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SF未来話#3 三年寝太郎
昔々、ある惑星に太郎という若者が住んでいました。太郎は、国際宇宙局の宇宙飛行士でした。ある時、三光年先の恒星系への探査の任務が、太郎に言い渡されました。長期間の船内滞在と、食料などの宇宙船内への持ち込み荷物の容量制限もあり、乗組員5人には最近実用化されたコールドスリープ(人工冬眠)を使うことが決まりました。
この10年前、脳に存在する神経細胞群(SLP細胞群)に、ある化合物を投与して刺激すると、体温や代謝が著しく低下することが発見されました。これを応用したのが人工冬眠です。人工冬眠では、カプセル中で体温を32度まで下げます。また、人工冬眠中、太郎たちは太い静脈に刺されたカテーテルから高カロリーの輸液を注入して、栄養を摂取します。太郎たちの呼吸ガスや体温は常にモニターされ、AIによって消費カロリー分が適時に補充されます。
3年間の人工冬眠のための準備が終わり、「これが本当の三年寝太郎だな」と同僚にからかわれながら、太郎たちは無事にコールドスリープ状態に入りました。しかし、当初の計画とは大きく異なり、コールドスリープはたった3年では終わりませんでした。
この頃は、まだワープ航法の実用化前で、亜光速の飛行はできても、恒星間ジャンプはできませんでした。この時代の恒星間飛行は、まだまだ危険が伴う冒険的な宇宙探査でした。太郎たちの恒星間飛行は、2年間は順調でしたが、3年目の途中で予期せぬ流星群に見舞われました。そのため、宇宙船は予定の航路を大きく外れてしまいました。不幸中の幸いで、生命維持装置は故障しなかったので、太郎たちは眠ったまま宇宙を漂流することになりました。もちろん、太郎たちには何もわかりません。
長い年月の後、太郎たちが目覚めることになりました。少しずつ戻る意識の中、太郎は「3年といってたけど、寝た次の日と同じような感覚だな」と思いました。太郎が、戻りつつある視力で前を見ると、”人間らしき”生物が動いているのが分かりました。太郎が”人間らしき”と思ったのは、その生物の皮膚の色が薄い緑色で、頭部の大きさは自分と同じくらいなのに、骨格が極めて華奢なことに気付いたからです。
また、彼らは聞いたことのない言語で喋っていました。太郎は「異星人だ」と直感しました。勇気を振り絞って、彼らに話しかけようとすると、”待て”のような仕草をして、頭にセンサのようなものが取り付けられました。しばらくすると、彼らの話している内容が理解できるようになりました。どうやら、脳波を読み取って言語化するコミュニケーション装置のようでした。
緑色の一人が話しかけてきました。「宇宙船の記録からわかりました。あなたは太郎さんですね。これから話すことは、驚かずにゆっくり聞いてください。理解を急ぐ必要はありません」。その話は、こんな内容でした。
「事故からすでに1000年以上が経過しています。国際宇宙局が宇宙船の漂流に気付いたのは、事故から2年たった時でした。そのため、救出作業に手間 取り、結局見つけることができませんでした。言い訳になりますが、その時代には亜空間通信が開発されていなかったで、通信速度が光速を超えることができなかったのです」。
それから、異星人だと思った彼らは母星の子孫で、宇宙での生活に適応できるように、遺伝子が改変されているためでした。皮膚の色が薄緑色なのは、光合成ができるように細胞に葉緑体を取り込んだためだと聞かされました。彼らは、太郎たちの約40世代後の子孫だったのでした。言語形態も当時から1000年たっているので、子孫たちの発声方法や文法が大きく変わっていました。
千年後の世界は、太郎たちの頃とは大きく様変わりしていました。ワープ航法が開発され、人類の居住域は大きく広がっていました。太郎たちは、その拡大した居住域のお陰で偶然発見されました。太郎は、三年寝太郎ではなく千年寝太郎になっていました。