【学校での保護者との法律トラブルをわかりやすく解説】by 川上貴裕

レトリカ教採学院、学院長の川上貴裕です。

本日は、最近話題の、体罰と誤解される指導、不適切な指導についての法的分析です。

シナリオその4

授業中に落ち着きのない児童Dが、何度注意しても席を立ってしまうため、担任がDの肩に手を置いて「座りなさい」と指導しました。すると、Dの母親が「担任に子どもが無理やり押さえつけられた」と学校に抗議し、説明を求めました。担任は、「体罰にあたる行為はしておらず、適切な指導をしたつもりです」と説明しましたが、Dの母親は「子どもが怖がっている」とし、教育委員会にも相談しました。校長は「指導の適正性について確認する」と話しましたが、母親は「もうこの担任には任せられない」として、担任変更を要求しました。学校はDの母親の意見を尊重すべきか、それとも担任の指導を支持すべきか、判断を迫られています。

教師による体罰・指導の適法性に関する法律的分析

  1. 問題の概要

本件では、授業中に落ち着きのない児童Dが何度注意しても席を立ってしまったため、担任がDの肩に手を置いて「座りなさい」と指導しました。

しかし、Dの母親は「担任に無理やり押さえつけられた」と抗議し、学校に説明を求めました。担任は「体罰にあたる行為はしておらず、適切な指導を行った」と説明しましたが、Dの母親は「子どもが怖がっている」とし、教育委員会にも相談しました。

さらに、「もうこの担任には任せられない」と担任変更を要求しました。

本件の主要な法的論点は、次の3点です。

  1. 担任の行為は「体罰」に該当するか

  2. 学校が保護者の要求に応じて担任を変更する義務があるか

  3. 学校がとるべき適切な対応とは何か

以下、これらの点について詳細に分析します。

  1. 担任の行為は「体罰」に該当するか

(1) 体罰の法的定義

学校教育法第11条では、校長及び教員は、教育上必要がある場合においても、体罰を加えてはならないと主旨の規定をしています。

これは、教育目的であっても肉体的苦痛を伴う指導を禁止するものです。

また、文部科学省の「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」(平成25年3月13日付通知)では、体罰について以下のように定義しています。

  1. 児童生徒に対し、身体的苦痛を与える行為

  2. 一定の姿勢を強制し、長時間保持させるなどの行為

具体例として、「殴る、蹴る」「正座・起立を長時間強いる」などが挙げられています。

(2) 本件の担任の行為の適用

本件では、担任が児童Dの肩に手を置いて「座りなさい」と指導したという行為が体罰に該当するかが問題となります。

軽く肩に手を置いた程度であれば、「肉体的苦痛を与える行為」には該当せず、体罰とは言えません。

強く押さえつけた場合は、状況によっては「児童生徒に身体的苦痛を与える行為」とみなされる可能性があります。

本件の判断においては、行為の態様(力の加え方や時間)、児童の感じ方、学校内での証言などの証拠が重要になります。

Dが恐怖を感じたとしても、それは心理的要素であり、担任の行為が直ちに法的な「体罰」と認定されるわけではありません。

  1. 担任変更要求の法的妥当性

(1) 担任変更の法的根拠

学校教育法や関連法令において、保護者が担任の変更を要求し、学校がそれに応じる義務があるとは規定されていません。

担任の任命や配置は、校長の裁量によるものであり、保護者の要求によって直ちに変更すべき義務はありません。

ただし、担任の指導が著しく不適切で、児童に対する精神的・身体的な影響が大きい場合には、学校として配置転換を検討する余地はあります。

(2) 担任変更が認められるケース

一般的に、担任変更が認められるのは以下のような場合です。

  1. 明確な体罰・暴力行為が認定された場合

  2. 差別的または人格を否定する指導が繰り返された場合

  3. クラス運営に大きな支障が出ている場合

本件では、担任の行為が体罰に該当するか不明確であり、直ちに担任変更を求める法的根拠は乏しいです。

ただし、児童Dの心理的影響を考慮し、慎重に対応する必要があります。

  1. 学校がとるべき適切な対応

(1) 事実関係の調査

まず、担任の指導の適切性について、事実関係を慎重に調査することが不可欠です。

具体的には以下の対応を取るべきです。

  1. 担任からの聞き取り調査

  2. 他の教職員やクラスメートの証言の確認

  3. 指導の際の録音・映像がある場合の確認

  4. 児童D本人の意見を尊重しつつ、客観的な判断を行う

この調査をもとに、担任の指導が適切であったかどうかを評価します。

(2) 保護者への説明と対応

学校側は、Dの母親に対して、調査結果を踏まえた説明を丁寧に行うことが重要です。

担任の指導が適切であった場合

→ 保護者に対し、体罰には該当しないことを説明し、納得を得る努力をする。

担任の指導に問題があった場合

→ 再発防止策を講じ、指導方法を改善する。

(3) 児童Dへのフォロー

Dが担任に対して恐怖心を持っている場合、適切なケアが必要です。

スクールカウンセラーの活用や、別の教師が一定期間フォローするなどの配慮が求められます。

(4) 教職員の指導法の見直し

本件を契機に、教職員全体で「体罰と指導の境界線」について再確認し、適切な指導法を共有することが望ましいです。

  1. まとめ

本件では、担任の行為が体罰に該当するかが問題となりますが、肩に手を置く行為が直ちに体罰とされる可能性は低いです。

ただし、指導の態様によっては、心理的影響を考慮する必要があります。

また、保護者が担任変更を要求しても、学校には直ちに応じる義務はありません。

ただ、児童Dの心理的状態や保護者の不信感が深刻な場合、学校として柔軟な対応を検討する余地はあります。

学校は、事実関係を丁寧に調査し、保護者に適切な説明を行い、児童Dの心理的ケアも含めた包括的な対応をとることが求められます。

ではまた!

レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕


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