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ハンドパンという悪魔的魅力の楽器に出会った話。 第二話

気がつくと動画は終盤に向かっていた。ガランとした地下鉄のホームに入って来た列車の轟音と、それに続く英語のアナウンスと混じり合うようにして演奏は終わった。

映像のタイトルから、どうやらこの男がSam Maherという名前で、奇妙な楽器はハンドパンと言うらしい事が分かった。

しかし、この手作り感満載の楽器から放たれる、何とも形容し難いマットな質感を持つ魅惑的な音は、一体何なのだろう。

素焼きの陶器の肌がそのまま音になったような響きは、時に優しく、油断すると突然、割れ鐘を叩くかのように変化して、私の耳を打つ。


私はその動画を繰り返し何度も見た。すると最初は気付かなかった色々な事が分かってきた。

この動画が、ニューヨークの路上演奏家を映像に納めたもので、すでに800万回以上再生されていること。

この男、Sam Maherの刻むリズムが恐ろしいほど正確なこと。

彼は演奏中、まず左右どちらかの手でベース音を鳴らし、残る片手だけでメロディーとリズム、パーカッションを全て同時に演奏しているらしいこと。

ボディのさまざまな場所を叩くことにより、何種類もの異なる音質を出せること。


繰り返し聴くほどに、自分がどうしようもなく魅了されていくのが分かった。それはこの楽器にだけではなくSam Maherにも、彼のオリジナルらしいこのNew Yorkという曲にもである。 

私はどうしてもこの得体の知れない楽器を手に入れて、映像の曲を演奏してみたくなった。

それはしかし、簡単なことではなかった。




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