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書評

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ヨミタイモノ、ココニアリマス。
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#読書感想文

毎年恒例のジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』を読む。

言っていることはハチャメチャだけど、氷点下の冬の日に、身を賭して命を救おうとするロビンとエバーに胸を締めつけられる。いや、人って捨てたもんじゃない。

1年で最も日の入りが早い。沈みゆく夕日に負けず、光を放つ人もいる。

既視の海
2か月前
11

齋藤美衣『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』

大きく息を吸い、とめて、潜る。水底へ。記憶の底へ。意識の底へ。深く潜るには、ゆるやかに息…

既視の海
2か月前
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いちむらみさこ『ホームレスでいること——見えるものと見えないもののあいだ』

朝。ロータリーの反対側にあるバス乗り場に押し寄せる高校生の波に逆らいながら駅舎に向かう。…

既視の海
5か月前
22

松永美穂『世界中の翻訳者に愛される場所』

出版社の紹介文もほとんど読まないまま、ためらうことなしに松永美穂『世界中の翻訳者に愛され…

既視の海
5か月前
26

阿部日奈子詩集『キンディッシュ』

詩集の幕開けとなる「行商人」から、肌触りが違う。 外国文学を礎にした前作『海曜日の女たち…

既視の海
6か月前
16

阿部日奈子詩集『海曜日の女たち』

しびれる。詩集名だけで読みたくなる。著者名も詩歴もまったく分からないが、気にしない。 そ…

既視の海
6か月前
23

小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささやきよ!』

Webちくまに連載していたときから楽しんでいた小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささやきよ!』を読む。 世界中でその名を知らぬものはいないナチス・ドイツの犠牲者、アンネ・フランクから、アインシュタインの相対性理論にも貢献したであろう「悪妻」のミレヴァ・マリッチ。孤高の詩人、エミリー・ディキンスンや、ミューズとして男の作品として刻まれたかもしれないが、自らの名は歴史に刻まれることのなかったカミーユ・クローデルまで、ともすれば「男」が引き起こした「戦争」の中で生きなければな

オリガ・ホメンコ『キーウの遠い空 戦争の中のウクライナ人』

2022年2月24日の、ロシアによるウクライナ侵攻から2年。いまさらながら今春、ウクライナからの…

既視の海
8か月前
14

間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』

間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』を読む。 不死の身体を手に入れた「わたし」が、ひとり…

既視の海
9か月前
22

早川義夫『海の見える風景』

「一年前、妻が癌になって初めて、そばにいてやりたいと思いました。しい子は3月28日に亡くな…

既視の海
9か月前
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アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』

アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』を読み終える。も…

既視の海
9か月前
18

言語は人生を変えるのか。物語も人生を変えるのか。

ある詩集をもとめて、独立系書店をさまよっていた。書名とたたずまいに惹かれて手に取ったのが…

既視の海
10か月前
20

四元康祐『偽詩人の世にも奇妙な栄光』

書けない苦しみ。溢れ出る驚き。 のちに偽詩人と呼ばれた吉本昭洋は、いずれも味わった。詩人…

既視の海
1年前
19

アゴタ・クリストフ『文盲 アゴタ・クリストフ自伝』

『悪童日記』三部作を読み、著者アゴタ・クリストフが、母語ではないフランス語で書くことの意味に触れたくて、『文盲 アゴタ・クリストフ自伝』を手に取る。 新書判の白水Uブックスでも、本文は90ページにも満たない。巻末の解説によれば、『第三の嘘』を上梓した後にチューリッヒの雑誌に連載していたエッセイが土台になっているという。「自伝」とはなっているが、時系列で自らの来し方を綴っているわけではない。幼い頃から、ひたすら読み、ひたすら書く人間だったこと。ハンガリー動乱のあと、生後4か月