【学校での保護者との法律トラブルをわかりやすく解説】by 川上貴裕(事例:居残り指導と体罰の境界)
レトリカ教採学院、学院長の川上です。
合法的に許される放課後の「居残り指導」も、そのやり方によっては、不適切な指導(行き過ぎた指導)となってしまうことがあります。
「居残り」ならさせても構わないと、あまりに濫用すると、不適切な指導として、法的な問題になる可能性も秘めています。
その辺りのことを、分析していきましょう。
シナリオ3
放課後の居残り指導と体罰の境界
小学6年生の児童Cは、授業中の課題を繰り返し提出しなかったため、担任が「提出するまで帰れません」と放課後に居残りを命じました。Cは「もう時間が過ぎているのに、なぜ帰してくれないのか」と不満を抱きましたが、担任は「やるべきことをやらない限り帰ることはできません」と指導を続けました。
Cの保護者は、子供が帰宅後に「先生に無理やり残された」と泣きながら訴えたことを受け、翌日、学校に抗議しました。保護者は「学習指導のためとはいえ、長時間拘束するのは問題ではないか」と述べ、「これは体罰にあたる可能性がある」と指摘しました。
学校側は「学習指導の一環であり、必要な対応だった」と説明しましたが、保護者は「心理的な圧力をかけることで子供に不安を与えている」として、教育委員会への相談を検討しています。
放課後の居残り指導と「行き過ぎた指導」の境界に関する法的分析
1.問題の概要
本件は、小学6年生の児童Cが授業中の課題を繰り返し提出しなかったため、担任が「提出するまで帰れません」と放課後の居残り指導を命じたことを発端としています。
Cは「もう時間が過ぎているのに、なぜ帰してくれないのか」と不満を抱きましたが、担任は「やるべきことをやらない限り帰ることはできません」と指導を継続しました。
その後、Cの保護者は、子供が帰宅後に「先生に無理やり残された」と泣いて訴えたことを受け、翌日、学校に抗議しました。
保護者は、「学習指導のためとはいえ、長時間拘束するのは問題ではないか」と指摘し、「これは体罰にあたる可能性がある」と述べました。
一方、学校側は「学習指導の一環であり、必要な対応だった」と説明しましたが、保護者は「心理的な圧力をかけることで子供に不安を与えている」として、教育委員会への相談を検討しています。
本件において、法的に検討すべき主要な論点は以下のとおりです。
放課後の居残り指導が学校教育法上の懲戒権の範囲内であるか
指導の態様が「行き過ぎた指導」として不適切であったか
保護者の主張する「体罰」として評価される可能性があるか
本件の指導が適切であるとするための基準と今後の対応
法的な問題点の整理
(1) 放課後の居残り指導は懲戒権の範囲内か
学校教育法第11条(懲戒権)の適用
学校教育法第11条では、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、児童生徒に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と規定されています。
本件のように、課題を提出しない児童に対し、学習指導の一環として「放課後の居残り指導」を行うこと自体は、教育上の正当な懲戒として許容される可能性が高い です。
また、文部科学省の通知 「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(平成25年3月13日)」 においても、「居残り指導」は懲戒権の範囲内であると明記されています。
▶結論:
・放課後の居残り指導は、原則として適法であり、懲戒権の範囲内とされる。
・ただし、指導が「行き過ぎた指導」となる場合、不適切な指導と評価される可能性がある。
(2) 指導の態様が「行き過ぎた指導」に該当するか
指導が「行き過ぎた」と評価されるかは、以下の要素によって判断されます。
1.指導の時間の長さ
・学習指導のための居残りは許容されるが、長時間に及ぶ拘束は、指導としての妥当性を失う可能性がある。
・例えば、放課後1時間程度の居残りは一般的に許容されるが、保護者の迎えが必要な児童を極端に長時間拘束することは問題となる。
2.指導の目的と手段の適正性
・指導の目的が児童の学習改善であり、それに適した手段が講じられていたかが重要。
・「提出するまで帰れない」という指導方法は、心理的なプレッシャーを与える可能性があるため、適切な目標設定と児童との合意形成が必要。
3.児童の心理的影響
・居残り指導によって児童が極端な不安やストレスを感じた場合、それが 「精神的な圧迫を伴う不適切な指導」 と評価される可能性がある。
・特に、小学生の場合は心理的影響を考慮し、適切な指導を行う必要がある。
▶結論:
・指導時間が過度に長く、児童に過剰な心理的負担を与える場合、不適切な指導(行き過ぎた指導)と判断される可能性がある。
・指導の目的が正当でも、方法が過度に厳しい場合、不適切な指導として問題となる。
(3) 「体罰」に該当するか
文部科学省の通知による体罰の定義
文部科学省の通知では、「体罰」を 「児童生徒に身体的苦痛を与える行為」と定義しています。
・本件では、居残り指導は身体的苦痛を伴うものではなく、体罰には該当しないと考えられる。
▶結論:
・放課後の居残り指導は、身体的苦痛を伴わないため、法的に「体罰」には該当しない。
・しかし、指導が心理的に過度なストレスを与える場合、「不適切な指導」として問題視される可能性がある。
まとめ
本件のポイントは、以下の3点に集約されます。
放課後の居残り指導は、文部科学省の通知により懲戒権の範囲内と認められる。
しかし、指導時間の長さや方法によっては、不適切な指導(行き過ぎた指導)とされる可能性がある。
居残り指導は体罰には該当しないが、児童の心理的負担を考慮し、適切な指導を行う必要がある。
学校が本件のような指導を適正に行うためには、以下の点を考慮する必要があります。
1.適正な指導時間の設定
・居残り指導を行う場合は、過度に長時間拘束しないよう注意が必要。
・例えば、30分以内の指導を原則とし、児童が疲れすぎないよう配慮する。
2.指導の目的と方法を明確にする
・児童に対して、「なぜ居残りをするのか」を明確に伝え、適切な理解を促す。
・「提出するまで帰れない」といった強制的な言葉は避け、柔軟な対応を取る。
3.保護者との連携
・居残り指導を行う前に、保護者へ連絡し、理解を得ることが望ましい。
ではまた!
レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕