【学校での保護者との法律トラブルをわかりやすく解説】by 川上貴裕(事例:高圧的な言動による指導の問題)
レトリカ教採学院、学院長の川上です。
昭和や平成の先生なら、普通に口にしていた叱責の言葉も、令和の時代であれば、不適切な指導とみなされる場合もあります。
時代が変われば、厳しい指導の基準も変わっていきます。
旧態依然とした指導では、すぐに不適切な指導だと言われて、大きな問題に発展する可能性があります。
そんな事例を分析します。
シナリオ9.
高圧的な言動による指導の問題
高校2年生のIは、授業中にスマートフォンを操作していたため、教師が「やる気がないなら教室を出なさい」と強い口調で叱責しました。
Iは反抗的な態度を取りながらも、渋々スマートフォンをしまいましたが、帰宅後、保護者に「先生に高圧的な態度を取られた」と相談しました。
翌日、保護者が学校に連絡し、「生徒の態度が悪かったとはいえ、教師が高圧的な態度を取るのは指導として適切ではない」と抗議しました。
学校側は「教室内の秩序を保つために必要な指導だった」と説明しましたが、保護者は「生徒を追い詰めるような発言はハラスメントに当たる」として、担任教師の指導方法の見直しを求めました。
他の生徒からも「先生によって指導の厳しさが違う」「怒鳴るような指導は嫌だ」との声が上がり、学校全体での指導方針の見直しが求められる事態となっています。
【高圧的な言動による指導の問題に関する法的分析】
1.問題の概要
本件は、高校2年生のIが授業中にスマートフォンを操作していたことに対し、教師が「やる気がないなら教室を出なさい」と強い口調で叱責した事例です。
Iはその場でスマートフォンをしまいましたが、帰宅後、保護者に「先生に高圧的な態度を取られた」と相談しました。
翌日、保護者が学校に連絡し、「生徒の態度が悪かったとはいえ、教師が高圧的な言動を取るのは適切ではない」と抗議しました。
学校側は「教室内の秩序を保つために必要な指導だった」と説明しましたが、保護者は「生徒を追い詰めるような発言はハラスメントに当たる」として、担任教師の指導方法の見直しを求めました。
さらに、他の生徒からも「先生によって指導の厳しさが違う」「怒鳴るような指導は嫌だ」との声が上がり、学校全体での指導方針の見直しが求められる事態となっています。
本件では、「高圧的な言動による指導」がどこまで許容されるかが法的な争点となります。
高校は義務教育ではありませんが、高校生も在学契約に基づく一定の権利を有しており、不適切な指導は小中学校と同様に問題となります。
以下、法的な観点から詳細に分析します。
2.指導の適法性とその判断基準
(1)高校における生徒の権利と指導の位置付け
高校は義務教育ではありませんが、在学契約に基づき、生徒には一定の教育を受ける権利が保障されています。
学校教育法は高校にも適用される:
高校は義務教育ではないものの、学校教育法の適用を受けます。
よって、高校生であっても、不適切な指導は問題となります。
在学契約に基づく合理的な指導の範囲:
高校生は、在学契約に基づいて教育を受ける権利を有し、学校は契約上の義務として教育を提供する責務を負います。
合理的な理由もなく生徒を授業から排除することは、在学契約の不履行となる可能性があります。
(2)本件の指導の適法性
教師の発言「やる気がないなら教室を出なさい」は、生徒指導の一環として許容される範囲か、不適切な指導とみなされるかが争点となります。
指導の目的の正当性:
・Iのスマートフォン使用は授業の妨げになっており、指導を行うこと自体は教育上正当な行為です。
・教室の秩序を維持することは、教師の権限の範囲内です。
指導の方法の適切性:
・「やる気がないなら教室を出なさい」という発言は、生徒に強い心理的圧力を与える可能性があります。
・合理的な指導であれば、まず「スマートフォンをしまうように冷静に指示する」など、段階的な指導が求められます。
・強い口調で叱責し、生徒を教室から排除する方向に誘導することは、「教育的指導の範囲を超える可能性」があります。
3.生徒の受けた影響
Iが「高圧的な態度を取られた」と感じており、他の生徒からも「先生によって指導の厳しさが異なる」「怒鳴るような指導は嫌だ」との声が上がっていることから、生徒に与える心理的影響は無視できません。
以上を踏まえると、本件の指導は「生徒指導の範囲にあるが、教育的配慮を欠いていた可能性がある」と評価されます。
4.学校の管理責任
(1)安全配慮義務と指導の適正化
法令は、学校が生徒の安全と健全な成長を保障する「安全配慮義務」を負うことを定めています。
・「高圧的な言動が常態化し、生徒の心理的安全を損なう場合」、学校の管理責任が問われる可能性があります。
・本件では、他の生徒からも同様の訴えが出ていることから、学校の指導方針に問題がある可能性が指摘されます。
(2)ハラスメントの観点
・「生徒を追い詰めるような発言」は、教育上のハラスメント(アカデミック・ハラスメント)とみなされる可能性があります。
ハラスメントと判断されるかは、「指導の目的」「発言の内容」「生徒の受けた影響」の3点で判断されます。
・本件の発言は、「不適切な指導である可能性があるが、ハラスメントとまでは断定できない」と考えられます。
5.今後の対応と再発防止策
本件を踏まえ、以下の対応策が求められます。
指導方針の明確化と全教員への周知
「高圧的な言動を避け、段階的な指導を行う」ことを教員間で共有し、指導方針の統一を図る。
教員向けハラスメント研修の実施
「ハラスメントと適切な指導の境界」を教員に教育し、高圧的な言動を避ける意識を醸成する。
生徒相談窓口の設置
「指導に対する意見を自由に伝えられる場」を設け、生徒の声を反映した指導体制を構築する。
段階的指導の徹底
「生徒に注意を促す際は、まず冷静に口頭で指導し、それでも従わない場合にのみ、厳しい対応を行う」といった指導マニュアルを作成する。
まとめ
本件は、「生徒指導の正当性」と「高圧的な言動の適切性」が問われる事例です。
教師の指導は、Iの授業態度を改善する目的であり、指導の必要性自体は認められます。
しかし、「やる気がないなら教室を出なさい」という発言は、生徒に過度な心理的圧力を与える可能性があり、指導方法として適切だったかが問われます。
学校は、安全配慮義務を果たすため、教員研修や相談体制の整備を行い、高圧的な言動を防ぐ指導方針を徹底する必要があります。
今後、指導の適切な範囲を明確にし、生徒が委縮せず、健全な学習環境の中で指導を受けられる体制を整えることが求められます。
ではまた!
レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕