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往復書簡:豊かな表現への道しるべ

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ひとりの本好きの紡ぐ言葉に憧れて始まった往復書簡です。読み方・伝え方を学び、作品から汲み取った思いや心に湧いた感情を、ほっとするような言葉で書いていきます。
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#読書感想文

衝動に身をまかせる——セルバ・アルマダ『吹きさらう風』、車谷長吉『贋世捨人』

拝啓 やはらかに柳あをめる岸辺を歩きたい。そんな季節になりました。水面に映る青をみて、あ…

既視の海
10か月前
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「誰が正しいのか」よりも知りたいのは——トーベ・ヤンソン『誠実な詐欺師』、日高敏…

拝啓 夏の忙しい日々が、ようやく終わりました。のびた髪を切り、傷んだ靴を新調し、ゆがんだ…

既視の海
1年前
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何が「書くこと」に駆り立てるのか——石村博子『ピㇼカ チカッポ 知里幸恵と「アイヌ…

拝啓 いまだ出梅の知らせもないままに、炎威ばかり厳しさを増します。御身体はかわりありませ…

既視の海
1年前
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書かれた言葉ほど、書いた人の不在を感じるものはない——ダヴィド・フェンキノス『シ…

拝啓 半夏生に大雨はつきものですが、災害の報に胸が痛みます。あなたが暮らす地方はいかがで…

既視の海
1年前
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あの人だったら、どう行動するか——フォレスト・カーター『リトル・トリー』、向田邦…

拝啓 台風一過の青空も束の間、少しずつ灰色が混ざってきました。やはり梅雨が来てしまいます…

既視の海
1年前
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歩くことと、言葉を紡ぐことは似ている——ハン・ジョンウォン『詩と散策』

拝啓 朝の冷えた空気を楽しんでいたのに、にわかに暑くなり、額のしずくをぬぐってみたら、汗…

既視の海
1年前
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あえて苦しみを引き受ける愛——辻 邦生『光の大地』

拝啓 満開だった桜が少しずつ散り始めました。ふんわりと舞う花びらは、春の光とともに祝福してくれるかのようです。まだ一日のうちで寒暖の差が大きく、寒の戻りもあるかもしれません。でも、暖かい日差しのなかで一歩ずつ大地を踏みしめるあなたを想いながら、辻邦生『光の大地』を手に取りました。 ただ、山本容子さんの挿画からして、舞台は春ではなく、常夏のタヒチですね。タヒチといえばゴーギャン。本書を読む前から、次はきっとサマセット・モーム『月と六ペンス』を手に取りたくなるような予感が。い