共創のためのビジュアルプラクティスの俯瞰図〜必要な時に必要な技を 〜
会議や話し合いの内容を可視化(ビジュアライズ)することで、話し合いが円滑になる。もやもやが出せる。よろこばれる。というシンプルな事実もあるけれど、実践を続けるうちに次第に関心の中心となってきたのは、人の変容です。
組織の変容も個人から。という言葉がありますが、ビジュアルプラクティショナーとして実践を続けるようになってから、自分でも自覚できるほど自身の変容が起きるようになりました。また、同じように実践する仲間が変容していく姿を見て、ビジュアライズの持つ影響力は「場(会議やプロジェクト、話し合いの場など)」だけでなく、実践者本人へも大きな影響を与えているということに注目し始めました。ビジュアルプラクティショナーは、場をサポートするだけでなく、自分から変容をし社会を変えるチェンジエージェントになり得るのではないか🤔✨
図のことを知りたいよ!という方は、6から読み進めてください👇🌱
1.ビジュアルプラクティショナーとは?
2.地域/行政や国、世界レベルの視点で話をしながら、自分のことも大切にする人たち
ビジュアライズに出会った時、正直な感想は、「あまりピンこない」でした。京都に住んでいたので、イベントに参加するとグラフィックレコーディングを見る機会に恵まれてきたのですが、視覚優位ではない私はピンとこなくて、「その場で描くなんてすごいなぁ。」「私は絵なんて描けないから、絵が描けていいなぁ」「何を伝えたいのかわからないなぁ」などと思っていました。
認識が変わったのは、自分で人の話を模造紙に走りがきした日。今まで一方向に聞いて終わっていた話が、それで終わらず、自分が描いた模造紙をきっかけに目の前で双方向の対話が始まりました。お互いの考えや気持ちが出てくる。出てくる。出てくる。自分の考えが瞬時にアップデートされる。その豊かな時間を経験して、「何が起きているのかを知りたい」と思いました。
その後、この技術とその実践者に関心を持ち、日本/世界のビジュアライズ実践者に会いに行きました。おそらく国内では100名は超えるグラフィックレコーダーやグラフィックファシリテーター、ビジュアルファシリテーター、ビジュアルプラクティショナー、ファシリテーターに会いにいきました。さまざまな方と出会い、この技術を扱う人の年齢、職種、人種、属性などの多様性に驚きました。多様なのに、描く上で大切なことを握っている人は共通して、安心して対話ができたり、お互いの価値観を尊重するどんな話をしても否定しない人たちでした。また、実践年数が長い人ほど、視座が高く、視野が広く、自分や家族や会社だけでなく、地域/行政や国、世界レベルの視点で話をしながら、自分のことも大切にする。そんな人たちの実践のフィールドだと感じるようになりました。
ビジュアライズの実践を続けていくと、「わたしからわたしたち」へ視座が高まるんじゃないか。「わたしとわたしたち」が行き来することができるようになるんじゃないか。その個人の変容は伝播して、Wellbeingな社会づくりとつながるのではないか。
そのような問いを持つようになりました。
3.ビジュアルプラクティショナーの共創の一つのガイドライン
突然ですが、オリンピックは見ますか。さまざまなスポーツがありますね。初めてオリンピックでカーリングを見た時、ルールを知らなかったので、「なんだかわかんないけどめっちゃ足元を擦ってる」と思ったことを覚えています。ルールを知らないと、そのスポーツの見どころがわからない。
逆に、楽しめるのは、そのスポーツのルールを知っているから。ファンの方はその難しさや見所もわかってくるので、よりそのスポーツにのめり込んでいかれますね。もし、自分自身でルールや難しさが分からなくても、フィギュアスケートのように、その難しさや、これはしちゃいけないとか、この時にはこれをするんだよ。あれはすごい!といったことを解説してくれる人がいて、共感できたり、自分がするとしたら・・・と少しだけ自分ごとに想像できるかもしれません。
今回、共創ビジュアルプラクティショナーをとりまく実践の俯瞰図を作成したいと思ったのは、堅苦しいルールを作りたいわけではなく、ビジュアルプラクティショナーが、誰かと共創するときの一つのガイドラインというか目線合わせに使えないかと思ったからです。
4.目的に向かってチームが自分の魅力を最大限発揮して技を出し合うことができるとしたら
場に入る時、一人で実践するということは起こり得なくて、当日進行を担当する人以外にも、見えないところで参加者へのやりとりや備品の準備をしてきてくれた人や、話し合いの場が円滑に進むように部屋をきれいにしたりコーヒーやお菓子を用意したり、進行役となるファシリテーター が安心してパフォーマンスを発揮できるように参加者の様子を伝えたり、参加者の安心感を醸成するために困りごとがありそうな方に声をかけたり。いろんな人が、自分にできることを差し出しあって1つの場が成り立っていると感じています。
ビジュアライズがあることで、安心感が増えたり、小さな声に光があたったり、大きな声の方を包み込んで対話にお招きしたり、本音で話せる、もやもやに留まれる。そんな影響力や可能性のあるビジュアライズ。同じ場は一つとない現場で、運営チームの中で期待値のずれが起きたり、お互いの役割が不明瞭になったりするのは自然なことだと思います。それでも、できれば目的に向かってチームが自分の魅力を最大限発揮して技を出し合うことができたら。
5.実践者の学びのコミュニティから可視化した俯瞰図
これから紹介する図は、2020年にスタートした共創ビジュアルプラクティショナー養成プログラムの中で初めて公開し、毎期半年以上の時間をかけて学び合い続けるプログラム中でブラッシュアップされてきたものになります。現在6期生と共に学びを深めていて、これまで60名を超える実践者の知恵とストーリに触れさせていただく中で作成しました。関わってくださった方に感謝しながら。
6.こんな問いと共に眺めてみませんか
良かれと思ってやってもすれ違ってしまう(期待値のずれ)ことがある。全体像をつかむことで安心感を持てる。そのための俯瞰図。分類することでモヤモヤすることもありますが、それも含めて気づきにつながればと思って分類してみました。
こんな問いと共に眺めていただけたらうれしいです。
7.共創のためのビジュアルプラクティスをとりまく実践の俯瞰図(仮)
わかりやすくするために、今回は2軸4象限を使いました。横軸の右側に「ひろげる/ 発散する/留まる」左側に「まとめる/整理する」
縦軸の上部に「Lead-目的を示し、場を率いていく」下部に「Follow-目的を握り、場の力が最大限発揮されるようにはたらく」を一旦おいています。「共創のための」とつけているのは、一人で描く方、ご自身の範囲で楽しんでいる方については役に立たない図になる気がして、「誰かと共に共創するビジュアライズ(可視化)を活用するチーム」を想像して図にしたものです。
この記事を読み進めてくださっている方は、すでに相当の場づくりの熟練者か、マニアックな扉をひらいている方か、もしくは好奇心旺盛で未知のものを面白がれる方なのではないかと思います。
私たちは簡単に分類できないものを扱っているし、その時々の場や相手との関係性で立ち位置や役割が変わるので同じ場所にばかりいることはないと思うのですが、一旦このように整理することで見えてくることを話したいと思います。
この俯瞰図に出てくる用語一つひとつの定義は、日本語で正確にされてないものも多いのですが、すでに言語化してくださっている方の言葉を引用させていただきながら整理しています。
8.図に登場する用語の紹介
ビジュアルプラクティショナー
ファシリテーション
ワークショップデザイン
プロセスファシリテーション
一人では到達できない価値創造を共創していく器(チーム)を支え、プロジェクトを成功させる役割。プロジェクトメンバー一人ひとりの能力が最大限に発揮されるように問いかけや促し、時に待つことをしながら、プロジェクトのゴールに対するプロジェクトメンバーの納得感を醸成します。プロジェクト内外の状況の変化に柔軟に対応しながら、メンバーのモチベーションを高め、安心して活動ができるような場づくりを行います。チームの体制により、オーガナイズ(事務局的な動き)やホスト(場を支える役割/後述)、ハーベスト(最終的に必要となる情報等を事前に企画し残していく役割/後述)などに役割分担する。
ホスト
起こるべきことが起きるように、その場にいる人が誰もが必要な人であることが信じられるように、参加者が主体的/自律分散的に動けるように、そこにいる人々をホールドする役割。必要な時に問いかけたり、もてなしたり、促したり、声が出ることを待つ役割。熟練のホストになるほど、一見何もしていないように見えることもあるが、それはその瞬間、そこにいる人たちがそれぞれ自分らしく何かを率先して動いていることの現れであることが多い。助産師のような存在。そこにいる人、もの、こと全てを扱う。
ファシリテーショングラフィック
文字、テキストをメインに扱い、記録や構造化、整理を目的に活用されることが多い技術と捉えています。
グラフィックレコーディング
ビジュアライズすることで、具体と抽象の行き来を可能とし、さらには、イメージで表現するのて、多くの情報をパッと見てわかりやすく伝えることを可能にします。グラフィックレコーディングの中でも、イベントや企画、会議など「共創」あるいは「複数名の中」で活用する際には、情報や話をフラットに受け取るための聴くトレーニングや、視覚的にわかりやすく描くトレーニング、情報を編集する力など、複合的な能力を必要とします。
グラフィックファシリテーション
複数の話し手の目前で描くことで、リアルタイムにグラフィックを通じて議論/対話/話し合いを促進します。議論の内容のプロセスのコンテンツ(事柄と感情)のどちらも描くので、スピードと高度な聴く力必要な技術です。場の鏡となり、対話の塊ごとにチャンク(話の塊を囲う)を意識して描きます。基本的には話された内容を問い/目的に向かって7-9割可視化して残していきます。誰が話したかではなく何を話したかを描き、話し手(人)と議論(コンテンツ)を切り離して議論を進めることで肩書きに関係なく話しやすく本音を出しやすくなります。また、色を活用することで、ネガティブな話、未来の話、前向きな話などを直感的に受け取れるようにするなど、思考だけでなく感覚にも働きかけます。結果として、話を受け止められているという安心感や、ネカティブケイパビリティが実現したり、本音が引き出されやすくなり、短時間での合意形成や、多様な参加者による方向性のすり合わせなどが可能となります。
スクライビング
ハーベスト
9.必要な時に必要な技を
先日の共創ビジュアルプラクティショナー養成プログラムの淳子さんの講座で、「目的に対して、グラフィックがきいているか?目標にチャレンジしてほしい」というメッセージを受け取りました。
やりたいことが、もし、「本の整理をする」「自分の思考の整理をする」「自分のために、聴いた話を残す」であれば、自分の好きな部分を切り取って、解釈をふんだんに入れて自分自身の心地よいスタイルで描くことが最適かもしれません。(Hostyourselfのフィルター)
やりたいことが、もし、会議をよりよくしたい、まちづくりの役にたちたい、イノベーションを起こしたい・・・などであれば、自分の赴くままに描いたグラフィックを人前で描くことは、それを求められている時には喜ばれますが、共通認識を持ちたい時、その場にいない人に届けたい時には、企画者や話しての意図や伝えたかった内容を変えてしまうことになる可能性もあります。話されたことに忠実に、聞こえてきたことをまずは紙に残すことが土台として求められます。そのためには、まずは自分の価値観のフィルターに気づくことで、これまで、自分の価値観では聞こえていなかった声があることに気づくかもしれません。(Co-Createのフィルター)
もし、ビジュアルプラクティスの中でも描くことを中心に実践したい方、ビジュアライズを社内やイベント、会議で活用することを検討している方はこちらが参考になれば幸いです。
10.最後に
公の場でビジュアライズを扱う人間として、ビジュアライズの影響力」「自分の影響力」に自覚的でありたいと思っています。描いたものがSNSで出回るとそれはメディアとして世の中に残る。もしかすると、何かの縁で後世にまで残るかもしれません。歴史を遡れば、壁画や象形文字、絵巻物・・・その時代の様子は、その時代の誰かが見える形で切り取って残し、歴史はそのようにして紡がれてきたとも捉えられるのではないでしょうか。グラフィックレコーディングでは、描いたものは話し手のイメージを印象付けたり、編集された情報は、新たな意味を生み出す可能性があり、優しい話が描き手の好みで原色で描かれることへの違和感や、エネルギーあふれる話が、描き手の技術が足りなくて淡い色合いや意図のない文字の切り取られ方をして、そのエネルギーが消えてしまうグラフィックとして出回るかもしれません。一方で、グラフィックファシリテーションやスクライビングでは、まずは理解できていなくてもとにかく描くことで対話の土台をつくり、ビジュアライズしながら意味を見出していく(メイクセンス)という場では、描くものの正確性よりも、そこにいる参加者が声を出せるか、違和感がある時に違和感を声に出すもしくは、あるのだと受け入れられるような、心理的安全性や、ビジュアルプラクティショナーとの関係が大切だと感じています。個人的にはスクライビングのような技術が、VUCAでBANIの時代の中で、コミュニケーションの一助として、音楽、書道、ビジュアライズのように、楽しく日常に溶け込み、描いても描かなくてもいい、自分の心地よさやコミュニケーションを補うものとしてあたりまえになるといいなと感じています。
ビジュアルプラクティスに正解はありませんが、せっかく魅力のある技術なので、この時代、この世代に出会った方々と、今の時代に役立つ形で活用していく道を見つけていきたい、発展させていきたいです。これから出会う方々とその可能性をひらきたいです。一緒にひらきませんか。
美味しいお菓子とコーヒーを飲みながら。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
図を拡大してみたい方はこちら
(足跡、感想、気が向いた方はどうぞ💬)
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