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白い雪と「勇気100%」の意味・反戦映画としての『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』


「忍たま」が戦争(いくさ)シーンから始まる衝撃

『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』で驚いたのは、冒頭に戦争の描写があったこと。と言っても、そこは「忍たま乱太郎」。具体的な残酷表現はなく、赤い彼岸花、燃えさかる炎、斜めに倒れたカカシ…を描写することで、戦争の悲惨さを暗示するに留めていた。でも、いつもEテレで「忍たま乱太郎」を見ているだろう、幼稚園~小学校低学年生の子どもにとっては、かなり怖い雰囲気で物語がスタートした。

『劇場版 忍たま乱太郎 』は、あえて戦争を描いている

この冒頭の戦争シーンは、決して、本来の「忍たま乱太郎」のファン層=子どもたちの存在を無視して、大人の忍たまファンのために入れてしまった場面ではなく、「子どもたちは、このシーンを怖いと感じるはず」とわかった上で、意図的に組み込んだ場面だと感じた。「何が起きているのか、よくわからない。だけど、怖いことが起きたのだ」と、小さな子にも伝わるように、戦争を表現したのだと思う。

「大人とは、子どもを守るもの」

『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』を見ていて、素敵だなと感じたことの一つが、大人たちが皆、「大人には、子どもを守る責任がある」と思って行動している事だった。土井先生が、己の身よりも鳥の巣(=鳥のたまご)を守ろうとしている姿や、一年は組の忍たま(=忍者のたまご=子ども)を不安にさせないために、「土井先生は仕事で出張してるだけ」と、笑顔で話す山田先生や学園長先生の姿には、大人ならこうありたい、先生という存在は、こうであって欲しいと感じる、強さと優しさがあった。

もし、土井先生が山田先生と出会わなかったら(土井先生のif)

映画でも語られているが、土井先生には、戦争で家族を亡くした過去がある。土井先生は、19歳の時に山田先生一家と出会い、人の優しさを知り、忍術学園に勤めるきっかけを与えられたことで、だんだんと〈忍術学園の土井先生〉になっていく。でも、もし、彼が山田先生と出会っていなかったら?人間の優しさを知る機会を得られなかったら?〈土井半助になれなかった男〉は、持ち前の勤勉さ、知性や才能の全てを、戦争のために使う〈天鬼〉になっていたのかもしれない。

いま、生きているという奇跡(戦争孤児のきり丸)

今回の『劇場版 忍たま乱太郎』には、中盤にも戦争に関する描写がある。戦争が起きたせいで、家を失って、ただ茫然と座っている大人の男性たちが、はっきりと描かれる。これは、子どもや母親(女性)たちだけでなく、父親(男性)であっても、戦争が起きたら自分の命さえ守れる保証がないという現実を表している。戦争が起きたら、守りたいと願っていても、子どもの命を守れる保証はない。戦争孤児のきり丸や土井先生が、いま、生きているということは、当たり前ではないのだ。

雪の降る中、消えていく『勇気100%』の意味(きり丸のif)

映画のラスト近くに、幼いきり丸が、藁むしろにくるまり、天から降る白い雪を見上げているうち、世界がすべて白くなって消える、という数秒のシーンがある。『勇気100%』のイントロが流れるものの、すぐさま、フェイドアウトして消える。私は、このシーンを、きり丸のifの物語だと感じた。
教会の鐘が鳴り響くようにイントロが流れ、いつもの歌声が聞こえる前に終わる。…天と地をつなぐ白い雪に導かれ、天に昇っていく儚い命…。あの時、終わっていたかもしれない人生を、きり丸は、生きている。

いつも通りの日々は、当たり前じゃない

いったん『勇気100%』がフェイドアウトした後、改めてもう一度『勇気100%』が流れる。いつも通り、元気いっぱいの忍たまたちや、優しい笑顔の土井先生の姿は、ハッピーエンドに相応しい姿だ。と同時に、忍たまたちが「いつも通り」に笑顔でいることに、私たちはほっとする。戦争孤児だったきり丸や土井先生は、ほんの少し何かが違ったなら、すでに死んでいたかもしれないし、積極的に戦争を仕掛けるような人間になっていたかもしれない。いつも通りの毎日は、実は、当たり前ではないと痛感する。

「むかし、子どもだった大人たちへ」

『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』という作品は、脚本も演出もしっかり考えられている良作だと思う。ところどころに挟まっている古典的なギャグシーンも、「ああ、『忍たま』って、このノリだったよね!」という感覚で、楽しめば問題ない。「子どもを守れる大人ってカッコいいよね」「私も、山田先生みたいになりたいな!」とか…、何よりも、「戦争は良くない」「平和は尊い」と、改めて嚙みしめて欲しいと思う。

「これから、大人になる子どもたちへ」

毎日、10分アニメの「忍たま乱太郎」を見ている子には、映画の90分は長いかもしれない。戦争関連シーンは短いけれど、怖くて泣いちゃう子もいるかも…という不安も少しある。でも、それでも、「忍たま」本来のファン層である幼稚園児~小学校低学年生に、ぜひ見て欲しいと思う。きり丸や土井先生が好きな子どもたちは、「戦争孤児って、ママもパパも死んじゃった子のことなんだ(きり丸も土井先生も、大変だったんだ…涙)」という気持ちになるはずだから。そして、戦争はダメなことだと感じるはずだから…。

雑渡昆奈門(ざっとこんなもん)ダジャレ名だけどカッコいい!

「忍たま乱太郎」は、雑渡昆奈門(ざっとこんなもん)とか、稗田八方斎(ひえたはっぽうさい) とか、ダジャレ度の高いキャラ名が多いけど、人物設定が緻密で、描写も丁寧。私は、子ども時代に忍たまを見ていた世代ではないのだけど、今回、『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』を見て、子どもも大人も楽しめるアニメなんだと再認識できた。

*私の友だち(主婦)は、雑渡昆奈門さんのカッコ良さに目覚めたそうです。雑渡昆奈門さんは、映画でも「大人(忍者)には、情ではなく理性で、冷徹な判断をしなくてはならない時がある」というシリアスな要素を担っていて、一見クールだけど、心の内には優しさがある…奥深い方でした。

*お子さんと見に行くか迷っている方へ

戦争に関する描写は、恐ろしい雰囲気になるだけで、死者が描かれるなどのショッキングな表現はないです。『鬼滅の刃』が見られる子なら、まったく問題なく見られるレベルです。ただ、怖い雰囲気が苦手な子で、節分の鬼で泣いちゃう感じの子は、映画館で見るのはつらいかも…。ブルーレイ/配信待ちして、自宅でママにハグしてもらって見た方が安心かもしれないです^^


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みほさん
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