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ひとりの本好きが、本好きの友だちと交わす往復書簡。

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読んだ本について手紙を書く。本好きから本好きへと書く手紙。往復書簡。手書きの必要はありません。ここから始まった往復書簡がいくつもあります。あなたの手紙、待っています。
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#読書感想文

あなたの声をきかせて——シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』

既視の海
4か月前
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衝動に身をまかせる——セルバ・アルマダ『吹きさらう風』、車谷長吉『贋世捨人』

拝啓 やはらかに柳あをめる岸辺を歩きたい。そんな季節になりました。水面に映る青をみて、あ…

既視の海
7か月前
15

待つ方がいいのか、待たせる方がいいのか——太宰 治『待つ』『走れメロス』

拝啓 色づきはじめたもみじに小糠雨がそぼふるなか、あなたへの手紙をしたため始めました。 …

既視の海
1年前
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「ことば」という大河にたゆたう——ヘルマン・ヘッセ『シッダールタ』、ガブリエル・…

拝啓 一日の気温差はいまだに激しいものの、快い風がそよぐ時節になりました。窓を開けると金…

既視の海
1年前
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自分を信じるのは、実際的で手触りのある行為——フランソワーズ・サガン『悲しみよ …

拝啓 青い空を突き上げる入道雲はすっかり遠のき、鮮やかな彼岸花が風に揺れています。 あな…

既視の海
1年前
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「誰が正しいのか」よりも知りたいのは——トーベ・ヤンソン『誠実な詐欺師』、日高敏…

拝啓 夏の忙しい日々が、ようやく終わりました。のびた髪を切り、傷んだ靴を新調し、ゆがんだ…

既視の海
1年前
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いのちや意識の「あわい」にあるものは——河合隼雄『中空構造日本の深層』、フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』など

拝啓 暦のうえではすでに秋。台風が通り過ぎたあとを「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ」としみじみ味わう清少納言には共感できません。でも、野分という表現は言い得て妙だと、9月が近づくたびに感じます。 こちらも、お返事が遅くなりました。毎年8月は仕事の都合で自分の精神活動がどうしても後まわしになってしまうのです。 それで、自分を取り戻すためにも、あなたとの往復書簡をすべて読み返してみました。すると多くの作品や批評をつうじて「魂とはなにか?」という問いにたゆたっ

想いを「書く」とはどういうことか——まはら三桃『思いはいのり、言葉はつばさ』

拝啓 あまりの暑さに茫然としているうちに、7月も終わろうとしています。御身体の具合はいか…

既視の海
1年前
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何が「書くこと」に駆り立てるのか——石村博子『ピㇼカ チカッポ 知里幸恵と「アイヌ…

拝啓 いまだ出梅の知らせもないままに、炎威ばかり厳しさを増します。御身体はかわりありませ…

既視の海
1年前
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刻々と変化し続けるもの、それでも変らないもの——小林秀雄『無常という事』『歴史と…

拝啓 九州の災害の報に胸をいためつつ、関東の酷暑も災害のようです。ただ、天気予報の「体温…

既視の海
1年前
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書かれた言葉ほど、書いた人の不在を感じるものはない——ダヴィド・フェンキノス『シ…

拝啓 半夏生に大雨はつきものですが、災害の報に胸が痛みます。あなたが暮らす地方はいかがで…

既視の海
1年前
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身を賭して成し遂げるものは何か——かんべむさし『車掌の本分』、上橋菜穂子『バルサ…

拝啓 夏至をすぎれば梅雨も折りかえし。ただ近ごろは、そぼ降るよりも篠突く雨ばかりに思われ…

既視の海
1年前
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書かずにはいられないもの——町田康『私の文学史』、早川義夫『女ともだち』

拝啓 いつになっても梅雨は好きになれません。ただ、雨が上がり、地面からむわっと湿り気が立…

既視の海
1年前
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「思い出す」のは過去ではなく、現在——有吉佐和子『悪女について』、宮本輝『幻の光』

拝啓 ついに入梅かという湿っぽい気持ちを隠せない一方、静かな雨音をききながら読書するのを心待ちにしています。雨や雪は、わが身が濡れたり凍えたりしないとき、眺めているのはいいものです。それを風情というのでしょうか。 手紙は不得手だといいながら、小気味よく言葉を重ねるあなたのお便りをうれしく拝読しました。手紙を含めて、文章を読むのは、書いた人の心持ちを「考える」、想像することです。それを小林秀雄は「思い出す」と呼びました。 さて、あなたの思い入れのある岡崎京子『ROCK』を