【学校での保護者との法律トラブルをわかりやすく解説】by 川上貴裕(事例:厳しい指導の境界線)
レトリカ教採学院、学院長の川上です。
今日からは、「体罰と誤解される指導」・「不適切な指導」・「行き過ぎた指導」に関する10のシナリオを、毎日、1シナリオずつ、分析していきます。
教師の中には、「殴る・蹴る」をしなければ、どんなに厳しく指導してもいいと思っている人もいるようですが、法律は、それを許しません。
何が「不適切な指導」・「行き過ぎた指導」になるのかを、紐解いていきます。
シナリオ1
厳しい指導の境界線
小学校5年生の児童Aは、授業中に私語を続けており、担任が何度注意してもやめませんでした。そこで、担任は「静かにしなさい」と強い口調で叱責し、さらに児童の注意を引くために、机を強く叩きました。このとき、Aは驚いて泣き出し、その様子を見たクラスメートも緊張した雰囲気になりました。
その後、Aの保護者が学校に連絡し、「教師が子どもを威圧的に叱責し、精神的な苦痛を与えたのではないか」と抗議しました。保護者は「授業中の指導であっても、強い言葉や威圧的な態度は精神的な体罰にあたるのではないか」と述べ、教師の指導方法の改善を求めました。
一方、学校側は「授業を円滑に進めるための指導であり、体罰には該当しない」と説明しました。しかし、保護者は「暴力行為ではなくても、精神的な圧力を与える行為は問題だ」と主張し、担任の謝罪と今後の指導方法の見直しを求めています。さらに、他の保護者からも「先生によって指導の厳しさにばらつきがある」「子どもが委縮してしまうような指導はやめてほしい」との声が上がり、学校全体で指導の在り方が議論される事態となっています。
厳しい指導の境界線に関する法的分析
1.問題の概要
本件は、小学校5年生の児童Aが授業中に私語を続け、担任が何度注意しても従わなかったため、「静かにしなさい」と強い口調で叱責し、机を強く叩いた事例です。これによりAは驚いて泣き出し、クラスの雰囲気も緊張しました。
その後、Aの保護者が「教師が威圧的に叱責し、精神的な苦痛を与えたのではないか」と抗議し、学校に指導方法の見直しを求めました。学校側は「授業の進行を妨げる行為に対する適切な指導であり、体罰には該当しない」と説明しましたが、保護者側は「暴力ではなくても精神的な圧力をかける指導は問題だ」と主張し、担任の謝罪や学校の対応改善を求めています。
このようなケースにおいて、「厳しい指導」と「不適切な指導」の境界線はどこにあるのか、法的観点から詳しく分析します。
2.体罰の定義と本件の適用性
(1) 体罰の法的定義
学校教育法第11条では、以下のように規定されています。
「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」
文部科学省が示した「体罰の禁止に関する指針」では、体罰とは「児童生徒に身体的な苦痛を与える行為」を指すとされています。
具体的には、以下の2つの行為が体罰に該当します。
・身体に対する侵害(例:殴る、蹴る等の暴力)
・肉体的苦痛を与える行為(例:長時間の正座・直立を強制する)
本件において、担任教師は児童に対して直接的な身体的苦痛を与えておらず、机を叩いた行為に留まるため、体罰には該当しない 可能性が高いと考えられます。
(2) 本件は不適切な指導に該当するか
体罰には該当しないものの、指導の手段として適切であったかどうかが争点となります。
指導の目的
・教師の指導が授業の進行を維持するためのものであり、合理的な目的があったか。
・感情的に行われたものではなく、冷静な教育的判断に基づくものであったか。
指導の手段
・机を叩く行為が、児童にとって威圧的に感じられた可能性がある。
・大声で怒鳴るなど、児童が精神的な圧力を受けた場合、不適切な指導と判断される可能性がある。
本件では、教師が身体的な苦痛を与えたわけではないが、威圧的な言動が児童に精神的な負担を与えた可能性があるため、「指導の適法性」が問われるケースである と考えられます。
3.指導の適法性と適切な範囲
(1) 教師の指導権限と限界
教師には、児童を指導する権限があります。
これは、学校教育法や学習指導要領に基づくものであり、「教育上必要な指導は認められる」という考え方に基づきます。
しかし、指導が児童の人格を尊重し、適切な教育環境を確保するものでなければならないという前提があります。
本件のように、机を叩くといった行為が、児童に対する威圧的な指導と受け取られた場合、「教育的指導を逸脱した不適切な行為」として問題視される可能性があります。
(2) 叱責の適法性
「厳しい指導」と「不適切な指導」の境界線は、以下の要素によって判断されます。
指導の目的が正当であるか
・授業の秩序を保つために必要な指導であったか。
・児童の行動を改善するための合理的な手段であったか。
指導の手段が適切であったか
・感情的に怒鳴る、威圧的な態度を取るなど、心理的な負担を過度にかける行為があったか。
・机を叩く行為が、児童に対する恐怖や不安を生じさせたか。
児童の受けた影響
・児童が強い萎縮や恐怖を感じ、学習意欲の低下につながったか。
・クラス内の雰囲気が過度に緊張し、他の児童にも悪影響を与えたか。
以上の観点から、本件は「授業の円滑な進行を目的とした指導だったが、方法として適切であったかが問われる」ケースであると言えます。
4.今後の対応と再発防止策
本件のような事態を防ぐため、学校や教師は以下の点に留意する必要があります。
指導方法の見直し
・身体的接触や物に当たる行為を避け、冷静な言葉で指導する。
・児童に恐怖や不安を与えないよう、指導の仕方を工夫する。
児童との関係構築
・児童が教師を怖がるのではなく、信頼関係を築くことが重要。
・落ち着いて話し合う場を設けるなど、より教育的な指導を心掛ける。
学校全体での指導方針の統一
・教師ごとに指導の基準が異ならないよう、共通の指導ガイドラインを作成する。
・「厳しい指導」と「不適切な指導」の線引きを明確にし、教員研修を実施する。
まとめ
本件は、厳しい指導と不適切な指導の境界線を問うケースです。
・机を叩く行為は、身体的な体罰には該当しないが、児童が恐怖を感じた場合、不適切な指導となる可能性がある。
・指導の目的は適法であるものの、手段として適切であったかが問われる。
・今後は、落ち着いた口調での指導や、児童との信頼関係の構築が求められる。
学校全体で指導の在り方を見直し、教育的配慮を持った指導を徹底することが求められます。
ではまた!
レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕