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note クラシック音楽の普遍化を達成する

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クラシック音楽の歴史や作曲家、作品について、哲学的な視点から分析し、その普遍性や深さを探求する和田大貴のnoteです。クラシック音楽について語り合えることを楽しみにしています。参…
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2023年6月の記事一覧

額縁幻想記 ①  「微笑みの額縁」 まさかの裏話

額縁幻想記 ① 「微笑みの額縁」 まさかの裏話

♪ シューマン 〈ミニヨン〉 オリジナル録音

「微笑みの額縁」② と ③ の間で奏でられるシューマンの〈ミニヨン〉は、お聴き頂けましたでしょうか? 

 劇中、ヒロインの絵里香も想いを込めて〈ミニヨン〉を弾くシーンがあるのですが、安斎 航さんのピアノは、しっとりと優しく、ロマンティックで、夢のような虹色の響きが魅惑的な、若きシュテファンの演奏のイメージそのものと言えましょう。

 当日、録り下ろ

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額縁幻想記 ② ハプスブルクの〈悲愴〉

額縁幻想記 ② ハプスブルクの〈悲愴〉

ハプスブルクの〈悲愴〉

 前作「微笑みの額縁」のラスト近く、絵里香の哀しみの衝撃で鏡は砕け散ってしまいますが、あちらの世界、つまり鏡の向こうの50年前の若きシュテファンの世界でも、同様に鏡は割れておりました。

 続編に当たる「ハプスブルクの鏡」では、額縁がハプスブルク家由来の物であったという秘密が明かされることから、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世を取り巻く悲劇的史実と関連する展開となってゆきます。

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『アッターゼーの2人のグスタフ』 ①作曲家グスタフ・マーラー

『アッターゼーの2人のグスタフ』 ①作曲家グスタフ・マーラー

アッターゼーに向かった目的は、『2人のグスタフ』つまり作曲家グスタフ・マーラーと画家グスタフ・クリムトゆかりの地を訪ねることでした。
まずマーラーが《交響曲第2番〈復活〉》と《交響曲第3番》を作曲したシュタインバッハに向かいました。
ここにはマーラーが1893年から1896年の毎夏過ごし、客を迎えた家があります。この家は現在、ホテルになっているのでここに泊まることにしました。

そのホテルの名前は

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「微笑みの額縁」 ②

「微笑みの額縁」 ②

「微笑みの額縁」②

6月8日 1960年

 150年前のこの日の生誕を祝い、ぼくはささやかなピアノをシューマンに捧げていた。

 そこへいきなり彼女は飛び込んで来た。涙ぐんで。
 あの時間に帰ってくるとは、つまり本選には進めなかったのか。残念だけど、仕方ない。それにしても……、

 まったくもって、ふしぎな娘だ。

 話の最中に突然、
「わたしは誰なの?」と聞いてきたかと思えば、
「次に会った

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「微笑みの額縁」 短編ファンタジー(全3章) ①

「微笑みの額縁」 短編ファンタジー(全3章) ①

「微笑みの額縁」 ①

6月7日 1960年

 日本から来た彼女、ユイだかユリだとかいう、その女性の印象は、はっきり言ってまったくよろしくなかった。

 コンクールを受けにウィーンくんだりまでやって来て他人の家に下宿するというのに、ろくに口もきかずニコリともしない。愛想の笑みひとつ返せない者に、人の心に、審査員の心に響くピアノが弾けるか? というものだ。

 だけど今日になって、ようやくわかった

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短編ファンタジー『額縁幻想』3部作 紹介

短編ファンタジー『額縁幻想』3部作 紹介

『額縁幻想』  ~ Flame Fantasy ~ 

 旧貴族の館の屋根裏に隠されていた等身大の額縁には、不思議な、そして恐るべきパワーが秘められていた。

 ウィーンを舞台に現代、50年前、そして100年前と、名曲の調べと共に時代が交差してゆく時空ファンタジー。

「微笑みの額縁」

 絵の勉強と称し、亡き祖父母の邸宅で1人暮らしを始めた絵里香は、ある日、静かにピアノを奏でる青年の姿を鏡越しに

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「大脱走」 と 「シンデレラ」

「大脱走」 と 「シンデレラ」

【更新】「大脱走」の今期の上映は終了しましたので、記事内容を少しだけ修正の上、更新しました(2023.7.7)。

「午前十時の映画祭」にて、往年の名作「大脱走」が公開されておりました。

 プレシャスプランナーのプロフィール記事のコメント欄でも熱く語らせて頂いておりますが、私はこの映画によって人格が形成されたほど大好きで、3年ぶりに大スクリーンで観られて本当に感激でした。

「大脱走」は終わって

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チャイコフスキー国際コンクール2023年

本来は2020年10月、それが延期されて翌年となったショパンコンクール、いずれにしても豪州からの渡航は叶わず。
開催1年前の売出し日にワルシャワまで飛んで購入した通し券は泣く泣く返金、あらかじめとっておいた職場の長期休暇も、航空券も、ホテルも、すべて取り消し。

「ならば2023年のチャイコフスキーへ、いざモスクワ!」と気を取直したものの、今度は2022年年初からのロシアによるウクライナ侵攻でこれ

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「ハプスブルクの鏡」 ④ (終)

「ハプスブルクの鏡」 ④ (終)

「ハプスブルクの鏡」④ 終

1910年 ウィーン

 しかし相手は屈強な軍人なのだ。芸術家ふぜいのぼくが力でかなうわけがない。

 皇太子はいとも簡単にぼくをねじ伏せ、胸元に銃口を突きつけた。次に予想される一発の銃声に備えて、全身の筋肉が心臓の一点に向けて緊張する。

 もはやこれまでか。ぼくは覚悟を決めた。

「殿下!」
 若い男がすぐさまドアの外から飛び込んできた。
「お怪我は?」

「大丈

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「ハプスブルクの鏡」 ③

「ハプスブルクの鏡」 ③

「ハプスブルクの鏡」④

 真夜中のピアノの調べ、《悲愴》第2楽章……。

 ぼくは静寂の世界に染み渡る自分の音に酔いしれながら、ろうそくの光に照らし出されるハプスブルクの鏡をひたすら見つめ続けた。

 一瞬、鏡が深い呼吸を始めたかのような、空気のゆらぎを感じた。足音? そしてかすかな衣擦れの音。ぼくの読みはやはり正しかったのか! 

「シュテファ〜ン」

 地獄の底から響き渡る、世にも恐ろしく低

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「鍵は音楽で、あの鏡はピアノの音に反応しているのだろうか。愛しきベーゼンドルファーよ、どうかその美しい響きで応えておくれ」

 ~「ハプスブルクの鏡」より

 シュテファンが真夜中に奏でる《悲愴》の第2楽章を、ピアニスト 安斎 航 さんが弾いて下さいました♪ 
 前回の〈ミニヨン〉は、シューマンの誕生日に合わせて投稿して頂きましたが、昨日は折しも安斎さんのお誕生日だったのでした。
 心からの感謝を

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「ハプスブルクの鏡」 ②

「ハプスブルクの鏡」 ②

「ハプスブルクの鏡」②

1960年 ウィーン郊外 旧貴族の館

── 何もかもが我が身にふりかかる ── 。

「何ですって?」

 祖父に話しかけられた気がしたが、彼は夕方の散歩に出かけて不在だったことを思い出した。ぼくはソファに深く腰掛け、ハプスブルクの遠い過去へと想いを馳せていたのだ。

 広間ではユイがピアノを奏でている。ベートーヴェンのピアノソナタ《悲愴》。今やコンクールを終えた彼女は

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「ハプスブルクの鏡」 短編ファンタジー(全4章) ①

「ハプスブルクの鏡」 短編ファンタジー(全4章) ①

       ハプスブルク家

 中世の神聖ローマ帝国時代より近代に至るまで、オーストリアを中心に 650年に渡り中欧に君臨。
 啓蒙君主マリア・テレジアの末娘、マリー・アントワネットがフランス王家に嫁ぐなど、数々の政略結婚を繰り返し、戦争を平和的に回避しつつ勢力を拡大してゆく。

 優れた統治力に加え、芸術の才に長ける皇帝も歴代に多く、壮大な建築物から絵画、彫刻、音楽や文学、あらゆるバロック芸術

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シューマンの誕生日に寄せて、ピアニスト安斎 航さんより、録音したての、夢のような音楽の贈り物が届きました! 

「微笑みの額縁」で、シュテファン・ハイデンベルクが、シューマンの生誕150年の誕生日に奏でる〈ミニヨン〉です♪