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『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』の概要と講座のご案内

1.日本の夏は酷暑の苦行

 日本の夏は人間が生活するのに不向きな気候になってしまいましたね。車に乗って車外温度を見ると40度越えも珍しくありません。

 こんな時期にエアコンも使わずにフィットネス系のヨガなんてやるもんじゃありません。そもそもハタヨーガの古典でも、ハタ・ヨーガを行ずるには『炎熱や水に煩わされぬ場所』でと書かれています。


 インドでは真夏の日中の一番暑い時間帯に自分の周りに牛糞で焚火をし、頭の上に火鉢?だか植木鉢だかを乗せて、そこでも火を焚いてヨガのポーズをしているような行者を見ることがありますが、ホットヨガってアレを目指しているのでしょうかね🥵

 インド人のアレはタパス(熱行/苦行)と言って一種の願掛けです。日本で言うならお百度巡りとか、物断ち(特定の飲食物〈茶や塩等〉をとらないこと)、寒い時期の水垢離、千日回峰行等々、神に願いを掛ける代わりに、肉体を痛めつける行為です。

 神がその姿を認めて願いを叶えてくれるまでに数十年から数千年という時間をかけたりすることがインド神話ではよくあります。
 数千年なんてねぇ😓

2.文献上のヨーガの歴史

①リグヴェーダのくびきのヨーガ

 YOGAの歴史を辿ると最古の“文献”としてはリグヴェーダに辿り着くのですが、そこに書かれているYOGA(√yuj-)とは牛や馬に“くびきを付けること”です。これは英語で言うyokeと同じ意味ですね。

 家畜を車に繋ぎ、重労働をさせることから転じて「辛いこと、苦しいこと、仕事、事業、戦争、ストレスのかかる状態」を指す言葉としてYOGAという単語が使われたようです。
 なので苦行(タパス)も遥かな昔はYOGAと同義語だったかもしれませんが、現在のYOGAには“瞑想状態になり思考を離れること”が求められているので、願掛けの苦行とは別物と考えた方が良いでしょう。

②初期佛教のヨーガ

 リグヴェーダには「未だ得ていない財を得ることがヨーガ(yoga)、得た[財を]守ることがクシェーマ(kșema)‥」として“ヨーガ・クシェーマ”という言葉が使用されていましたが、原始佛教では同じ“クシェーマ”という言葉を“解放”として「苦しみからの解放」という文脈でYOGAという言葉が使われたようです。
 なので、お釈迦様の行っていた苦行や瞑想修行は、現代の文脈とは別に「きつい修行を行い、解脱を目指す人」という意味でYOGAやyogācāra(ヨーガ修行者)と呼ばれていたようです。

 当時からサードゥという出家修行者は存在していた筈ですが彼等のイメージは、ホームレスで、髪は伸ばし放題のドレッドヘアー、泥だらけ(実際は灰ですが)、奇抜な格好で槍等の武器を持つものもいる。
 そんな『ヨーギン』とも呼ばれるサードゥと、剃髪してお袈裟をキチンと身につけた佛教の僧侶を同じ『ヨーガ行者』と呼ぶのは何となく違和感が有りますが、佛道修行者もyogācāra(ヨーガ修行者)と呼ばれていたようです。

③佛教密教とハタ・ヨーガ

 時代が過ぎて、大乗佛教の発展系として密教が産まれた時代に『ハタ・ヨーガ』という、体位やプラーナ、イメージや瞑想を使った密教(タントラ)と呼ばれる行法が生まれます。佛教密教とよく似た行法を持つシヴァ教タントラとで覇を競った時期も有り、佛教密教ではシヴァ神を折伏して佛教の守護神に据えたり、シヴァ教では佛教密教の教義を取り込んだり、またその逆もあったり、と色々な歴史が産まれました。

 西暦1203年(1193年説も有り)ヴィクラマシーラ僧院をイスラム教徒(ムスリム)が徹底的に破壊した事により、インド佛教は公式には消滅します。
 佛教密教の教義はチベット佛教として生き残ります。

 そして『ハタ・ヨーガ』という名前はシヴァ教ナータ派が引き継ぎました。

④ヒンドゥー・タントラのハタ・ヨーガ

 シヴァ教の中でも「聖典シヴァ派(シャイヴァ・シッダーンタ派)」や「カシミールシヴァ派(トリカ)」「女神派(女神教シュリークラ派)」等の多数派以外に「パーシュパタ派(含 カーラームカ派)」「ラセーシュヴァラ派」「リンガーヤット派(ヴィーラ・シャイヴァ派)」「シャークタ派」「ヴィーラ派」「カーパーラ派(カーパーリカ派)」「アゴーラ派」「ナンガ(裸形)派」等々、多数の派閥が存在しました。


 シヴァ教・女神派(女神教シュリークラ派)のハタ・ヨーガの経典(彼等はハタとは言わずに「風の成就法ヴァーユ・サーダナ」と称した)には『シヴァ・サンヒター』が有りました。

 ヴィシュヌ教のハタ・ヨーガの経典は『ゲーランダ・サンヒター』、彼等もハタという言葉は使わずに「壺で在るためのガタスタ・ヨーガ」という呼称を使っています。

 面倒なので以降は全部ひっくるめて『ハタ・ヨーガ』に統一して表記します。


⑤現代のハタヨガっぽいヨガのこと

 現代YOGAも『ハタ・ヨーガ』から派生したものとして多様な名前があります、いくつ体験したことがありますか?またはどんなものかあなたは説明できるでしょうか?

 例えば、アイアンガーヨガ、アクロヨガ、アシュタンガヨガ、アヌサラヨガ、アロマヨガ、イシュタヨガ、椅子ヨガ、陰(陽)ヨガ、エアリアル(空中)ヨガ、岩盤ヨガ、加圧ヨガ、キャンドルヨガ、クリパルヨガ、クンダリーニヨガ、暗闇ヨガ、サップヨガ、シヴァナンダヨガ、ジヴァムクティヨガ、シニアヨガ、ダンスヨガ、チャイルド(キッズ)ヨガ、ナイトクラブヨガ、ネイキッド(ヌード)ヨガ、パーク(山)ヨガ、ハリーポッターヨガ、パワーヨガ、ビーチヨガ、ビンヤサヨガ、フローヨガ、ペットヨガ、ホットヨガ、ホースバックヨガ、ボルダリングヨガ、ラフター(笑い)ヨガ、ロケットヨガ、マタニティ(妊活)ヨガ、リストラティブヨガ、ワインヨガ、ビールヨガ、指ヨガ、顔ヨガ、脳ヨガ、etc, etc

 「ヨガとは繋がること」とかいう説明を聞くことがありますが、その名のとおり色んなものと繋がっていますねぇ🤣

 え〜?っと言いたくなるようなモノ(ヨガとは?とか考えてしまうモノ)も有れば、長く付き合うとしたらどれが自分に向いているのか、アクロバティック過ぎて身体に負担はないのか、危険なカルト宗教のフロント企業が経営しているものは無いのか?とか、誰もが一度は考えたことが有るのではないでしょうか。


3.ハタ・ヨーガ・プラディーピカーについて

①ハタ・ヨーガとは何か

 多くのYOGAがあるものの、そもそも『ハタヨーガ』とは何なのか、何故こんなにも多様な教義があって混乱しているのか?その根幹となる教えは何を目指しているのか?
そんな疑問は昔々からあったらしいのです。
 この記事の中だけでも以下のヨーガがありました。

◆リグヴェーダの「軛のヨーガ」
◆初期佛教から続く「瞑想系のヨーガ」
◆佛教密教・チベット佛教の「ハタ・ヨーガ」
◆シヴァ教タントラの「風の成就法ヴァーユ・サーダナ
◆ヴィシュヌ教タントラの「壺で在るためのガタスタ・ヨーガ」

 実際には上記以外にも、ウパニシャッドのヨーガやジャイナ教のヨーガ、スーフィー(イスラム教神秘主義)のヨーガ等の種々雑多なヨーガが存在していました。

 15世紀ごろに書かれたシヴァ教ナータ派の聖典『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』には「数多あまたの教義の暗闇を彷徨さまよい、ラージャ・ヨーガに至らぬ者らに『ハタの灯明』を伝授する」と書かれています。

 ん?逆に読むと、ハタ・ヨーガを極めるとラージャ・ヨーガに至ることが出来るらしい。
 まてまて?ラージャ・ヨーガってヨーガ・スートラの瞑想系のヨーガのことじゃなかったっけ?と思ったあなた、ヨーガ・スートラ(5世紀頃の聖典)の中にはラージャ・ヨーガという文言は有りません。

②ヴィヴェーカナンダ以前のラージャ・ヨーガ

 19世紀末にヴィヴェーカナンダが発表した『ラージャ・ヨガ』という書物は、ヒンドゥー教の宗教実践としてのカルマヨガ、ジュニャーナヨガ、バクティヨガを説明するにあたって、そのヨガって何か?を説明するためにヨーガスートラを持ち出して、それをラージャ・ヨガと呼んだとしか思えないんですよ。
 では、それ以前にいわれていたラージャ・ヨーガとはどのようなヨーガだったのか?そこに至るためのハタ・ヨーガの灯明(迷いという暗闇を照らす燈、明らかになった教え)とはどのようなものなのか?現代の我々が行なっているアーサナやプラーナーヤーマ、バンダやムドラー、瞑想と同じなのか、違うものなのか?
 もっと言えば苦しみの多いこの世界を、もっと軽々と生きていけるヒントが得られるのだろうか?

 そう、ヨーガとは最終的には「苦しみからの解放」
 だけど現代に生きる我々には出家修行者の真似は出来ないし、したくもない。

③現代ヨガの原型

 在家の我々のためのヨーガについて100年前(20世紀初頭)のインドで考えた人がいました。
 一日中逆立ちしていたり、何年も片腕を肩より下に降ろさなかったりする乞食行者の強靭な生命力に注目したのです。
 行者の様な極端な修行でなくとも、そのエッセンスを抜き出して堅気の人間が行ったら健康になったり長命になったりするのではないか。
 そう考えたクヴァラヤーナンダ氏がヨーガ行者の行っている、ヘンテコな身体操作術のハタ・ヨーガを学術的に研究したおかげで、現代ヨーガ(現在、ハタヨガと呼ばれているもの)の原型が出来たのです。
 クリシュナマチャリアやパッタビジョイスの20世紀ヨガの原型でもあります。

 では遡って、古典で言うハタ・ヨーガではアーサナは何を目的としているのか、プラーナーヤーマと呼吸法はどう違うのか、食事や自宅の環境を整えるアーユルヴェーダの様な、生活と密着した教えはハタヨーガに有るのか?等々、ヨーガを実践していたらいろいろな疑問が湧いてきます。

④古典ハタ・ヨーガの行法

 普通のヨガスタジオでも「ハートのチャクラを開いて〜」なんて台詞を聞くことが有るかもしれません。でもチャクラとは何かを『(自信を持って)知っている、説明できる』というインストラクターはどれくらいいるのでしょう。

 ムドラーで特定の場所にプラーナを封じ、バンダでそれを更に圧縮する。そのプラーナを制御/活用する行法をプラーナーヤーマと言います。単なる呼吸法ではありません。その、呼吸法も浄化法もイメージングも身体操作も含んだ、プラーナを操作する秘密の行法はハタ・ヨーガ(のほんの一部)です。

 ムドラーって具体的にはどうするのか、バンダってアシュタンガビンヤサヨガのバンダと同じなの?
 具体的な内容を知りたいですよね。それだけでなく、シンプルに見える古典のアーサナだって、体操やストレッチとの違いを知りたいし、その内部で何をしているのか、その結果はどうなるのか、ほとんどの人にとって知らないことばかり。

 ヨーガ・スートラで言うサマーディの状態をハタ・ヨーガ・プラディーピカーではラージャ・ヨーガ(※1)と呼んでいます。
 そこへ至る路は迷路のようでもあり、暗闇に覆われているかもしれません、作者のスヴァートマーラーマは道に迷う我々のためにランプの燈(プラディーピカー)で道を照らしてくれました。

 そしてハタ・ヨーガ・プラディーピカーの中にはこんな記述があります。

  • 実修を行う者に成就がある。聖典を詠むだけで実修を行わない者に成就はやってこない Ⅰ-65

  • アーサナ、諸々のプラーナの制御、そして聖なる修行の数々等のハタ行法の一切はラージャ・ヨーガという実りを得るための実修法であるⅠ-67

 古典ハタ・ヨーガの話って、なんだか秘密の宝箱をダンジョンの奥で見つけたみたいにワクワクしませんか?

※1:『ラージャ・ヨーガ』にはさらに別の派閥、別の行方が有りますが、それはまた別の機会に😅

⑤講座の案内

 今回の『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー講座』では、知っている様でよくわかっていない、技法や用語の疑問を解決して、より深い境地に辿り着くための実践方法や哲学を、サンスクリット原典から文化的背景を含めて学ぶことができるものです。

期日:2024年
 09/15 ハタ・ヨーガの心得とアーサナ
 10/13 六浄化法とプラーナーヤーマ
 11/10 クンダリニーとムドラー
 12/15 ラージャ・ヨーガと音の追跡

   全て日曜日の13時〜17時
   オンライン・録画受講できます

受講費:¥11,000 x 4 (一括だと¥42,000)

(講座毎に毎回テキストが配布されますが、まとめて書籍化されたグランタが必要な方には別途有償でご提供致します)

場所:名古屋市守山区の公民館的な場所

申込先:yoganomori75@gmail.com
    090-7957-5168

https://yoganomori75.com/news/202488

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