した未来」
車も自動運転なのかな。ドローンもいっぱい。
電柱・電線が無いってことはWPTも!?


なにが「世界初」?


--で、サブテラヘルツ帯のアンテナの開発が世界初とのことでしたが、それって本当なんですか?

厳密にいうと、サブテラヘルツ帯の「オムニ」アンテナの開発が世界初となります。

--ん?「オムニ」とは何でしょうか?

「オムニ」とは英語では「omni」と表記し「全体の~」とか「すべての~」という意味です。
「オムニアンテナ」となると「無指向性アンテナ」という意味で、アンテナを中心として全方向360度に電波が放射されるアンテナを指します。

サブテラヘルツ帯のアンテナとして「指向性のある」アンテナは存在していましたが、一定範囲しか電波が放射されないアンテナでは、携帯電話等の電波とつながる機器として必須の機能である「移動しながらでも電波がつながるかどうか」という検証ができないという問題がありました。

なので、こうした検証を行えるようにするために、当社はサブテラヘルツ帯のオムニアンテナの研究を進め、世界で初めて開発に成功しました。

ちなみに「世界初」というのは、この研究開発を行うにあたって国内外の専門誌や発表を可能な限り精査し、同様の事例が発見できませんでした。
よって、「世界初」としています。

--なるほど。そういうことですね。

さらに、アンテナから放射されるパターンとして「垂直偏波」と「水平偏波」というがあるのですが、
垂直偏波については2020年度に、水平偏波については今年度(2024年度)に開発を完了しました。

--垂直偏波のサブテラヘルツ帯オムニアンテナも世界初?

そうですね。垂直偏波のオムニアンテナについても実は世界初でした。

--!!!!!!世界初が2つもあったんですね!!!!!!

水平・垂直偏波について。イメージがわけば幸いです!

--そもそも、なんで水平・垂直偏波と2パターンのアンテナが必要なんでしょうか?

水平偏波と垂直偏波で電波の「ふるまい」が違うということが、先行研究で明らかになっていました。
なので、どういった違いがあるのか、ということを明らかにするために、水平・垂直ともに開発したということになります。


サブテラヘルツ帯アンテナの実機とは…

--なるほどなるほど。で、あの、そろそろ実機を見させて頂けませんでしょうか?

はい、お待たせしました。こちらが、サブテラヘルツ帯水平偏波のオムニアンテナです。

サブテラヘルツ帯水平偏波のオムニアンテナ
実機での開発が完了したばかりの貴重なアンテナ!

--おおっ!これが、世界初!って、思ったより小さいですね…ちょっと、500円玉と比較してみましょう。

500円玉との比較。一回りくらい大きい感じ。

--なんか、勝手に巨大なものを想像してました。なんでこんなに小さいんですか?

一般的に、高い周波数を出すためにはアンテナが小さくなります。サブテラヘルツという高い周波数を出すためにはこの大きさとなります。

--ほう。で、これお値段はどれくらいするんでしょうか?

うーん、ちょっと、具体的にはお話しできないんですが、それなりのお値段となります。
というのも、ねらった偏波を出すためには電波の通り道である導波管特殊な加工を施さなければいけません。
そこで、このアンテナの小ささとなると導波管も小さくなります。
導波管も含めた各箇所への加工は数10㎛の精度が必要とされるため、相当の技術を要するというのはご理解いただけるところかと思います。

また、実機の製作に入る前に机上でのシミュレーションを行います。
このシミュレーションを高精度に行うことで、実機も高い精度で製作することができます。つまり、シミュレーションもとても大切なプロセスの一つです。

--高精度なシミュレーションとそれを実現する職人芸。まさに、当社のノウハウ・技術力が結集された逸品なんですね。

研究の話になるとチカラが入ります!


AP研での若手奨励賞受賞!

--ところで、この水平偏波オムニアンテナのシミュレーションに成功した…ということで、国内の電子工学・情報通信研究の権威である電子情報通信学会の分科会の「アンテナ・伝播研究会(以下、AP研)」で、「若手奨励賞」を受賞したそうですね?

はい。シミュレーションには苦労しましたが、それが報われた思いです。
また、尊敬する先生やエンジニアの方が多数在籍するAP研から栄誉ある賞を頂くことができたのはとてうれしく思います。

AP研 2023年度下半期 若手奨励賞 賞状
※印章等の関係上、あえて不鮮明にしております。

--市川さんからするとAP研に在籍する方々というのはどのような感じなんですか?

なんていうか、アイドルみたいな感じですかね?学生の時から研究の参考にしている学術書の著者が目の前に!?って感じで、会合に参加する度に勝手に興奮しています!

--なるほど!市川さんにとってAP研の会合は、ファンミーティングみたいな感じなんですね!

はい!なので、今後もAP研やその他の関連学会で定期的に良い発表ができるように、研究に取り組んでいき、盛り上げていきたいと思っています。

今後の展開は?

--この世界初のサブテラヘルツ帯オムニアンテナですが、今後どのようになっていくと考えていますか?

これらのアンテナが6Gでの標準化に向けて、伝搬実験用途で使用されていってほしいと考えています。

まず、2024年現在は、6Gの「標準化のための伝搬実験フェーズ」と捉えています。今後は「エリア設計のフェーズ」に移行し、2035年ごろに6Gが本格化していくと考えています。
つまり、サブテラヘルツ帯の利用も含めて6Gが本格化していくのは、10年先だと考えています。

そのための一歩として、このアンテナが伝搬実験用途で広く使われていく…
となったら開発者としてはうれしいです。

6Gの事業化に向けたスケジュール(当社イメージ)


今後どのように関わっていきたい?

--市川さんご自身は、今後6Gにどのように関わっていきたいですか?

今後、サブテラヘルツ帯の6G利用検討が進むにつれて、さまざまな課題が出てくると思います。課題をしっかりととらえ、それらを解決するようなサブテラヘルツ帯のアンテナを開発していきたいと思います。

そのためには、研究に対して興味、関心、そしてモチベーションを高く持つことや周りの研究者・技術者の考え方をしっかりと聞くことが重要だと考えています。
先輩・同僚・後輩研究者の考えを聞いて、新しいアンテナを生み出せたらと思います。

--ぜひ、続々と新しいアンテナを生み出していってほしいです!
その度、電気興業公式noteは取材させて頂きます!


今回は、世界初となったサブテラヘルツ帯オムニアンテナの実機開発についてお送りました。
まだ先は長いですが、6G時代にサブテラヘルツ帯が使用されることになれば、市川さんが生み出したこの小さなアンテナは確実に6Gの礎の一つとなることと思います。つまり、これも「未来の当たり前」の一つですね。
こうした取り組みを続々と紹介していければと思いますので、今後もお楽しみに!

文:オムニアンテナの形状について「フイルムケースみたい」と例えたら、理解してもらえなかった… 昭和生まれの編集部「YJ」

【参考資料】
全国の5G人口バー率 総務省HPより:000964096.pdf
当社リリース:世界初(※)サブテラヘルツ帯水平偏波オムニアンテナの設計成功~電子情報通信学会より若手奨励賞受賞~ | 新着情報 | DKK 電気興業株式会社
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