![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161475038/rectangle_large_type_2_23f282102430ede5876f9a347880300d.png?width=1200)
すれ違うたびに近づいていくなぞなぞみたいな2人 映画メモ『ゴンドラ』
『ゴンドラ』
監督:ファイト・ヘルマー
新宿のミニシアター・シネマカリテの前を通ったとき目に入ったポスターに惹かれて鑑賞しました。たま~にある、前情報一切なしのジャケ買いならぬ…ポスター…観?なんていうんだ。だからセリフが無い映画なんだというのも始まってから気がついた。サイレント映画とも違う、セリフだけがない映画。初めての体験です!
舞台は山と山をつなぐゴンドラ(ロープウェイ)の駅。そこで働くのはなんだか感じ悪めの駅長と、ニノという乗務員。もう一人いた従業員は最近亡くなってしまったもよう。というわけで新しい従業員・イヴァがやってきます。ニノとイヴァはゴンドラがすれ違うたびに挨拶したり、乗降口にチェスを置いて行き来の間に対戦したり、ゴンドラをデコって見せあったりして仲を深めていきます。ここが本当にかわいい。しかし駅長は2人が親しくなるのも、仕事中に遊んでいるのも気に入らない様子。そんな3人と、ゴンドラを利用する村の人達のお話です。
現実なのかファンタジーなのか、夢を見てるみたいなふわふわした心地よさのある作品でした。そんなことある?!というところもあるし、実際こういうことあるよねってところもあるし。不思議。絵本なんだけど大人向けみたいな。大人向けなんだけど、絵柄はほんわかして可愛いみたいな。でも時々すごく冷たくてセクシーでもある。私のこれまでの映画鑑賞歴では「あの作品みたいだね」というのがちょっと浮かばないタイプの作品でした。監督の別の作品も観てみたいです。
ロケーションがとにかく美しくて、それだけで映画!!!って感じがしました。ジョージアに実際にあるロープウェイだそうです。景色がきれい。ゴンドラからの景色はもちろん、遠景で大きな山と山の間を小さくて赤くて可愛いゴンドラがツツツ…と進んでいく様子が、なんてきれいなんだろう…と見とれちゃいました。知らない景色、たくさんあるなあ。
セリフが無いということは字幕もなく、映像だけでお話が進んでいきます。海外の作品なのに、字幕無しで内容が理解できるだなんて。なかなかないですよね。それからコミュニケーションって言葉を尽くしてやりとりするだけじゃないんだよなぁと改めて感じました。なまじ言葉を使えるもんだから、一生懸命説明したくなったり聞きたくなったり、余計なことを話しちゃったり、逆に思ってることを言葉にできなくて後悔したり。コミュニケーションって難しい…と日頃から感じている私です。でも言葉がなくとも、相手を楽しませたいなとか、それを共有したいなとかっていう気持ちが大切なんですよね。気持ちをより効果的に伝えるために言葉があるのであって、使いすぎてもなんかちょっと違うのかも。
このお話にセリフがあったら、もっと違う感想になっていたような気がします。セリフがあったらもっと、嘘だ~!って気持ちにもなったかもしれない。ないからこそ、ちょっとだけファンタジーとして良いバランスなんだなぁ。
とにかく目で見て楽しい作品ですが、音も印象的です。ゴンドラが動くときの重たい音とか、そのへんのものを使って奏でる音楽とか。セリフがないかわりに聞こえる息とか「ふふっ」みたいな笑い声も。情報量はたくさんあるはずなのに、不思議とリラックスできた気がします。目で文字を追うとか、言葉を聞き取るって、自分が思ってるより疲れることなんだね。
観てから数日経っているのですが、ふとしたときに「イヴァとニノは今日もどこかで2人で笑い合ってるのかな…」とか思っちゃったりするような、なんだか妙に心に残る作品となりました。ゴンドラですれ違う時にコミュニケーションとることで仲良くなっていくっていう作りがもう、かわいい。なぞなぞみたい。最後もね~どうなのそれは?!と思う人がいるのはめっちゃ分かる最後ですけど、なんかそこも含めて刺激的でかわいくて怖くて好きです。またあのゴンドラがゆく様子を眺めたいな……