ショートSF#2『氷の惑星』
学術的宇宙探検隊がこの氷の惑星に到着したのは、この惑星の自転を基準にすると10周前になる。偶然だが、我々の母星の自転周期とほぼ同じ周期で、この惑星が自転していることがわかった。我々はボランティアで構成された宇宙探検隊で、大学の仕事をリタイヤした暇なシニア世代が中心だ。探検隊には天文学者、物理学者、生物学者などの様々なジャンルの研究者が含まれている。
この惑星には大小2つの衛星があって、一つは大きく、もう一つはその半分程度である。天体観測班によると、大きい方の衛星は奇妙な方向に自転しているので、量子コンピュータの計算では、元々は一つだった衛星が小惑星の衝突で2つに分裂したらしい。
この惑星は見渡す限り、白い氷で覆われた氷の惑星だ。化学班の分析によれば、水が凍ったものらしい。水には微量な成分が多く含まれているが、我々には無害だ。ただし、大気成分の分析では、我々には有害な成分が多量に含まれていることがわかったので、外での作業には宇宙服が必要だ。肉眼による目視では、生物の痕跡は見当たらない。また、探検隊の基地から飛ばした観測ドローンからの映像にも、生物の痕跡は見つからなかった。
「隊長、興味深い報告がありました」。「なんだ、手短に説明してくれ」。「この惑星には、衛星と惑星との間の潮汐力が摩擦熱となって、凍っていない部分が僅かながら残っています。その場所で生物班が採取した水から、微生物が発見されました」。「そうか、ご苦労だった。学術的な大成果だ。まずは母星に亜空間通信で報告しよう」。この惑星にも、我々と姿形は異なるが、生物がいたことに驚きを禁じ得なかった。
それから、さらに惑星が10回転した。この惑星の密度や、その構成物質等の貴重なデータも取れた。すっかりこの惑星での生活にも慣れてきた頃、学術的宇宙探検隊を恐怖に陥れた現象が、食事の後の休憩時間で起こった。最初は何が起こったかわからなかったが、どうやら惑星自体が大きく振動しているらしい。その振動は、比較的長く続いた。その揺れが収まって、探検隊全員の無事を確かめた後、基地の外に出てみると、基地からそう遠くない場所に大きな岩石の壁が出来ていることがわかった。つまり、その場所の土地に大きな段差が生じ、地下の地層が剥き出しに現れていたのだ。
地質班がその崖を調べていると、奇妙な生物の全身の化石が、ほぼ完全な形で見つかった。その生物の頭部、腕、足の構造は我々とは似ても似つかなかった。「隊長、この生物には角がありません。それから、手足も2本づつしかありません。どうやら、この生物は非常に不安定な2足歩行をしていたようです」
そうです。この惑星は、700万年後の地球です。