夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】8
過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
店内ではまもなく後半組、三人による演奏が始まろうとしている。
15分の小休止を挟んでの開始だ。
トップを切るのは高枝切子と万田小百合のコラボレーションだ。
これまでの三人とは何かが違う。
諦めていた心が期待に変わる。
雄平は身体を乗り出して食い入るように二人を眺めた。
イントロのメロディが流れ出す。
高枝と万田が流暢に踊り出す。
これは期待できるぞ!と胸を膨らませる。
ダンスが抜群に華麗で切れ味もシャープだ。
雄平はここにきた甲斐があったとようやく自己満足に耽っていた。
自然と涙が込み上げてくる。
万感の思いが込み上げてならない。
雄平は閉じた眼を開けて彼女たちに視線を送った。
安堵感に包まれる。
何一つ変わりはない。
落ち着きを取り戻した雄平は、右手でジントニックの注がれたワイングラスを片手に一気に飲み干した。
『う~ん、気持ちいい。心の作用は何て正直すぎて怖く偉大な存在なんだ』
高枝が歌い出す。
悪くない。
とても上手だ。
これまでの三人が最悪だっただけに尚更、上手く聴こえてならない。
そんな矢先のことだった。
万田が転んで高枝が思わず『まんちゃん、大丈夫?』と声を不安げに掛けた。
雄平はショックのあまり、その場に倒れ込んだ。
由里もまた慌てて雄平に近寄り『雄平、大丈夫?』と声を掛けた。
高枝も万田も実は歌が歌えない。
口パクであることが判明したのだった。
高枝と万田は気にせずに歌い続ける。
いや、躍り続け、口パクを続けた。
雄平と由里だけが平然ではなかった。
その後、最後の出演者である林の歌いっぷりを雄平が知ることはない。
雄平は救急車に担ぎ込まれ、病院へ搬送された。
心配そうに病院の控え室で待つ由里に柴田から連絡が入った。
『雄平くんは大丈夫か?』
『まだ、なんとも言えませんが一時的な精神的ショックによるストレスと疲労の可能性が高いということみたいです』
『それなら何よりだ。ありがとう、また連絡する』
そう言って携帯電話の通話は切られ、由里は控え室をうろうろと歩き出した。