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コタツと言えば、○○

 せまい部屋の真ん中に鎮座するコタツ。その上に置かれたみかんに手を伸ばし、皮を剥きながら俺は何気なく呟いた。

「やっぱコタツと言えば、みかんだよなー」

「え?アイスやろ?」 

 すかさずツッコんで来たのは、隣でゴロゴロしているだけの友人。ちなみにコイツがゴロゴロしているのは、俺んちのコタツ。正月休みに実家にも帰らず、一人暮らしの6畳間で男二人、不毛な会話である。

「は?そこはみかんだろ?」

「いやいや、今時みかんて」

「みかんに今時もクソもあるかい!」

 爽やかな柑橘の香りが漂い始める中、妙に食って掛かってくる爽やかさゼロの友人。なんでだよ。みかん、美味いだろーが。

「手ぇ黄色くなるやん?アイスは汚れない」

「なんじゃそら。アイスはスプーンが必要だろ?めんどくせー」

「みかんは皮むかなあかんし。ちまちま白いのも取って。ちまちま、ちまちま……めんどいやん」

「いや、そこは白いのむかないで食べたらいいだろーが」

「それは嫌」

「お前の方がよっぽどめんどくせー!」

 こだわりが強めの友人は、たまにめんどくさいこともある。けれど気の置けない相手であり、年末年始ボッチの俺に付き合ってくれる優しい奴なわけで。……まぁコイツもボッチで暇なだけなんだろうが。

「別にいいやろ。コタツはめんどくさがりの為にある装備や。僕、来世はコタツに転生したい」

「いや、そこはコタツに入る何者かになっとけよ」

「え?足の臭いおっさん?それは嫌や」

「そこはフツーに猫だろーが!」

「はー、さきいかウマっ!」

「聞けよ!人の話!」

 自由すぎるコイツは、別に転生なんかしなくても猫みたいなやつだ。気が付けば我が物顔で、勝手に人んちに転がり込んでくる野良猫。んで俺はエサをたかられる家主で、世話係ってとこだろう。

「あ~アイス食べたいなぁ」

「知っての通り、みかんしかないぞ」

「アイスが食べた~い。買ってきてぇ~」

「嫌だよ。自分で買ってこい」

「嫌や~。外雪やも~ん」

「俺だって嫌だよ」

 うだうだ言い始めて止まらないのはいつものこと。けどコタツでうだうだしたくなる気持ちも、まぁわからんでもない。

 寒い冬に、あったかいコタツでダラダラするという背徳的な贅沢は、一度味わったら抜けだせないもの。これに美味いもんが加われば、もう最強だ。

「お腹空いたぁ~」

「ほれ、これでも食っとけ」

 そう言って俺は、丁寧に剥いたみかんを友人の口に放り込む。コイツもそれをわかっているのか、既に口を「アー」と開けてスタンバイしてやがる。

「ん、みかんウマぁ~」

「だろ?コタツでみかんって最強だし」

「もう一個」

「はいはい」

 コタツに手を突っ込んだまま、みかんに手を伸ばすこともせず、ただ口を開けて待つだけの友人。オイ、色々サボりすぎだろ。

「は~、ちゃんとムキムキされたみかんウメぇ~」

「ムキムキしてんの俺だけどな」

「自動みかんムキ機」

「おう、使用料払えや」

「う~ん、やっぱアイスの方がいいかな」

「なんでだよ!」

 そんなくだらない会話をしつつも、俺は何だかんだでコイツの為にみかんを剥いてやってる。普段、自分では取らない白いやつまで、しっかりと丁寧に。

 そんな俺の苦労を知ってか知らずか、友人は口をもぐもぐさせながら聞いてきた。

「ところで今日の夕飯何~?」

「おう、今日は鍋だな」

「ザ・定番」

「コタツと言えば、やっぱ鍋だしな」

「え?アイスやろ?」

「は?そこは鍋だろ?……ってループしてるし!怖っ!」

「あはは。ボケてんじゃん」

「いや、ループしだしたのお前だからな?」

「そんなことより早く鍋にしよ~」

「はいはい」

 鍋にしようと言う割に、コタツから一向に出る気の無い友人。まぁいつものことなので、俺は一人キッチンへと向かう。あらかじめ買っておいたキムチ鍋の準備は、あとは野菜を切るだけだ。

「コタツの上、片しとけよ」

「はいは~い」

 気の抜けた返事を聞き流しながら、俺は冷蔵庫から野菜を取り出して切り始めた。トントントン……と心地いいリズムが、少しひんやりしたキッチンの中に響き渡る。何だかんだで俺はこの時間が好きだ。

「あとは肉、肉……っと」

 コタツのある居間では、ごそごそと何やら音がし始めた。友人が俺に言われた通り、ちゃんとコタツの上を片付けているのだろう。鍋という豪華なエサをぶら下げてやったからな。

「仕方ない、あとでコンビニアイスでも買ってきてやるか」

 現金な友人を少しだけ可笑しく思いながら、俺はそう決めたのだった。


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