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伊坂幸太郎「逆ソクラテス」

相変わらず文庫化を待って伊坂幸太郎を読んでいる。どうも彼の描く絶望と希望のバランスが性に合っているようだ。一見トリッキーに感じられる描写や設定もすんなりと受け止められる。

「逆ソクラテス」は小学生(やその後の彼ら)をとりまく小さくも深い世界の短篇集。子供の世界だから、立ちはだかるのは大人の世界だ。もちろん伊坂作品なので、両者を単純に対立する構図として描いているわけがない。いくつかの作品にはふたつの世界をつなぐ存在の「先生」が登場する。どうもモデルがいるらしい。ほかにも子供たちにかかわる大人の造形が作品世界の奥行きを作っている。

『そもそも、決めつける人が苦手なんです。「どうせ、おまえはこうでしょ」とか「こうするのが正解だ」とか、自信満々に断定する人が苦手なので、そういう人間を焦らせたいなあ、という気持ちもあって』と、巻末の文庫化記念インタビューで作者が言っている。うん、わかる。自分も自分が無知であること位知っていようと思ってはいる。「普通って何だ」とか考えてみたこともない人間に限って「だってそれが普通でしょ」と言いたがる。そういう人との会話はストレスしかない。

話が大きくずれそうそうだ。「逆ソクラテス」である。登場する子供たちはみんなこまっしゃくれて魅力的なガキどもだ。表題作から「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」まで、タイトルだけで興味津々。「少年の出てくる短編アンソロジー」というのが最初の依頼だったそうで、得意の『非現実的な要素とか、犯罪とかの不謹慎な要素』に頼れないので悩んでしまったと言うが、もちろん心配ご無用。突拍子もなくて、現実的で、愛にあふれる世界が堪能できた。



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