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本のメモ【テーマ:音楽を描く】

読んだ本を自分の中でグループごとに関連づけてまとめておくために、活用してみようと思います。読んで深めていきたいので、「この本も関連している」というご紹介がいただけるとうれしいです。

『羊と鋼の森』(宮下奈緒/文春文庫)

 大学生で塾講師として働いていた時、問題として出会った本です。「音ってこんな風に表現できるんだ!」と感動しました。

あらすじ
 ある日、学校で聴いたピアノの音。その調律に少しでも近づくために、自分を見つめながら奮闘する主人公・外村。憧れの板鳥の調律、双子の女子高生の奏でるピアノに感化されながら、自分の目指すべき場所を探す。

 調律師という仕事柄、音への意識の強さが感じられました。その音の繋がりが、音楽になる、という表現が多かったことが印象的です。
 たとえば、「ひとつずつ音を合わせていくうちに」という表現は、まさに主人公が音に注目していたとわかるものだと思います。
 そして、良い音は「今にも音色になって音楽になっていく」(81頁)のです。
 音楽になれば、景色を想起させていく。『羊と鋼の森』では、それは多くの場合、木々の風景である。自然の風景が思い起こされるのは、次の『蜜蜂と遠雷』と合わせても面白いと思いました。


『蜂蜜と遠雷』(恩田陸/幻冬社)

 映画化もされ、気になっていた一冊。

あらすじ
 会社員として働きながらもコンクールを目指す明石、母の死をきっかに人前で演奏することから離れた消えた天才の亜夜、幼少の約束を果たし音楽の道に飛び込んだイケメンピアニストのマサル。そして、亡くなった伝説のピアニストからギフトとして贈られたジンが与える衝撃に作用されていく人々が、どのように音楽と向き合い、自分を見つめ直していくのか。そして、誰かコンクールの栄誉を手にするのか。

 音楽の表し方が、『羊と鋼の森』とはどのように違うのか気になっていました。

 最初に読み進めた印象として、比喩が少なく、演奏をより直接的な形容詞で表しているように感じました。
 しかし、予選が進むごとに豊かな比喩が散見されていくようになりました。
 そして、ラストに近づくにつれ、ただの比喩ではなく、演奏の背景に見える景色が描かれていきます。

 また、最終戦でのマサルはストーリーを人々に想起させます。この風景だけでは無く、ストーリーを想起させる点は、『羊と鋼の森』との違いだと思います。
 極め付けは、最後の亜夜の演奏は描かれないこと。比喩としての表現も無く、彼女がどのような演奏をしたのかの想像が読者に投げられる形になります。
 この表現は、最後の結果発表を見ると、また面白いです。マサルとジンの間に位置していて、2人の演奏は詳細に描かれている。彼女の演奏の方向性を想像するヒントになっているようにも思います。

 この一連の演奏の表現は、演奏者のレベルにそって、どんどんと与える喩の規模を大きくしてるのだと考えました。また、外の景色に表現を導くこと(最後には本の外にまで)に、ジンの「音楽を外につれだす」という言葉とも繋がるようで大変興味深かったです。

2冊を読んで

 両方とも音楽を喩で表しているところが、とても魅力的だと感じました。その上で2冊を比べて考えると、『羊と鋼の森』は調律師という主人公の視点から「音」への意識が強いのかな、と、感じます。一方、『蜜蜂と遠雷』では、ストーリ性のある「曲」への意識から、広がりのある背景や物語を使う表現に繋がったのだと考えました。

 また、音楽という芸術性の高いものを扱うからこそ、「才能」という言葉が印象的でした。『羊と鋼の森』は、自身の才能の無さを嘆きながらも、違った才能の視点を見せてくれる。一方で、『蜜蜂と遠雷』は、才能を持つからこその悩みと常人とは異なる思考の面白さに惹き込まれます。

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