『青音色』創刊号は、ジャズのスタンダードナンバー並みの、読みごたえバツグンのセッションです!
文フリ東京で開始2時間で完売した『青音色』創刊号。
快挙と華々しいデビューも、『青音色』を読めば、納得まちがいなしです。
なにしろ、私も海人さんによる「試し読み」のご紹介時点から、欲しくて、欲しくてしかたありませんでした。
しかし、10月に上京したばかりの一介の主婦に、2カ月も経たないうちに再度の上京は、できないこともないけど後がこわいので、文フリ東京に出かけることは泣く泣くあきらめました。
それでも、どうしても欲しいし、できれば早く読みたかったんです。
そうです、吉穂堂にて特別販売された2冊のうちの1冊を一番に手に入れたのは私です。他にもご希望だった方、すみません。
届いてからは、家事もほったらかして夢中になって読みました。
「なにこれ、なに!」「すごい!」
もう語彙力が破壊されてしまい、「すごい」しか出てこない状態に。
アンソロジーとは、まさにこれよ!と世界に向かって叫びたくなりました。(おおげさでなく、心の底からです)
ところが。
感想を記事にしようと思ってから、早、十日近く。
なにしろ読書感想文が超のつくほど苦手なうえ、そんな私をさらに尻込みさせていたのは――。言い訳になりますが。
皆さんご存知のように、吉穂みらいさんは、アニメや名作、名曲まで縦横無尽に引用される職人技の芸術的なレビューを、ささっとしたためられます。まさに上質なエッセーのレベルです。
海人さんの毎月の読書記録も、的確な筆致で綴られた洞察にみちた逸品。
そんな方々に、私の拙い感想を? それは作品に対する冒涜ではないか、と筆が進まず。でも、この感動を伝えたい気持ちもふつふつと、この十日ほど埋火のようにくすぶっていました。「恥はまさに書き捨て」と腹をくくり、えいやっと思いのたけだけ、勢いだけで投稿します。
『なくて七癖』/蒔田 涼
蒔田涼(海人)さんの『なくて七癖』は、異形化現象という設定にまず、ガツンとやられました! それも鎧武者への異形化です。心の中にがんじがらめに閉じ込めている潜在意識や願望が異形化という形で現前する――それを違和感なく受け入れることができたのは、主人公の学校での状況(いじめ)や心理状態、親の身勝手な理屈が丁寧に描かれているからです。異形化現象の第一人者である医師は、異形化を「癖」だといいます。まさにテーマの『癖は心の窓』です。こんなふうにテーマを咀嚼できるのかと、打ちのめされました。最後のオチ(ネタバレになるので口チャックですが)にも、納得です。
『過去情炎』/渡邉有
宮沢賢治の『春と修羅 過去情炎』を通奏低音に、幾重にも暗喩が張り巡らされた逸品です。タイムリープを繰り返すうちに、主人公の女性と根岸くんの関係性や背景が、螺旋で明らかになっていく手法がみごとです。アカシヤの木と死神が意味するものは何なのか。随所に散りばめられたメタファーに翻弄され、ふたりの赫くゆらめく情炎が官能的です。
『リミッター・ブレイク』/吉穂みらい
みらいさんの『リミッター・ブレイク』は、「書く」ことと「創作」にこだわる5人の女性の現実をつぶさに描いた群像劇です。このnoteも含めKindle出版など、自分の作品を誰かに読んでもらえる機会を誰もがたやすく手に入れられることのできるようになった今ならではの、挫折と現実がリアルに描かれています。一見、関係性の薄くみえる5人の女性が、その実、どこかでつながっている可能性もありそうなリアルさで。そうした人物関係の描き方、構成のうまさは『アルデバランシリーズ』にも共通するものです。
最後に5人がたどりつく場所も、「うん、そうだよね」とうなずけます。
創作に片足をつっこんでしまった私の、すぐそばにある日常があざやかに描かれていました。
まだ、読んでいない方。
残数もわずかみたいですが、よろしければ、こちらから入手方法をご確認いただき、ぜひ、ご堪能ください。