【教員の働き方改革と教育現場の効率化】
レトリカ教採学院、学院長の川上です。
教員の長時間労働は、教育現場の課題として長年指摘されてきました。
これに対処するため、政府や教育委員会は働き方改革を進め、教員の業務負担軽減や業務効率化、部活動改革に取り組んでいます。
本稿では、教員の長時間労働の実態と働き方改革の進展、具体的な取り組み事例、さらにワークライフバランスを考慮した教員の未来の働き方について解説します。
1. 教員の長時間労働の実態と働き方改革の進展
長時間労働の実態
文部科学省が平成28年度(2016年)に実施した「教員勤務実態調査」によると、小学校教員の約3割、中学校教員の約6割が週60時間以上勤務していると報告されています。この長時間労働の背景には、以下の要因が挙げられます。
1. 部活動の指導
特に中学校では、教員が平日だけでなく土日も部活動指導に時間を割くことが一般的です。
2. 事務作業の増加
成績処理、授業準備、保護者対応、会議、学校行事の準備などが教員の業務負担を増大させています。
3. 児童生徒への個別対応
不登校、いじめ対応、特別な支援を要する児童生徒への対応が増えています。
これらの複合的な要因が、教員の長時間労働を引き起こしているのです。
働き方改革の進展
こうした課題に対応するため、政府は以下のような政策を打ち出しています。
「学校における働き方改革に関する取組の徹底について(通知)」(2019年)
文部科学省が策定した方針では、教員の業務負担軽減のため、教員の業務の在り方や業務の改善等が提言されています。
改正給特法(2019年成立、2020年施行)
教員の長時間労働を是正し、業務負担を適切に管理するための法改正が行われました。
2. 改正給特法の内容と影響
「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)は、2019年12月に改正され、2020年から施行されています。この改正の主な内容は以下の通りです。
(1) 一年単位の変形労働時間制の導入
地方公共団体の判断により、一年単位の変形労働時間制を適用できるようになりました。
これにより、学期中に業務が集中する時期と、夏休みなどの比較的業務負担が少ない時期の勤務時間を調整することが可能になりました。
例えば、学期中は時間外勤務を認める一方で、長期休暇中に休暇を取りやすくする仕組みです。
(2) 業務量の適切な管理に関する指針の策定
文部科学大臣が教員の健康と福祉を確保するため、業務量の適切な管理に関する指針を策定することが義務付けられました。
これに基づき、各自治体や学校は教員の業務量を見直し、時間外勤務を抑制する取り組みを進めています。
3. 部活動改革や業務効率化の取り組み事例
部活動改革
部活動は教員の長時間労働の主因の一つとされてきました。このため、以下のような改革が進められています。
1. 地域指導者の活用
地域のスポーツ指導者や外部講師を活用し、教員の部活動指導の負担を軽減しています。
たとえば、横浜市では、外部指導者を活用し、休日の部活動の負担軽減を図る取り組みを進めています。
2. 部活動の地域移行
中学校の部活動を地域のスポーツクラブや文化団体に移行する取り組みが進んでいます。
この改革は2023年度から段階的に実施されており、教員の負担軽減と指導の質向上が期待されています。
業務効率化
教員の業務を効率化するための具体的な取り組みには以下のものがあります。
1. ICTの活用
出欠管理や成績処理を自動化するシステム、オンライン授業の実施など、ICT(情報通信技術)の活用が進んでいます。
2. 校務支援スタッフの配置
学校に事務作業を支援するスタッフを配置することで、教員が教育活動に専念できる環境を整備しています。
4. ワークライフバランスを考慮した教員の働き方の未来像
教員の健康と教育の質を両立するため、以下のような未来像が考えられます。
(1) 教員の専門性を活かす環境
授業準備や児童生徒への対応に集中できるよう、校務分担を明確化し、非教育的業務を他の職員や外部に委託します。
個別指導や教材開発に必要な時間を確保することで、教員の教育力を最大限に引き出します。
(2) 柔軟な勤務形態の導入
リモートワークやフレックスタイム制の導入により、働きやすい環境を整備します。
育児や介護などのライフイベントと両立できる勤務形態を提供します。
(3) メンタルヘルスの支援
教員のストレスを軽減するためのカウンセリング制度や相談窓口の設置。
定期的なストレスチェックの実施と、それに基づくフォローアップ。
終わりに
教員の働き方改革は、教育の質を維持しながら持続可能な教育環境を整えるために欠かせない課題です。
長時間労働の是正や業務効率化が進むことで、教員は本来の教育活動に専念できるようになります。
教員採用試験を目指す皆さんには、働き方改革の意義を深く理解し、未来の教育現場でどのように貢献できるかを考えていただきたいと思います。
持続可能な教育環境の構築に向けて、皆さんの取り組みに期待しています。
ではまた!
レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕