『「堀北真希に似てる」マウントを取ってくる堀北に全く似てない女』に成り下がってしまった私
中高生の時、私はこういう感じだった。
多少面白さを盛ってはいるがまぁ大体こんな感じだ。
そんな私は中三の時、個人経営の塾に通っていた。
その塾の先生は塾長とその奥さんだけで、授業が行われるのも夫婦が暮らす家だった(かなり年季がはいった建物で、玄関前に『○塾!』という手作りの看板がかかっていた)。
塾長は何故か私のことをとても気に入っていて、2月になる頃「チロルチョコでいいんでバレンタイン下さい」とねだってきた。コンビニに売っているチョコをいくつか詰め合わせたものをあげるととても喜び、ホワイトデーには塾長手作りのホールケーキを貰った。(これらのやり取りは全て奥さんの前で行われており、奥さんはずっと苦笑いをしていた。)
私が無事高校に合格し、当初の予定通り辞めますと伝えると、何度も何度も引き留められ、最終的には「お金一円も要らないので週に一回来てください」と頼みこまれた。結局断ってしまったが、これまでの私の人生史上私のことを一番愛していたのは彼だったかもしれない。
まぁ、そんな感じの塾長だから、私にはかなり分厚めのフィルターがかかっていたようで、ある日「私ちゃんって、堀北真希に似てますよね?」と言われた。
先程のイラストを見て分かる通り、私は全く堀北真希に似ていない。顔面レベルが天と地なのは言うまでもないが、そもそも系統が違う。
「似てますよね?」と同意を求められた私と同い年の生徒の男の子はかなり返答に困っていた。
この話を、高校に入ってから出来た仲の良い友達にしてみた。
笑いが取れた。
質は低いが、ガンバレルーヤのよしこが「小雪です」って名乗るのと同じ芸風である。
私は調子に乗ってこのネタを何度かこすった。すると優しい友人たちは「堀北さんですか?」「なんか引退してから劣化してませんか?」と丁寧にネタ振りしてくれるようになった。卒業式のときの部活の送別会でも、隣に座っていた友人からひたすらこのネタを振られていた気がする。
そして私は、大学に入学した。
髪を染めて化粧を覚えた。
一年浪人してからの入学だったので、1年間かけて化粧の練習をすることが出来ていた。
あと入学時は高校のときから7キロくらい痩せていた。
そして私は、大学で仲良くなった友人たちに自信満々で堀北ネタを披露する。
…………あれっ?
全然ウケなかった。
むしろ、「あー、ハイハイ…」みたいな反応である。
おかしい。高校で何度も披露して、説明の仕方も洗練されているはずなのに……。
そして私は、数日かけて考えて、ウケなかった理由に思い至る。
皆さん、一旦これまでの経緯を忘れて、この絵をもう一度見てみてください。
……わかりますか?
これだと、よしこの劣化芸として理解してもらいやすかったんですけど、
こうなって、“美醜を一応気にしている人”感が出た途端、
『「堀北真希に似てる」と言われた事を遠回しに自慢したがっている堀北真希に全っ然似ていない女』
に見えてしまうんです。
このとき私は悟りました。
私はもうこのネタで笑いを取ることは出来ないんだ…………と。
一度手にした持ちネタを失うというのは、かなり悲しい。
かと言ってさすがにこのひと笑いの為にスッピンで毎日過ごすわけにもいかないし……。
堀北ネタを手放した私は、もう、ただあの日に思いを馳せることしか出来ない。
「堀北さんですか?」とネタ振りしてもらえていた、あの日に。
おわり