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神舞ひろし
2020年10月1日 07:41
店はボーリング場にほど近い場所にあった。 観光客は絶対に来ないだろうと思える年季の入った路面店で、暖簾を潜り入口ドアのガラス越しに見えた、カウンターと安っちい四人掛けテーブルが二つしかない街の中華屋のような店内は、サラリーマンやOL達で賑わっていた。 店に入り見回しても、浦見恭平の姿は確認出来なかった。 「いらっしゃい。あっ、キョウちゃんのコレの、ねっ」 そう言ってカウンターの中の大将が
2020年10月2日 08:01
広く青い空と綿のように浮かんだ白い雲がいて、時折吹く丁度いい風が日差しの熱さを和らげる。目一杯に開いた黄色は東の空を向き、風に揺れる葉は蒼々としている。 こんなにも心躍らない向日葵畑は初めてだった。 喧騒にまみれている空港を出たところでうしろから呼びかけられた。声から道上だと直ぐにわかった。俺は無視して歩みを速めた。雨が降ったのかアスファルトには、水溜りが幾つも出現していた。 「すみませ
2020年10月3日 07:45
仲野の前の電話が鳴った。 「はい、仲野です。はい。はい。わかりました」 電話を切ると仲野は、鏡の前に立って身繕いを始めた。 「出てきます」 そう言って仲野は部屋を出て行った。 神村は「仲野です」と電話に出たことと身繕いの時間の長さから推測して、(ああ、誰か上の人間に呼び出されたな)そう思った。 「失礼します」 「おお、来たか。ご苦労様、ご苦労様。君は席を外してくれ」 「はい」