宿題じゃない読書感想文 [0813日記]
起き抜けに友人とLINEをしていて、トトロはどんな匂いがするのか訊かれた。スチールウールみたいな感じかしらと考える間に、会話の波紋は形を変えて広がってゆく。読書感想文は毎年母親に書いてもらっていたと話すと、驚かれた。原稿用紙のマス目を眺めていると、頭が真っ白になる子どもだった。
いくつもの夏休みを越えた今。ちょうど読み終えた本の、感想文を書いた。
村上春樹「ラオスにいったい何があるというんですか?」を読んで
今年5月にバンコクを旅した。スワンナプーム空港で開いたGoogle mapには、イワシの大群のように行ってみたいタイ料理店がマークされている。はじめての東南アジア。読めないシャム文字を眺めるだけでワクワクした私は、ホテルへ荷物を置くと街へ飛び出した。渋谷と新宿を足して2で割れなかったような、混沌が同居する都市は、妙に居心地がよかった。
初日にパッタイを食べた。デザートにはカオニャム・マムアン。明日はプーパッポン・カリーにソムタムも食べなくては。暑さに当てられても、せっかく知らない土地へ来たのだからと、食べ慣れない現地の味を求め続けた。
紀行文集の著者、村上春樹は、どこを旅しようと自らの食習慣を越えてゆくことはない。アイスランドに滞在した際には、ラム肉が名物だと知っても、肉食を好まない彼が試してみることはなかった。代わりに同行者の感想を紹介して「とのことだった」と、締めくくる。「言っておりました」が頻発する旅行記に、はじめて出会った。
私は旅先で未知の味を試してみることは、その土地へ暮らす人々に対する尊重だと考えていた。一方、著者は地球の裏側を旅している時も、自らのライフスタイルを尊重している。日々の暮らしの延長に、いつも旅が存在している。
バンコク滞在5日目、パンが焼ける匂いに誘われて入ったカフェで、カフェラテとクロワッサンを食べた。日本にいる時の、見慣れた朝の光景と同じだった。胃にじんわりと染みてゆく、いつもの味がたまらなく愛おしかった。
人生は旅のようだと例えた先人がいる。村上春樹は、それぞれの都市に息づく人々の暮らしや自然への深い洞察を持ちながら、自身の生き方を無理に揺らがせることをしなかった。彼は人生という旅の中で、他者と自身へのリスペクトを忘れずにたゆたっていた。
心地よい旅のバランスを知った私は、次はどこへ行こうかとマップを開いた。
マス目と提出期限から解放された私は、どこまでも行ける。
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