SaaS界の中心で"NRRの重要性"を叫ぶ
週刊SaaS magazineの第3弾です。先週まではARR461%成長の裏側と称して、SaaS立ち上げ時に実施すべきことを二週にわたって書きました。
今週はSaaSだからこそ、愛すべき指標であるNRRについて書きたいと思います。タイトルは一昔前に流行した某恋愛映画に掛けてキャッチーさを出したかったのですが、まんまと失敗しました。ただせっかくなので、このままのテイストでNRRについて分解していきます。
SaaSに関わっている、下記のようなすべての方々にとって、少しでも参考になると嬉しいです。
・NRRという存在(概念)を理解できていない方
・存在は認識しているが、愛せていない方
・愛してはいるが、片想い中の方
NRRという存在は隠れたマドンナ
大人になってから小学校の同窓会に行ったとき、小学校の時に気にすらかけたことがない女性が驚くべき美女になっていたことはないだろうか。
そんなあなたは、こう思ったはずだ。
「なぜあの時の俺は、あの子の美しさに気付かなかったのだろうか、あの時からもっと大切にしておくべきだった」
今、NRRの重要性を認識していないSaaS関係者は、幾分かの月日を経て、これと全く後悔に至る可能性がある。
確実にそこに存在しているのに、自分だけがその重要性に気付いていない、そんな事態はなんとしてでも避けたいところだ。
NRRとは何か?
「Net Retention Rate」もしくは、「Net Revenue Retention」の略語である。双方ともに、同様の意味で使われており、「顧客の売上継続率」を意味している。
計算式は下記の通りである。
NRR=月初の合計MRR+Expansion MRR+Upgrade MRR-Churn MRR-Dwnngrade MRR/月初の合計MRR
つまり、既存顧客がそのサービスに払う金額が増えたのか、はたまた減ったのか、ということを示す指標である。
さすがにRevenue Churn Rateが0%のサービスは見たことがないので、Expansion MRRやUpgrade MRRがなければ基本的には100%未満となる。
プランのアップグレートや、オプションサービスの追加利用などにより、顧客が支払うMRRの増加が、ChurnやプランのダウングレードによるMRRの減少を上回った場合に、100%を超える。
つまり、NRRが100%を超え、その数値が大きければ大きいほど、既存顧客だけでもMRRの成長を見込める事業といえる。
なぜNRRを愛すべきか
一言で言うと、例え新規顧客の獲得が0だとしても、収益の成長が見込めるからである。MRRが1000万円でNRRが200%のSaaSの場合、新規顧客増加に時間を割かずとも、翌年にはMRRは2000万円になる。逆にNRRが50%ではいくら新規獲得に力を入れたとしても、継続的な成長は難しい。
特に、対象顧客が限られるVertical SaaSであれば、この指標を重視して、継続的な成長に目を向けるべきである。
また、NRRが高い水準のSaaSは、顧客の課題に対して、明確に価値提供ができている状態だからこそ、顧客がサービスの対価として更なる支払いをしてくれている状態と言える。顧客が一度支払う決めた金額以上の価値をサービス利用によって感じ、2度目の追加決済を行なっている状態、それはつまりプロダクトが顧客の初期期待値を上回ることができている状態ともいえるのではないか。
まさにSaaSの構成要素を存分にプラスに働かせることができているか否かが、NRRという指標にあらわられる。
US上場SaaS企業がいかにNRRを愛してるか
日本ではあまり馴染みのないNRRだが、USの上場SaaS企業は、NRRを重要視している。というか決算には必ずと言って良いほど出てくるので、投資家も重要視している指標であることには違いない。
先日出ていたSlackの決算では、143%という数値が出ていた。USの上場SaaSの中央値が115%と言われているので、高い水準といえる。2年前には171%という驚異的な水準だったが、Slackのようにアップセルのトリガーが、メッセージ容量というキャパシティの場合には、高い水準なのも頷ける。(余談だがSlackのNRRがなぜ減少傾向にあるかの仮説立てをしてみると、NRRについての理解が深まる)
USのとあるSaaSイベントで、1%のNRRが増加するだけで、時価総額が1億円変わるという話もある。いつも参考にさせていただいている前田ヒロさんのブログ「SaaStr Annual 2019」のイベントレポートのスライドにも記載があったので、やはりUSでは投資家やプレイヤー含めて、NRRを重要視していると言っても間違いではない。
NRRをあなたのものにするために
ではNRRをコントローラブルなものにするにはどうすれば良いのだろうか。PSF、PMFともに完了しているという状態が作れているのであれば、"価値提供の深さ"がつくれているのかがまずは重要であると考えられる。SaaSは基本的には2つの機能しか持ち得ない。「売上最大化」or「業務効率化」である。つまり、売上を最大化のためのSaaSであれば、クライアントがそのSaaSを利用した効能によっていくら売上が上がっているのか、業務効率化であればいくらリソース削減によって予算が削減できたか、という金額が"価値提供の深さ"と表現できる。
価値提供の深さを測る指標において(サービスによって異なる)、十分に顧客が費用対効果に納得がいく水準の成果が見られる場合には、次のステップについて思考する。
次のステップは顧客との信頼関係を構築できているか、という部分である。SaaSはプロダクトで勝負でしょ。みたいな空気感もあるが、やはりtoBでも結局は相対するのは人である。顧客対象やプロダクトの特性によって、どの部分でこの信頼関係を醸成していくかは意図的に設計すべきだと思う。
そして最後の重要なステップは、ExpansionやUpgradeがうまく機能するプライシングである。
プライシングとNRRの親密な関係
プライシングとNRRは密接に関連している。
プライシングの構成要素には、金額だけでなく契約期間、プランの種類とその数と組み合わせのバランス、そしてアップセルとなるトリガー、などの要素が関係する。
プライシングもPMFと同じで、SaaSにおいて終わりなき問いであり、事業フェーズや事業課題、そしてリーチする顧客属性によって変化して然るべきだと思う。ただ上げるのは難しく、下げることは簡単だったりするので、今後の変更も見越して、初期のプライシングを設計すべきである。
先日決算発表もあったクラウドサインさん(弊社もヘビーユーザーのめっちゃ良いサービス) のように、ある程度シェアを獲得してからのプラン変更をするといった動きもよく目にする。面を取り、価値提供も十分できた段階で、ヘビーユーザーに向けてアップグレードプランをリリースし、ARPUを向上させることで、結果的にNRRは向上する。この流れは美しい。
マーケット規模とシェア獲得見立てから、想定獲得顧客数を算出し、事業目標に対しての理想のARPUが出る。その理想に向かって、どのような基本プラン構成とオプションを駆使すれば、最終到達地点の数を最大化できるのか、というファネル的な考え方もできる。
よくある勘違いとしては、NRRを向上のために、ゴリゴリと営業マンがアップセルクロージングすれば良いと、営業体制の組織構築に力を入れるパターンがある。これは継続的に価値を生まない悪手である。
最後に
NRRについて思考すべきタイミングはおそらく、PSF、PMFも完了し、チャーンレートも理想状態になったタイミングなのかなと思っています。
ただあまりにNRRについて書かれた日本語記事が少なかったので、今回自分の私見が多めになってしまいましたが、「うちではNRRについてこう考えているよー」みたいなお声はぜひ伺ってみたいです。
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