歌舞伎をさけぶ ~俊寛がしみじみ酷い~
おくらほま。
みかわんわんです。
冒頭の「おくらほま」は挨拶として使っています。
前回の「歌舞伎をさけぶ」では「籠釣瓶花街酔醒」を役者さん中心で書かせてもらいましたが、今回は「平家女護島 俊寛(へいけにょごがしま しゅんかん)」二段目に挑戦してみたいと思います。
伝えたいことは「近松門左衛門ってしみじみ酷い話が得意だよね…」です。そこにしびれるあこがれる。
鬼界ケ島の三人
薩摩から遠く離れた鬼界ケ島は流人の島です。そこには平清盛を暗殺しようとして流罪にされた俊寛(しゅんかん)僧都、丹波少将成経(なりつね)、平判官康頼(やすより)がいます。
流罪にされて3年。都での絢爛な生活とはかけ離れた食うものも食わずの生活に、俊寛はやせ細って着るものも継ぎはぎだらけです。
しかし、今日は、成経が海女の千鳥(ちどり)を妻に迎えるという報せを持ってきます。俊寛たちは貝殻を盃にしてささやかな宴を始めます。
赦免船
そこに、流人の帰還を許す赦免船がやってきます。喜び勇んで浜辺に転び出る四人。
しかし、瀬尾太郎兼頼(かねより)が読み上げた赦免状に俊寛の名前はありません。信じられず俊寛は赦免状を確認しますが、やっぱり名前はなく、俊寛は「ない、ない、なーい!」と嘆き悲しみます。
嘆くところへ、丹左衛門尉基康(もとやす)が別の赦免状を読み上げます。平重盛らの温情で俊寛も連れ帰るというのです。
三人は喜んで千鳥とともに船に乗り込もうとします。
しかし、それを兼頼はさえぎり、「赦免状に名前がない者は船には乗せられぬ」と言います。さらに、俊寛には妻 東屋(あずまや)が清盛に逆らい首を落とされてしまったと告げます。
鬼がいるのは…
千鳥と引き離され三人は船に追い込まれ、千鳥は「鬼界ケ島というが鬼はいない、鬼がいるのは京の都」といい、岩に頭を打ち付けようとします。
それを見た俊寛は兼頼に「妻がいない京に戻ろうとは思わない、自分の代わりに千鳥を船に乗せてやってほしい」と頼みますが、兼頼は聞く耳をもちません。
俊寛は辛抱たまらず兼頼の刀を奪って兼頼に切りつけ、二人は刃をかわします。基康は私情の争いであるとして手出しを禁じ、周囲が見守る中、長年の流人暮らしで筋力の衰えている俊寛はやっとの思いで兼頼を討ち果たします。
俊寛は、都からの使者を切った罪で自分は島に残る代わりに、千鳥を船に乗せてほしいと願い、それは聞き入れられます。
船出
俊寛を一人残し、船は島を離れていきます。最初は千鳥や成経によいことをした喜びとともに「おーい」と船を見送る俊寛ですが、
いよいよ船のともづなが岸を離れる段になると一人残されることに耐え切れず、
ともづなを追いかけすがろうとしますが届かず、やはり船を引き返してほしい思いで「おーい!」と船に呼びかけます。
「思い切っても凡夫心(ぼんぷしん)」
出家した身であっても煩悩は捨てられず、
蔦につかまり、
松の木につかまり、
高台によじ登って、
遠ざかる船に向かって「おーい!」と呼びかけ続ける俊寛と、
呼びかけを諦めた後の何とも言えない表情。
ここで幕は閉じます。
どうでしょうか、『俊寛』
赦免状に名前が「ない、ない、なーい!」。
帰りを待つはずの妻は首を落とされてすでに亡い。
千鳥を船に乗せてやりたいとの願いは無碍にされる。
萎える足に鞭打って兼頼を討ち果たすも、自分は船に乗れない。
一度は喜んで船を見送るも、未練が断ち切れず「おーい!」と船に追いすがる。
それでも船は引き返すことなく、最後に一人残される俊寛のその表情。
えげつなくないですか『俊寛』。
しみじみ酷い。だがそこがいい。
みかわんわんは片岡仁左衛門の俊寛を観劇したのですが、幕間の時に「しみじみ酷い話だ」とつぶやきました。(もちろん仁左衛門が演じたからというのもあると思いますが)
近松門左衛門はひどい話をまくしたてるのが得意なんでしょうか。
『曾根崎心中』も『傾城反魂香』も観ていないので、まだそうとはいいきれない私ですが、ひどさが見事に「劇」になっているのは間違いありません。
機会がありましたら、ぜひご覧になってみてください。
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