<長編>3泊4日 離島の旅(Leica作例)
僕は、社員ではない。
音楽教室の仕事の傍ら続けていた力仕事が、今僕のメインの仕事になっている。
はっきり言ってそれは、アルバイトである。
上京して5年、ずっと止まらず突っ走ってきた僕の心身の疲れは想定以上に取れず、今後僕はどうやって生きていきたいのかが自分でもはっきりわかっていない。
そんな葛藤をしている間に、社員旅行の日はやってきた。
うちの会社は少し変で、社員旅行の参加者の殆どは社員以外である。
そしてもっと変なのは、社員旅行なのに補助金をもらって各々で好きな飛行機を予約して、勝手に現地に行って満喫して帰ってくるということである。
もはや、社員旅行とは何なのかよくわからない。
どこでどう行動しようと自由であるが、会社がおさえてくれたホテルは石垣島の港のすぐそばにある。
成田から石垣島行の飛行機は2本しかなかったため、僕は前日夜に到着する飛行機をとって、その日は自分でゲストハウスに泊まることにした。
前日入りなんてめちゃめちゃ、張り切ってるじゃん!と、いうふうに見えると思うが、その通りである。
しかし、おそらく読んでくれている方が想像する「はりきり」と僕の「はりきり」は少し種類が違った。
走りすぎて疲れた自分のこれからの人生を考える上で必要なことは、まず心を真っ白にするだった。
そのために、経験したことのないような濃密な体験をして、またエネルギッシュな自分になる必要があった。
僕はこの4日間を全力で楽しむ必要があったのである。
基本的にコミュ障で一人でいることが好きな僕が選んだ旅の初日のプランは、初めてのゲストハウスに泊まる事だった。
そして予約したゲストハウスは、偶然ではあるが他の利用者との関わりが多い所だった。
何度もキャンセルして普通のホテルを撮り直そうかと考えたが、そうこう迷っているうちに当日はやってきてしまった。
とはいえ、久しぶりの飛行機に心が躍った。
窓から空を見ると白と青しかなくて、
でもいろんな白と青があって。
一体どこからが海でどこからが空なのだろう、と思った。
空を眺めたり、機内サービスのテレビ番組をみたりしているうちに、島が見え始めた。
空港からはバスでゲストハウスに向かう。
すぐにでも眠りたいくらいに疲れていた。
しかしゲストハウスの扉を開ける寸前に部屋の中から
「ガハハハハハ!!!!!!!!!!」
と笑い声が。
かなり動揺した。
しかし入るしかないので扉を開ける。
そこには大勢の人たちが楽しそうに団欒している。
施設の説明を一通り受けた後、女性スタッフの方にこう質問された。
「あなたは普段何て呼ばれているの?」
「・・・え?』
「ほら!ニックネームとか!色々あるじゃない。」
「前の職場では、大ちゃんと呼ばれていました。」
「OK!みんな、だいちゃんよ!」
「いぇーい!!!!!よろしくね!!!!!!」
困惑した。なんだこの空間は。
お腹が空いたのと、想像を絶する空気感に戸惑ってどこかに食事をとりに行こうと思っていたら、ゲストハウスのマスターの方に
「おう!みんなでご飯作っとるんやけど、食べる?」
これまた意味がよくわからず戸惑ったが、勢いに任せて僕は小さい声で、はい、と返事した。
しかしその場にいることが限界になってしまった僕は、買い物にいってきますとゲストハウスをでてとなりのスーパーに駆け込んだ。
心を正常に保つために、スーパーの売り場をぐるぐる回りながら深呼吸をした。
本当に僕はこの一晩、やっていけるのか。
もしかしてとんでもない選択をしてしまったのではないか。
そんなことを考えつつも心を落ち着かせるためになにか胃に入れたかったが、そこは石垣島。食べ物や弁当コーナーは見慣れない食べ物ばかり。これではかえって緊張してしまう。
ひとまず麦茶と、どこにでも売っている身体に悪そうな長期保存用カレーパンを頬張り、食べ終わるとお近づきの印にと買ったお菓子を持ってゲストハウスに戻った。
戻ると、カレーを作っている人たちや、外国人宿泊の方を囲んで話している人たちがいた。
「だい!お前もまざれ!」
マスターに言われていってみると、そこでは数人でなにやら楽しそうなボードゲームをやっていた。
聞くに、その日いた大半の人たちは今日初めて会ったばかりらしい。
ルールを聞いてみんなでゲームで遊んでいるうちに、無理なくごく自然に空間に馴染んでいった。
マスターは、とんでもない人だと思った。全て計算のうちなのだろう。
東京では考えられない人との距離感。
最初は困惑していたが、その新鮮な体験に僕は心が躍っていることに気づいた。
「よし!全員で餃子作るぞ!!まざれ!まざれー!!!」
マスターの掛け声と共にみんなでひたすら餃子をつつむ。
しかし、なぜか具の中身は野菜のみ。
これが沖縄流かとおもいながら必死に餃子をつつんでいたが、後にその日宿泊していたベルギーからきた方がヴィーガンで、お肉が食べられないためだったとわかった。
こんなふうに机で囲んでみんなでご飯を食べるということが実家にいてもあまりなかったので新鮮だった。
食事がおわり、みんながお酒を飲み始めて僕はぼーっとし始めていると、ホワイトボードに目がいった。
僕はその日leicaとフィルムカメラの2台をぶら下げていたから、代名詞が「Wカメラ」になっていた。
ミュージシャンや音楽講師ではなく、カメラが趣味の27歳と認識されることが新鮮で、嬉しくもあり、何者でもないということを思い出して不安でもあった。
Leicaのカメラを知っている人がいて、それがものすごく高いものだということはこの日全員が知ることになった。
せっかくだからみんなで写真を撮ろう!ということになって、セルフタイマーを使って写真を撮った。
日を跨いでもどんちゃん騒ぎが続き、僕も大富豪大会に参加していた。
僕は翌日以降、会社が抑えてくれたホテルに泊まる。
明日以降もこのゲストハウスに泊まる人もいれば、明日で石垣島から離れていく人もいた。
会話の流れで、翌朝早朝から僕を含んだ三人で離島に遊びにいこうということになった。
うち一人が翌日夕方で石垣を離れる。もう一人は、いつまでいるかわからないまましばらく石垣島にいるそうだった。
すごく不思議なことに、彼は東京の美大生で、その同じ科の先輩に当たる人物がなんと僕の音楽教室時代の教え子だったのだ。
不思議な縁も感じつつ、そして初めてあった知らない誰かと翌日遊びに行くという貴重な体験をすると噛み締めながら、その晩は眠りについた。
翌日。
眠れなかった僕は早朝少しゲストハウス周りを散策し。
改めて石垣島の異国感を楽しんだ。
帰ってもまだ誰も起きておらず。
レンタル自転車に乗って少し遅刻気味に出発した。
いつも一人を堪能している僕は、いざ人と行動をするとなるとリズムが噛み合わす、遅れ気味になる。
何度も忘れものをして、僕は二人の跡を追った。
出発がギリギリになりのこり4席の状態でかろうじて船のチケットを取ると、レンタル自転車が船に載せられないと受付の人に突っぱねられたり、テンパった僕が三人分の乗船チケットを失くしてしまったり、、、、いろいろありつつも無事三人で船に乗り、竹富島に到着した。
ふと、カメラを撮る瞬間孤独を感じることがある。
三人で出かけているにもか関わらず、写真フォルダーに残るのは僕以外の二人なのである。
しかし、よく不思議がられるがそれが心地よいと感じることの方が多かったりする。
写真を撮るのをすっかり忘れていたが、このあと竹富島でめちゃめちゃ美味しいかき氷をたべたり、石垣に帰って「ささおに」と呼ばれるB級グルメを三人で食べたりした。(自分一人ならまず食べることはなかったが、めちゃめちゃ美味しかった。)
解散したあとは、石垣島の暑さに耐えられず、ここでしか着ないであろうアロハシャツと半ズボンを購入し、着替えて島の散策をした。
そして、気づいた。
東京と石垣島では、時間の流れるスピードが全く違うのである。
そして、石垣島で着る激安アロハシャツは、信じられないくらいその日の自分の表情とマッチしていた。
自分がどう見られるか、どんな存在なのか。そこばかりに囚われている東京の生活とはまるで違った。
難しいことはなにもない。涼しいが正義なのである。
翌日。
この日は絶対に一人で旅をすると決めていた。
普段経験することのない誰かとの時間も貴重で楽しかったのだが、やはり本質は一人が好きで、一人の時間がないとダメになってしまうめんどくさい人間なのである。
石垣島から船で約1時間。
人の住む島の中で日本最南端。
波照間島へと向かった。
到着。
この島は、海、林、そしてさとうきび畑。
延々と同じ景色が続いていた。
さとうきび畑を自転車で走っていると、星に一人取り残されてしまったような、なんともいえない孤独感があった。(一人がいいといいつつめんどくさいやつ)
ただ、そこらじゅうにヤギや牛がいたので、寂しさを感じることはなかった。
動物達は、不思議と自分の近くによってきて嬉しそうにしたり、ずっと見つめあったりするのである。
なんのためにここで放牧されているのかなと道中考えていたが、石垣のレストランでヤギ汁や刺身を見つけてしまった時はなんとも言えない気持ちになった。
普段肉を食べているのだから、そんな気持ちになるのもおかしな話なのだが…。
波照間島は、人が住む最南端の島である。
海の途方のなさに、足がすくんだ。
またしばらく自転車を漕ぎ、いかにもやばそうな森を抜けると….
また違う海が。
あとで知ったが、この島はどうやらハブなどは生息していないようだった。
そうとは知らずめちゃめちゃビビりながらこの森を抜けた。
だんだん暑さで参ってくる。
自販機なども島のほんの一部のところにしかないので、水分は考えながら補給しないといけない。
ここは祠だったのだが、実際に行った時に明らかになにかいるような空気を感じた。イメージとしては、もののけ姫のこだまのようなのがいっぱいいるような。なんとも不思議な場所だった。
そして、また海。
さすがに疲れたので早めに港に行って船を待つ。
この日の夜はぐっすり眠った。
最終日は別の島を巡ることも考えたが、三人で行った竹富島にもう一度サクッと行って、石垣島でお土産を買って帰ることにした。
あまりにも良い島だったので、もう一度しっかりと向き合って写真を撮っておきたかったのである。
今度は森の中へ。
やはり牛がかわいい。
木々もなんとなく活き活きしているように見えるのは気のせいだろうか。
最後は石垣島で飛行機が来るまでぶらぶら。
楽しまないといけない、と、どこか目的意識をもっていった旅行だったが、
帰ってきた後の感想は、楽しかった、という印象はなかった。
それよりも、自分の生きていくでの貴重な経験をした、というほうがしっくりくる。
ライブも撮影の仕事も、直後に楽しかったと思うことはあまりない。
その時間をとにかく必死やっているからである。
しかし思い返せば本当に楽しかった時間というのは、いつもそうだったように感じる。
今回はなんといっても、自分にとってのゲストハウスの経験は非常に大きなことだった。
気軽でないからこそ、楽しい。
そんなことを再確認するための旅だったように思う。