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再録「あのときアレは高かった」〜資生堂の男性用化粧品「TACTICS(タクティクス)」の巻

「あれ、欲しい!」

そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。

昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。

     ◇

 「タクティクス」という言葉が「戦術、兵法」を意味するということを知ったのはこの商品からだ。資生堂の男性用化粧品、ヘアコロン、ヘアリキッド、アフターシェーブローションなどの「TACTICS(タクティクス)」シリーズである。

今、中年世代のコンサルタント諸氏の間でこの「戦術」という言葉が氾濫しているのも、実はこの商品からの影響が少なからずあるのではないかと私はにらんでいる。それぐらい当時の中高生であった「むけはじめ」の世代男子の心に刺さった。

タクティクスの発売は昭和53(1978)年。時代は高度経済成長からバブルへと邁進していく時期である。世間はだいぶ豊かになってきたものの、まだまだ「新しいもの」のパワーがあり、その信仰もまた強かった。

資生堂の男性化粧品も、「MG5」「ブラバス」ときて、今度は容器も斬新なホワイト。おしゃれさも「しゃらくささ」もパワーアップ。「タクティクス」という「よう意味はわからんが」洋モノ臭プンプンで、当時は舌を噛みそうな名前の商品の登場とあいなったわけである。

好き嫌いもあったみたいだが、香りも独特なものがあり、今でもその香りを嗅ぐとほんのりと80年代が香る。

1978年発売当時の価格は2000円(ヘアトニック)。現在の価格に直すと約3000円だ。販売網の関係だろうか、現在の男性用化粧品より2倍近い値段である。

もちろん、「タクティクス」シリーズは今も現役だ。ただ、あの時代、商品の機能や効能などは本当のところわかっちゃいなく、単なるカッコつけの気分で、ナウなヤングの家の洗面所に置かれていた、そんなカッコつけの男たちの比率は、今とは比較にならないほど多かったのかもしれない。


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