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事業責任者の後悔と「ノーススターメトリック」

過去の事業責任者を務めた時代において「1番の後悔が何か?」と問われると責任者就任時に、ノーススターメトリック(以下NSMと表記)を設定&合意形成した上で、事業を推進をできなかったことだ。


プロダクトを通じて価値を提供し、価値提供の総量が拡大した結果として、売上が成長する、このプロセスを経て事業が成長する。

だが、売上成長のためのKPIを追い続ける日々に変わり、プロダクトの価値向上が二の次になっていることに気づかない。顧客に提供できる価値の総量は変わらないまま、新規獲得ARPUの向上やアップセルによるNRR向上の議論をする。顧客への価値提供の議論が後回しになり、PLを因数分解したKPIばかりを見つめ、オペレーションを磨き込みながら、(短期的に)売上だけは伸びていく。

そんな泥沼サイクルに、陥ってはいけないと分かっていながらも陥ってしまうのが経営や事業運営の難しさだ。自分自身も頭ではわかってたつもりだったが、(大変お恥ずかしいが)PLを因数分解したKPIに追われ、プロダクト価値向上(BSに関わる活動)に集中できていない時期があった。その結果として、半年〜1年後の売上は伸び悩んだ。後から大きな後悔をした。

そんな後悔をしないために、過去の自分に伝えたい概念が、NSMだ。何を今更、という人も多いかもしれないが、僕自身もこの概念は事業責任者就任時から知ってはいた。ただ、知っているだけだった。最近は新規事業の立ち上げに邁進する中で、改めて重要性を噛み締めており、過去の自分に強く認識させたいものとなった。

既にPM(PdM:プロダクトマネージャーの意)やエンジニアなどのプロダクトづくりに携わる人であれば、脊髄にまでその重要性が染み付いているであろうNSMだが、経営者や事業責任者、Bizの人間からすると、「最重要指標のことでしょ」「KPIは1つに絞りましょうという話でしょ」と表面的な認識で終わってしまっていることは少なくない。自分もそうであった。

本記事ではそんな経営者や事業責任者B'z側の方々に向けてNSMに関する私自身の後悔と、NSMの重要性及びNSM指標のつくり方について書き残す。

プロダクト作りに関わる方々は、NSMの重要性を周りの人に伝えるためのドキュメントとして当該noteをご活用いただけるとうれしいです。

事業運営時に陥ったこと(後悔)

冒頭では少し述べたが、NSMを設定しないと何が起こるか、簡単に振り返っておく。

顧客がプロダクトを通じて享受できるプロダクト価値が上がり続けることで、事業収益は最大化される。しかし、特にSaaSのように、PLのため(ARPU×課金顧客数の因数分解から導かれるKPIを上げるため)の活動は、プロダクト価値向上には直接的に紐付かない。

つまり、THE model的な組織体制にてオペレーションを磨き込むことで、短期的には売上は伸ばすことはできてしまう。しかし、プロダクトの価値が上がっていなければ、遅かれ早かれ売上成長は止まる。成長が止まってから、再度プロダクト価値を向上し、再度成長軌道に乗せるには非常に時間がかかる。プロダクト価値構築に時間がかかるだけでなく、プロダクト価値を上げるための、アウトカムにフォーカスするプロダクトマネジメント体制の構築には非常に時間がかかるからだ。

これは「プロダクト価値が大事だ、事業部全体でプロダクト価値を意識していきましょう」というようなお気持ちの表明で解決されるものではない。それくらい経営にはファイナンス観点や財務状況など、様々な会社の生死に関わる重要イシューがある中で、短期的な売上成長のひっぱられる力は強くなる。これは誰が悪いという話ではなく、そういうものである。そのようにならない仕組みをつくり、その仕組みに則った事業運営を模索し続けるしかない。

だからこそ、事前に事業収益の最大化と、顧客価値の双方につながる、NSMを設定し、その指標を事業に関わるメンバー全員で追うことの重要性を全員が理解し、常にNSMは改善されてるのか?これはNSMが改善される施策なのか?という議論が常に組織で行われる状態をつくることは、その第一歩となる。

では、NSMとは一体なにか。


NSMとは何か

一言で言うと、「事業ビジョンの実現」「事業収益」「顧客価値」と時間軸が異なる概念を両立するための、たった1つの指標のことである。経営観点でいうと、PL活動に傾向せずに、BS活動とPL活動を両立するための指標とも言える。つまり、この指標さえ追っていれば、事業ビジョンの達成、顧客価値(機能的な価値、体験価値)の最大化、事業収益の最大化に繋がる指標のことである。

また、この指標は、事業のミッション・ビジョンを実現するための、戦略そのものとも言える。戦略とは、何を捨て何にフォーカスし、限られたリソースの中で勝つための仮説であり、道筋である。極論を言えば、どの指標をどれくらいの尺度で追うのか、というメッセージに、戦略は集約される。

また、この指標は、因数分解による”具体と抽象の往復”を繰り返して初めて腹落ちするものである。おそらく、これがこの事業のNSMだよ、とアウトプットだけ提示されても、自ら思考しないと全くしっくりこない。それくらいプロセス共有コストが高い概念でもある。アウトプットするための思考及び必要な情報を集めるプロセスによって、事業解像度を上げるものである。だからこそ、この指標については誰かのアウトプットの成果物を見るだけでなく、全員が自ら思考してアウトプットすべきである。

そして、この指標は、チーム全員が同じ方向を向いて、事業成長にコミットするために、チームを一致団結させる指標でもある。特にSaaSのようにTHE MODELで分業するようなチームにおいて、PLに関連する売上指標だけを追うと、ファネルの横階層を追うチーム同士は利益相反がおき、対立が発生する。だからこそ、全員がこの指標を伸ばすことが、顧客価値提供、さらには事業成長につながる、ということを100%腹落ちして、それを追えるようにしなければならない。その第一歩をNSMは担ってくれる。


アウトプット方法

「自分のサービスで、一番大事な指標は、これに決まってる」という思い込みは持たず、下記のプロセスを踏んでみることに価値がある。私自身、知っているだけの状態から、このプロセスを経ることで見えることが多くあった。全部でたった5つのステップ。

知っているだけの状態から脱するために、設定はしていたが事業フェーズが変わりアップデートをするために、改めて実施するのも良いかもしれない。


①ミッション、ビジョン、顧客価値(機能的価値・体験価値)、事業収益の再整理

まずは、事業のコアやWHYの部分である、ミッションビジョン、顧客価値などについて、再整理の必要性がないか確認する。NSMもそもそもこの部分がずれていれば(認識があっていなければ)、意味がない。

事業立ち上げ時点で定義したものは、マーケットや顧客課題の解像度、ソリューションにおける仮説検証が進んだ結果、「言いたいことは同じだけど表現を変えたい」ということはよく起きうるし、そもそも方向性を修正する、ということも起きる。それくらい初期仮説がそのまま合っているということは多くない。この再整理は定期的に行いたいが、まずはこの機会に見直しを行うことがおすすめである。


②インプットメトリクスの洗い出し

まずは事業に関わるインプットメトリクスを洗い出す。可能な限り、漏れなく洗い出せるように、ブレストしながらたくさん洗い出していく。

まずは、現在KGIとして最終的に追っている指標を因数分解していくことで大枠は洗い出せる。現状の指標設定や分解に盲点があるかもしれないので、AAARRなどのフレームワークや、顧客獲得においての「幅」「深さ」「頻度」「効率性」などでさらに洗い出すと、より漏れなく洗い出せる。

③インプットメトリクスの因果関係を整理

次に、バラバラに洗い出したインプットメトリクスたちの因果関係をまとめる。指標にはインプットメトリクスとアウトプットメトリクスがあり、売上のようなアウトプットメトリクスの手前で、売上と因果関係がある変数がインプットメトリクスである。どの指標がどの指標に寄与するか、因数分解で整理するというよりも、何が何に変数として影響を与えるかを整理して並べていく。

その過程で、あらゆる指標に影響を与えるノーススターの原石が見えてくる。


④コアやWHY全てに繋がる指標を定義

前工程で見出した原石と、1で再整理した「ミッション」「ビジョン」「顧客価値(機能的価値・体験価値)」「事業収益」の全てに因果関係があるかを確認する。これがFITしているものが見つかれば、それがNSMである。

因数分解の延長戦上にあり、NSMの原石が複数出てくることもある。事業フェーズによって、どの指標が追うべきか迷うこともあるかもしれないが、現時点では"今は意図的に向上することができない指標の中で、最もファネルの上位概念にある先行指標"を設定するのが良いと考えている。


⑤チェックリストで照合する

最後に定義したNSMをチェックリストで照合する。

  • 顧客価値を表している(そうだと事業に携わる人であればわかる)

  • ビジョンと事業戦略と繋がっている

  • 先行指標である

  • デイリーアクティブユーザー数などの結果指標ではない、

  • 理解しやすい、シンプル

  • 改善可能な変数である

  • 計測可能である

  • 虚栄指標(バニティメトリック)ではない

    • 次につながるアクションを見える指標か

    • 指標の変化を再現できる方法を言語化して説明できるか

このチェックリストでの一致までが確認できれば、NSMは定義できたといえる。ただこれは冒頭で話した通り、この思考プロセスにこそ価値があるとも言える。本当に事業にとって大事なことが、具体と抽象の往復作業によって見えてくる。

チームメンバーでそれぞれアウトプットを持ち寄った上で議論することで、新たな事業課題や組織課題が見つかることも副次的な効能だ。


最も詳細なプレイブックは、下記の記事が参考になります(英語のみ)


日本語で非常にわかりやすいのは、下記のLUUP PMの小城さんのnoteなので、そちらをご参照ください。(毎度美しく整理されていらっしゃいます、勝手にご紹介、失礼いたします)

この作業を実際にやった人と、NSMは知っている、という人には、大きな隔たりがある。と言い切れるくらい差分があるので、ぜひまだやったことない方は、具体と抽象の思考トリップにぜひチャレンジしてみてください。

最後に


直接的にプロダクトに携わらない人にとっても、事業を継続的に成長させたい、と思っている以上は、非常に重要な概念であるNSM(ノーススターメトリック)

僕自身の後悔から少しでも、同じような過ちで後悔をする人が減ればと思い、noteに記しました。全員が本気で事業を成長させたいと思っていればいるほど、伝えるのが難しかったりもするかもなと振り返っているので、伝えたい人がいれば、SNSでシェアしたり、この記事を直接送ってみたりしていただけると良いかもしれません。

月1くらいで「プロダクトマネジメント」「経営」「新規事業」あたりのテーマでnoteに書き、日々の学びはTwitterでシェアしていきたいので、ぜひコメント付きシェアやフォローお願いいたします。来月は、プロダクト中心で立ち上げる新規事業の事業マネジメント方法について具体的な方法について書きたいと思います。

meetyも貼っておきますので、ぜひお気軽に雑談しましょう。

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Daisuke Ueki
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