ダイナンのユニフォームは、重要無形文化財の生地から作られています。
デザインではなく、プロセスを
ダイナンnote編集部(以下、編) 前々回はGRAPH榎本(以下、榎本)さんとダイナン但馬社長(以下、但馬)で、ユニフォームリニューアルのきっかけについて語っていただきました。
今回は、デザイナーの村田さん(以下、村田)、ブランディングチームのメンバーも交え、さらに詳しくお話を聞かせていただければと思ってます!
榎本 まず、生地となった「久留米絣」(くるめがすり)のことから始めましょうか。初め、ユニフォームをリニューアルするってなった時、村田さんには「柄からの相談」というお話だったんですけども...。
村田 柄から、というよりも「リニューアルしたいんです」くらいの軽いご相談だったんですけど、そこから…「生地を一から作りましょう」って提案しましたね。
一同 笑
村田 本当に、僕の悪い癖なんですけど「やるなら0から」というような。一番最初に子供と一緒に来させてもらった時、本当はみんなでコットンを作るところからやりたいですよね、みたいな話をさせてもらいましたね。
編 今後、noteの記事にもしていきますが、今ダイナンでは村田さんのご指導のもと、本当にコットンを作ってますからね(笑)。ぜひダイナンのインスタもチェックしてもらいましょう。
村田 そう、今日来るときに畑を見てきました。順番は前後したんですけど、ポロッと言ったことが結果的に実現して嬉しかったな。
榎本 で、結局コットンからではないものの、生地から作ることになったんですよね。
村田 既製品で、いい感じの生地って探せばいくらでもあるんですね。もちろんそれに対して、ちょっと今風なデザインをして形に、っていうこともできるんですけど、 それ自体にはあまり意味を感じなくて。
やっぱりプロセスを通して同じ体験するとか、みんなで学び得るとか...。
そういうこと、そういう設計の方が大事なのかもしれないなって。
編 うんうん。
村田 常にどんなデザインに対してもそう思っている中で、ゆくゆくは自分たちでオリジナルの製品を作れるようになりたい、っていう但馬さんのお話を聞いて。じゃあ、このユニフォームを作るっていうプロジェクトを通して、自分たちで製品を開発する。うん、意味あるデザインを一つ作ってみるっていうことをやりましょう、というプロセスの提案が、僕からのご提案でしたね。
久留米絣にした理由
村田 そうですね。最初は僕がこう、任された時に手に入りやすものと言ったら、ルートとしては地元兵庫の布が手に入りやすいんですけど、やっぱりその地元のものをなるべく使いたいなっていう思いがあって。
それにはもう1つ意味があって。地産地消とかっていうより、その土地に根付いてる感覚だったり、土地のものを取り入れることが、その土地で働く喜びみたいなことに結構繋がってるんじゃないかと思うところがあって。
だからこそ、その地元のものを使うっていうことを結構大事にしているので…。九州にいい布があるんだったら、それを使いたいなということもあり、久留米絣を選んだっていう感じですね。もう、最初から決めてました。
一同 笑
村田 絶対九州の使う、使った方が、うん、いい。いいんじゃないか。 そう思ってて、1番最初に来させてもらう時の前に久留米に寄ってから…
榎本 大分に入ったんですよね。
村田 コットン畑は冗談で言っただけですけど、地元の布で作りましょう、っていう話は一番最初にしてね。本当は、原料から作ったらもっと面白いですけど、とは言ってましたけど(笑)。
榎本 お話伺ったときに、久留米絣って、元々はもんぺ、農作業をしたりする時の服の生地だから、作業する服の生地としてはいいのかな、って。
編 高温多湿な日本に適した、通気性と強度をもつ生地と言われていますよね。
村田 そうですね。機能性で言っても歴史が物語ってるというか。はい。そういう風に作られている生地なので、作業用のユニフォームには、ちょうどいいんじゃないかなとは思ってましたね。
榎本 実際着てみていかがですか?着心地は。
井上 着心地はいいです。
編 普段の工程で、こういう素材って扱っているんですか?
但馬 「織物生地」っていうのはあります。うん。
榎本 幅が珍しい?
但馬 幅はね。昔ながらの反物、というか。(※反物の幅は約37cm)
村田 この幅で、絣で、っていうのはなかなかないですね。今の洋服の生地っていうのはほとんど規格が決まってて。110センチとか140センチとか、うん。で、これは日本の昔からの規格なんです。着物とかとすごく関係している幅なんですけど、元々は多分女性がこう、織りやすい幅なんですよね。洋装では基本的には使われない。
編 この幅で、工場に入ってくることは珍しいんですか?
村田 ないんじゃないかな。
編 皆さんの初めてその時の感想って、どんなものでしたか?
長尾 耳(生地の端)がそのまま使えるから、縫わなくていい。
一同 笑
榎本 確かにね。うん。
村田 そう、きれいなんですよ。ここの収まりが。
長尾 洋裁の生地だと、布の端の処理がどうしても必要になってくるんですけどこれはそのまま使えるというか。
村田 着物っていうのは、本当に生地を無駄なく使える合理的なパターン(※型紙。洋服の設計図)だったりするんですけれど、洋服的な考え方でこれを取ってしまうと、ものすごく無駄が出てしまう。なので、どういうパターンにして無駄なく取り切るか、そこが設計の一番のポイントになってくるんです。今回は、みなさん本当に工夫してくださったと思います。
本当の効率、非効率
村田 他にも、極端に非効率な部分ってありましたか。
但馬 縫いはどうやった?
井上 生地の耳(端)をそのまま無駄なく使うから、合印(※あいじるし。パーツ同士を縫い合わせる時に、ずれないようにつける印)がつけれない、切り込みノッチ(※こちらも縫い合わせる時の印の役割を果たす切り込み)ができない、ぐらいかな…。
但馬 そう、そんな極端に非効率っていうのはなかったですね。
村田 うんうん。そうですか。よかった。僕もなんかそんなに無茶はしないような仕様にはしてたんですけど。
中川 一部の生地が厚くなって、ちょっと針折れしたりとかは、結構ありました。
村田 そうですか。
井上 ここだ。ここ、ここ、ここや。そうそう。
村田 仕様上、何枚も重なる継目の部分で、さらに縫いしろが重なって 6枚とか8枚になったんですかね。ひもの止め位置ですかね。でもそこ、力かかる部分なんで、厚い分にはいいような気もします。
井上 まさにひも止め位置。
榎本 なるほど、この腰紐を通す穴のところ。
中川 なので、針の番手を変えてみたり(太い針に変えてみたり)、工夫しました。
村田 これって、若手の方が縫ってくれたんでしたっけ?
中川 はい、実習生が。
井上 今期入った新入社員は自分たちで。縫ってみたら、意外と縫えた(笑)。
一同 笑
井上 新入社員はミシン未経験で、何箇所かだけは先生がついた時に縫ってるんですけど、後のところはほとんど縫えたらしいから、次から新入社員さん・中途の方も含めて縫ってもらうことができそうです。
村田 いいですね。僕、それはなんか、すごくいいなと思う。
但馬 最初は一気に揃えなきゃいけないんで、ある程度ラインで流して作ってもらわなきゃいけないんですけど、これから新入社員が少しずつ入ってくるじゃないですか。そこはラインには流せないので。うん、自分のエプロンは自分で作ってもらうという。
榎本 それすごくいいですね。
村田 ご提案した背景にもう1つあったのが、既製品のユニフォームを買って使うコストと、生地をゼロから作って自社で作るコストがあるじゃないですか。
でも、「新入社員の勉強」っていう意味が出てくると、もしかしたら、今までと同じコスト感で、さらにいいユニフォームになるんじゃないか、いい生地が使えるんじゃないか。完全には比較できてないんですけど、そんなことを思ってて。自社で縫えるっていう強みを生かすとすると、今まで既製品を買ってたコストと、生地をゼロから作るコストと、 そんなに変わらないな、みたいな。
自分たちで縫えるからこそ、生地で贅沢ができるっていう。一番最初に久留米絣を使いましょう、って提案した時に、高くつくかな。どうかなって考えて。でもあれ?自分たちで縫えるのか。しかも新入社員のその研修とかにしたら…めちゃくちゃいいじゃん!って思って。 そんなことも、最初にちょっとお話したかな。
編 確かにそうですね。生きた生地の使われ方ですね。
村田 学生の頃、初めて服を作ったんですけど…、洋服って、高いじゃないですか。シャツ買うのに 25000円!?普通に大学生からしたら高い。でも、これ2万とか1万円で生地を買ったとしたら結構いい生地買えるぞと思って、それで僕は服作り始めたんです。 今回は、それに近いことができたんじゃないかって思ってます。
コストと価値の捉え方
編 そもそもの話なんですけど、生地の単価としては…
村田 高いです。高い(笑)。
但馬 この幅からすれば、高い。ざっくり、いつもの生地の…
村田 下手したら、このクオリティだったら、なんか3倍とか4倍とか?
但馬 そうですね。3〜4倍ですよね、はい。
榎本 でも、1年後とか2年後、もっと縫製うまくなった時に、「新入社員の時に初めて縫ったエプロン、こんな縫製してたな〜」みたいな…。
村田 自分の成長を感じられてるかもしれないですね。
但馬 実際のところ、トータルのコストで言ったらちょっと高いですけど、研修と考えれば、はい。自分の手でちゃんと作って。しっかりとモノができたなら、価値の捉え方は全然変わってきますね。
村田 コストに対して、価値が上回ってればオッケーっていう判断はできますね。
長尾 自分で作ったものを、毎日着れるっていうトータルな体験が、新入社員の人にとってはプラスアルファの価値になると思うので。お金に変えられない価値になるんじゃないかと。
榎本 そう思ってもらえたら、提案した側としても嬉しいなと思います。
編 村田さん、ダイナンオリジナルの研修制度を発明してくださったってことになりますね。
一同 笑
村田 ユニフォームを任された身としては、できるだけいいものを作りたいじゃないですか。ただ、コストが上がった分をちゃんとした「意味」につなげることで、吸収できないかなっていうのはありましたね。
作って、着るから得られるもの
井上 最後の日に持ってきたんですよ、エプロン作りを。
編 新入社員の研修プログラムですね。
井上 縫製のお勉強始めて、練習始めて、そろそろ現場に入るよっていう時に、ユニフォームを作成したので。 以前も、最後にはTシャツかシャツか、簡単な丸縫いのプログラムをしてたんだけど、中途半端だったり、できなかったり、という時もあった。 でも今回は、ユニフォームっていう必ず必要なものを縫わなくっちゃっていう目的があったので、いいカリキュラムができた気がしてます。一つの成果物として、自分たちが使うものができるっていうのは、今までなかったから。
但馬 カリキュラムを完了したら、大切な人を思って、Tシャツとかを作りましょう、っていうのはやってましたね。
井上 母の日とかでやってましたね。
但馬 それがユニフォームに変わった、って感じですね。大切な人を思って、というのもすごくいいんですけどね。入ってくるのは、ほとんど縫製経験がない人なので、教えられながらでもこうやって1枚できたっていうのは、着られるやつができたっちゅうのは、いいんじゃないですか。
長尾 自分で着れるものが自分で作れるっていうのは、やっぱり自信になったり、喜びにつながったりすると思うので、その経験がその仕事にも生かされるといいな、って。
榎本 着てみるってすごい大事なんじゃないかなって思います。作るだけじゃなくて、自分で使ってみるっていうところまでをやってもらえたのは、すごくいいなと思ってるんですけど。
長尾 普通に既製品買っても、過程って分からないじゃないですか。それじゃあ着てくれる人がどんな気持ちで着てくれてるかって分からないから。うん、自分で作って、自分で着て。なんか斜めになっちゃった、とかポケットが取れるとまずいんだなとか、着る人の気持ちを知ることに繋がっていくといいんじゃないかなって思います。
編 生地作りから着る人へ思いの話、いかがでしたでしょうか?次回更新は、7月24日頃の予定です。続いては、手のような?鳥のような?生地の柄について迫っていきたいと思います。お楽しみに!