【学校での保護者との法律トラブルをわかりやすく解説】by 川上貴裕(規律指導と不適切な指導)
レトリカ教採学院、学院長の川上です。
昭和の時代には、「罰として、運動場3週、走ってこい!」のような風景は、よく見られました。
体育の授業でもないのに、運動場を走らせる、このような指導は、令和の現在では、許されるのでしょうか?
法律的に、分析してみましょう。
シナリオ4
厳格な規律指導と不適切な指導の境界
中学1年生のDが朝の学年集会に遅刻したため、生活指導担当の教師が「次に遅刻したら校庭を3周走ること」と指示しました。
Dは「どうして走らなければならないのか」と不満を抱きましたが、教師は「規律を守ることが大切」と説明しました。
しかし、Dの保護者はこの対応に疑問を持ち、「体育の授業ではないのに、運動を強要するのは体罰にあたるのではないか」と学校に抗議しました。
保護者は「規律指導は必要だが、運動を罰として課すのは問題がある」と主張し、指導方法の見直しを求めています。
学校側は「罰ではなく、意識を高めるための指導」と説明しましたが、他の保護者からも「生徒を罰として走らせる指導は時代遅れではないか」との意見が出ており、指導方法の適正性が問われています。
厳格な規律指導と不適切な指導の境界に関する法的分析
1.問題の概要
本件は、中学1年生のDが朝の学年集会に遅刻したことに対し、生活指導担当の教師が「次に遅刻したら校庭を3周走ること」と指示したことを発端としています。
Dは「なぜ走らなければならないのか」と不満を抱きましたが、教師は「規律を守ることが大切」と説明しました。
その後、Dの保護者が学校に対し、「体育の授業ではないのに、運動を強要するのは体罰にあたるのではないか」と抗議しました。
保護者は「規律指導は必要だが、運動を罰として課すのは問題がある」と主張し、指導方法の見直しを求めました。
一方、学校側は「罰ではなく、意識を高めるための指導」と説明しましたが、他の保護者からも「生徒を罰として走らせる指導は時代遅れではないか」との意見が出ており、指導方法の適正性が問われています。
本件に関する主要な法的論点は以下のとおりです。
教師の懲戒権の範囲と本件指導の適法性
運動を強要する指導が「体罰」に該当するか
本件の指導が「不適切な指導」に該当する可能性
(1) 教師の懲戒権の範囲と本件指導の適法性
学校教育法第11条(懲戒権)の適用
学校教育法第11条では、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、児童生徒に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と規定されています。
文部科学省の通知 「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(平成25年3月13日通知)」では、以下のような懲戒権の行使が適法とされています。
注意、叱責、居残り、別室指導、起立、宿題、清掃、学校当番の割当て、文書指導 などの指導は、通常、懲戒権の範囲内とされる。
一方で、「罰として運動を強要すること」が懲戒権の範囲内と明確に認められているわけではありません。
そのため、本件の「校庭を3周走る」という指導が懲戒権の範囲内かどうかは、慎重に検討する必要があります。
▶結論:
・懲戒権の範囲内での適正な指導として認められる可能性はあるが、「罰としての運動強要」が適法かは慎重に判断する必要がある。
本件指導が「体罰」に該当しないかを次に検討する。
(2) 運動を強要する指導が「体罰」に該当するか
文部科学省の通知における体罰の定義
文部科学省の通知 「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」 では、体罰を次の2つに分類しています。
身体に対する直接的な侵害
例:殴る、蹴る、平手打ちをする、物を投げつける など
児童生徒に肉体的苦痛を与える行為
例:長時間の正座や起立を強いる、外に立たせる など
「校庭を3周走ること」が 「体罰」に該当するかについては、「肉体的苦痛を与える行為」に該当するかが問題となります。
本件の場合、「一定の肉体的負担を伴う運動を強要する行為」であるため、文部科学省の基準に照らすと、体罰と評価される可能性が高いと考えられます。
▶結論:
・本件の「校庭を3周走る」という指導は、運動を強要する行為であり、文部科学省の体罰の定義に該当する可能性が高い。
・よって、学校教育法第11条に違反する「体罰」として違法性を帯びる可能性がある。
(3) 本件の指導が「不適切な指導」に該当する可能性
仮に本件の指導が体罰と評価されない場合でも、不適切な指導として問題視される可能性があります。
以下の観点から検討します。
指導の合理性と目的の適切性
本件の指導の目的は「規律を守らせること」にありますが、その手段として 「罰として運動を課す」ことが適切かが問われます。
教育目的の観点から、「罰としての運動」が規律指導として合理的な手段であるか疑問が残る。
児童生徒への心理的影響
一部の生徒に対し、運動を強要することが「見せしめ」になり、過度な精神的圧力を与える可能性があります。
・指導の公平性や児童生徒の心理的負担を考慮すれば、別の方法で規律を指導することが望ましい。
▶結論:
・本件の指導は、仮に体罰に該当しないとしても、「不適切な指導」と評価される可能性が高い。
・運動を強要することは、指導の合理性に欠け、児童生徒の心理的影響を考慮すべき点がある。
まとめ
本件の法的な問題点の整理
「校庭を3周走る」という指導は、懲戒権の範囲を逸脱し、体罰に該当する可能性が高い。
仮に体罰に該当しない場合でも、「不適切な指導」として問題視される可能性がある。
規律指導の手段として、運動を強要することは教育上の観点からも妥当性を欠く。
今後の対応策
学校が本件のような指導を適正に行うためには、以下の点を考慮する必要があります。
「罰としての運動」を指導手段としない
・文部科学省の通知に基づき、運動を罰として課す指導は行わないことを徹底する。
・規律指導のために、別の懲戒手段(注意、叱責、課題提出指導など)を検討する。
保護者との適切なコミュニケーション
・規律指導の目的を明確に伝え、保護者と協議することで、指導の妥当性を確保する。
児童生徒の心理的影響を考慮した指導の徹底
・規律指導においても、罰則的な要素を排除し、児童生徒の理解と協力を得る形で行う。
ではまた!
レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕