くたばれホルモンバランス
朝起きたら、ラインに通知が来ていた。
昨日送った資料の言葉のニュアンスが違うから訂正して欲しい、とのことだった。
よくあるミス、頭ではわかっていながら、わたしは、顔をぶたれたような、ひどく惨めな気持ちになった。
わたしの、何か大きな山が、派手に崩れた音がした。
時間をかけずに終わらせる課題のこと、傷つけたかもしれない友達のこと、自分には不釣り合いなほど難しい資格に手を出したこと、みんなに合わせて普通に振る舞えない自分の社会性、この歳になっても何者にもなれない自分のこと。
ずっと近くにいて、小さかったはずの悩みたちが大きくなって押し寄せてきて、胸を塞いだ。
自分の上にだけ雨雲がかかっているような気持ちだ、重くて寂しくて、どうしようもない、なんとも言えないこの苦しさ。
いつもぼんやりと感じていて、見ないようにしている自分の欠陥を、束ねて突きつけられたよう。
きちんとした、普通の人間になれない私の生きる意味って何なんだろう、存在して、これから社会で生きていくことが出来るのか、どうしようもなく不安になる。
過去は取り消せないのに、人生はどんどん進んでいく。新しい後悔はどんどん生まれてきて、克服できないままに積もって、自分だけがその失敗だけを覚えていて、苦しくなってくる。
私はずっと変わらないままなのに。
死を考える人は、きっと、この進んでいく未来に、自分の人生が続くことが怖いから終わらせたいのだろう、と思った。
柄にもなく死について考えるくらいには気が重い。体もだるい。何をしてもダメだ。死ぬつもりはないけれど、生きてるって嫌なことで、わたしたちは日々、命を削って生きているのだなあ思った。
ふとカレンダーを見ると、前回の生理からそろそろ1ヶ月が経つことに気づく。
ああ、なるほど、生理前か。
乾いた笑いが漏れて、なんかぜんぶバカバカしくなった。とても単純なことなのに、どうしてこんなにも毎回自然に、前触れもなくやってくるのだろう。もっと派手に合図してほしいな。
生理前だとわかったわたしは、開き直ってコンビニに走った。
普段ぜったいに買わない、チョコレートの菓子パンを買って、フルーツジュースと一緒に食べた。
甘すぎて途中で飽きた。でも食べるのをやめなかった。気持ちが先走って、やめたくなかったのだ。
そうして、すべてはホルモンバランスのせいだ、と唱えたあと、ベッドに体を沈めた。
カロリーも失敗も、何もかも知らないふりをして眠った。
あと何回か夢を見れば、わたしは元気になる。
生理が終われば大丈夫になる。そう知っているから、わたしはゆっくりと目を閉じた。