デレラの読書録:金原ひとみ『星へ落ちる』
金原ひとみさんの小説を『蛇にピアス』から順に読んでいるが、『星へ落ちる』は語りの視点が主人公の私から変わる初めての作品だった。
視点が私から僕に、僕にから俺に変わる。
ひとつの作品内で視点がクロスオーバーして、作品世界が立体的に立ち上がる。
『星へ落ちる』というタイトルからブラックホールを連想する。
永遠に落ち続ける黒い穴。
沼に引き寄せられる、あるいは蟻地獄。
洗面台の排水口。
食べ物を飲み込む口。
言葉を喋る口。
瞳。
性器。
物語を駆動する引力の中心は「彼」だろう。
私と僕と俺は、その周りを周遊する惑星、少しづつ落ちていく惑星。
穴を塞ぐと安心感が得られる。
排水口に栓をすれば水が溜まる。
ブラックホールが無ければ周りの惑星は落ちていかない。
ならば、穴を塞げば良いのか?
「彼」から離れれば良いのか?
しかしこの物語はそれに否と言っているように感じる。
安心感と引き換えに得られるモノ。
落ちることでしか得られないモノ。
落ちていく、落下それ自体を見つめること。
はたして、落下する「私」を、落下から防ぐことだけで救うことができるだろうか。
安心感と落下の二項対立を目の前にすると、ひとは盲目的に、また無意識に安心感の方が良くて、落下が悪いと考えるのではないだろうか。
あるいは、無意識に、登場人物に安易な救いを求めてしまうのではないだろうか。
そういう無意識を指摘され深くエグられる感覚。
落下の善悪を語らず、落下それ自体を描く物語。