デレラの読書録:市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』
1980年代のU国、真空気嚢を作る新技術により開発された新型飛行船「ジェリーフィッシュ」はその名の通り海月のような見た目であった。
ある日、ジェリーフィッシュが燃えているという通報があった。
雪山で炎上したジェリーフィッシュ、乗員6名は全員死亡。
しかも死因は、全員が他殺であった。
誰かが殺したのであれば、誰かが自殺でなければならない。
一方で、侵入者がいたならば、空飛ぶジェリーフィッシュに、また遭難した雪山にどうやって現れ、そして消えたのか。
『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせるクローズドサークル。
わたしは当初、真空気嚢によって重量がキャンセルされ、ふわふわと優雅に浮かぶ丸い飛行船を想像した。
優雅さは、不穏な雰囲気に一変する。
ジェリーフィッシュという孤城での全員他殺、一体どうやって?という問いに突き動かされて物語は進む。
推理小説は、一見不可能に思える世界に一筋の可能性の論理を見出す試みである。
積み重なる「なぜ」が、過去のある一人の女性の死亡事故に収斂していく。
なぜあの人は死ななければならなかったのか。
ジェリーフィッシュの真空気嚢は大気圧に耐える。
決して空気には押し潰されない。
飛び立つジェリーフィッシュのもつ硬質さ、そして優雅さと不穏な雰囲気は、まるで、人の心のようである。
決意、意固地、信仰、妄信、あるいは、ひと突きで壊れてしまい心の儚さ。
海月は凍らない、また熱を帯びれば動き出す。