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涙は、また来年
息子たちの運動会が終わった。
あっという間だった‥。
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心配していたにわか雨もなく、むしろ曇り空の下、肌寒いくらいの空気だった。ある意味で運動会日和。
息子たちの参加種目は、団体競技と、団体演技のみ。
今年は、彼らの学年はかけっこがない。正午には全ての学年の演目が終わる、コンパクト開催だ。
前日の夜まで、ダンスの練習に余念のなかった長男。五年生になった今年は、いよいよあの「南中ソーラン」を踊る。
それは数年前から私が、最も楽しみにしていた演技だった。
あの土の匂い(潮風か?)のする民謡の掛け声と、何度も何度もしゃがんだり腕を振り上げたりする、力強くハードな動き。
六年生の、一糸乱れぬ旗の演技ももちろん素晴らしいんだけど、個々の動きの差が乱れやミスに見えてしまう集団演技より、一人ひとりの表情や踊りに注目できる演舞の方が好みなのか、それとも日本人としてのDNAが民謡のコブシに反応するのか?南中ソーランの方に、より心をひかれる。
例年、我が子が全く出演していないのにも関わらず、五年生の演技を見ては、胸打たれ、こっそり涙していた。
我が子の通う小学校も、私の通う勤務校でも。毎年五年生は、黒い法被の背に、自分で選んだ漢字一文字を大きく白で書き、それをまとって踊る。
好きな漢字を選べば良いのだが、自分の名前から一文字採る子どもが多い。
どの字にしたんだろう。それは、長男が何も言わないので、私も聞かなかった。踊りの練習は一生懸命にしているけれど、その他の情報があまり入ってこない。まぁ、男の子なんてそんなものかも知れない。
我が子の名前の字が、黒地の背に白く輝いているのを想像して、私は一人、ワクワクしながらその時を待っていた。
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もう一つ、今年はいつもと違うことがあった。
パンデミックで全国一斉休校になった年に、小学校に入学した長男。
私の両親は、はなから、わざわざ大勢の子どもたちのいるところに孫観に行かなくてもいいよね?というライトな感じで、私も全然それでいいと思っているのだが、
義母の、孫にかける愛情、というか情熱は、その比ではなく、幼稚園の時は、三年間朝から運動会にかけつけてくれた。
それも私の作った分よりも大きなお弁当を持って!
来場人数に規制のかかっていたこの四年間。
校内に入れなくてもいいから、せめて遠目からだけでも‥と、まるでアイドルを推すファンのように、私たちにも何も言わずに見に来て、グラウンドの外からそっと眺めていた年があった。
私たちでさえ、あらかじめ場所とクラスカラーを聞いてないと、我が子を探すのに一苦労するというのに‥
[今年は四名まで(参加可能の)リストバンドお渡しします]
お義母さん!今年は一緒に中から見てもらえます!!
「出番はプログラム3番から?分かった。でも家で待っている義父が心配だから、後半の踊りのとこだけ観に行くわね。」
前日の夜、電話でそう言っていた義母は、
8時半の開会式とほぼ同時に、私たちと合流した。
そんな義母だ。
しかし。
子どもたちの出番のない時は、義母には休憩エリアで待っていてもらうことにしたので、学年がコールされる少し前に探しに行くのだが、
そのたび義母が見当たらない。
何故かタイミング悪くトイレに立っていたり、いちばんよく見える観覧席と別のところに、孫を探しに行ってしまっている。
こんな時夫はしごくマイペースで、「どうせどっかで見てるやろ」と、探しにいくそぶりさえ見せない。
プログラムは順調に進む。
長男が、踊りより緊張すると言っていた〝台風の目〟、
次男がペアの子と驚異的な速さを見せた〝大玉運び〟。
長男は、欠席がちだった女子と同じグループになっているとかで、当日息が合わなかったらどうしようかと前夜からそわそわしていたが、心配もなんのその、すごくいい感じで協力して走っていた。
しかも長男以外の3人は皆女子!あんまりそういうことは、言わない彼。と言うか、そこは気にしていないんだろう。
次男はと言うと、すごい推進力でもって大きなボールを転がし、ばっちりコントロール。そして、圧倒的トップを走っていたというのに、何故かその勇姿が録画されていなかった。
大丈夫、ちゃんと目に焼き付けといたからね!
プログラムも後半戦となり、次男のダンスが始まった。
最近の運動会のダンスは、移動したり隊形を変えたりしながら何曲か踊ることが定番になっている。
何故か、サザエさんをバックに入場してきた三年生は、会場全体の笑いを誘っていたが、その明るい雰囲気のまま、二曲目突入。次はかっこよく踊り始めた。
セカオワの「最高到達点」。
映画のワンピースの歌だったらしい。次男はこの歌をとても気に入って、家でダンスの練習をしながら、並行してカラオケで歌う練習までしていた。いいやんいいやん。めっちゃ上手やで!
両腕につけたモールのキラキラが眩しかった‥!
そしていよいよ、長男の南中ソーランである。
黒の法被に、赤の鉢巻きが映える。
予行練習では、途中で鉢巻きがほどけて焦ったーと言っていた長男、本番はほどけても、無視して最後まで踊りきったらいいよ!と言ったら、うんそうするつもり、と力強く返ってきた。
もう、一個一個こちらからアドバイスする必要なんてないのだ。
集団の中に彼を探す。
いた!
背中の文字は見えない。でも、振り付けでしゃがむ箇所で、誰よりもしっかり腰を落としてソーランソーラン、とやっていたので、すぐに分かった。
お義母さん、見えてますかー!あなたの孫は、すっごくがんばって、すっごくかっこよく踊っていますよ!!
隊形移動。サッと走っていく。
お、さっきより見やすくなったぞ。
その瞬間、角度が変わって背中が見えた。
彼の法被には、大きくシンプルな線で、
「楽」と書いてあった。
名前の字じゃないんかーい!!
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でも。楽しく、って考えてみたらいちばん大切なことかも知れない。
一昔前の、私たち親世代が小学生だった頃の運動会。
最初の行進から何度も何度も練習させられ、台の上から大きな声で怒鳴られた。
集合が遅い、たるんでる、誰誰の足が上がってない。叱られるのが当たり前だった。私たちは6年間、運動会はそんなものだと思ってきた。
でも、2024年の今、子どもたちは、入場行進はおろか、ラジオ体操も組体操もしない。かけっこさえも学年によってはしない。赤白分かれて競いこそするけど、去年どちらが勝ったかなんて覚えちゃいない。多分そこは、運動会のメインではないのだ。
彼の選んだ一文字は「楽」しく。
もしくは、気「楽」にだったのかも知れない。
堂々と踊りきった長男は、かっこよかった。
楽しそうだった。
お義母さん、ちゃんと見れたかなぁ。
演技が終わって、5年生が皆走って退場していく。
いつもなら、知っている同級生の顔を探したり、見つけて手を振ったりするんだけど、この日は最後まで背中の「楽」の字を追いかけて見つめていた。
退場してから気がついた。
泣くの忘れてた。
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予定より早く解散となり、義母と一緒にお昼ご飯を食べに行った。
子どもたちは、「運動会どうだった?」なんて聞きもせず、お腹すいたーと、運ばれてきたパスタをバクバク口に運んでいく。
お義母さんも疲れたでしょうと話を振ると、義母は、
長男がどこか分からなかったから、いちばん上手で、いちばんかっこよく踊ってる子を探した。そしたら、それが 長男だった。
長男も、次男もいちばん上手だった。おばあちゃんにはすぐ分かった。
さすがうちの孫や。
と言って、嬉しそうにパスタを食べた。
グラウンドで踊る子どもたちを応援しながら、
グラウンドで常に義母を探してた運動会だったけど、
私、自分の子どもに、そんな最上級の言い方で褒めたことなかったな。
ありがとうお義母さん。
来年は、次男が4年、長男は6年生だ。
良かったら、来年もまた見に来てあげてください。
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私はと言うと、
わが子の出番の時、義母がどこにいるか気になって、泣くのも忘れていたくせに、
たまたま目の前で踊っていた、1年生の知らない子が満面の笑みで演技しているのを見て、
思わず涙が出てきてしまったのは、ここだけの秘密です。