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お父さんとお風呂に入らない

父親とお風呂に入らないと決めたのは小学校二年生だった。

「父親と何歳からお風呂に入るのをやめましたか?」というアンケートがあれば、平均より私は早い卒業だったと思う。
おそらく、小学校4~5年生くらいに卒業が普通で、遅い人は高校くらいまで一緒に入るのではなかろうか。
私が男とか女とかを深く意識したとか
早い思春期が来て、父親をなんとなく嫌だと思ったとか
そんなませた小学生だったわけではない。

姉が父親とお風呂に入るのをやめたから。

理由は至ってシンプルだ。
私は仲が良く、人生の先輩でもある姉を真似しただけだ。
 
 
パパっこだった小学校二年生の娘からの、一緒の入浴卒業宣言に、父親は少し寂しさを感じたようだ。
「思ったより早かったな。」という感想を後日談で聞いた。

 
 
 
中学生になり、女子が生理デビューしたように、おそらく男子も精通デビューをしていたのではなかろうか。
早い人は小学生の頃からわき毛や胸毛が生えていた。

女子が乳房が膨らみ、陰毛が生え、生理が始まり
男子は声変わりし、陰毛が生え、精通が始まる。
 
ざっくりとした知識は知っているものの、私達は好奇心の塊だった。
私は姉から多少知識を植え付けられているとはいえ、まだまだ分からないことは多かったし
道端に捨ててあるエロ本を見たところで、解決しないことだらけだった。

知(痴)的好奇心旺盛だった私は、中学校で男女仲がよかったことも災いし
男子に色々な質問をしていた。
「エロエロボンバー」というあだ名をつけられたりもした。
みんな、気になることがたくさんあるのに、恥ずかしさからモジモジしていた。
そのくせ、私が男子から得た知識や話には食いついた。
私は女子代表で男子に質問する側になっていた。
ギブ&テイクということで、話せる範囲のことは男子にも伝えた。
いやらしさ、というより、お互いに「分からないから聞いた」レベルだったと思う。
そういった性的な質疑応答をしても、体を触り合ったりといったことは皆無だったし、誘われたことももちろんない。
お互いに「へぇ~!」と言い合った。
授業だけでは分からない体の仕組みや変化、異性のことで頭がいっぱいだった。

 
 
 
中学校二年生の時、彼氏に処女を捧げた人がいた。
私の周りで一番に処女を喪失した人だった。
私が周りより生理デビューが早かったことで、その子からは生理についてめちゃくちゃ質問された経緯があり
今度は私の番だと言わんばかりに質問をした。

「痛かった…。」

少し恥ずかしそうにしながらも、彼女はそう言った。
私は男子と手を繋いだこともなかった。
好きな人の隣の席というだけでドキドキが止まらない純情な時期だった。
エロエロボンバーだけど純情なのだ。
そんな私から見たら、同級生だけど彼女は別世界の住人だった。

彼氏ができて、好きな人と結ばれる。

それは私には想像もつかないことだった。
友達の前で裸になるのだって恥ずかしいのに、好きな人と裸になって見せ合って触れ合うなんて、難易度がS級じゃないか。
そして「痛い。」というリアルな感想に私は少しビビッていた。

やはり痛いのか…
私もいつかその痛みを体験するのか…

そのいつかの日が、少し怖かった。

 
 
  
私は中学校三年生になった。
そしてその時に、大きな事件があった。

大人向けビデオを入手したという人があらわれたのだ。

私達は大いに盛り上がった。
私達はせいぜい知識と自分の体の変化と、捨ててあるアダルトな本の写真くらいしか知らない。
まだパソコンや携帯電話が普及していない時代だ。
実践映像はビデオでしか入手できない。

 
そのビデオは各クラスの希望グループに順番に回された。
みんな、一人では見なかった。
同性の友達とこっそり見た。
観賞会といったところだ。
漫画の稲中卓球部でもそういった描写があったから
当時はこの流れがポピュラーだったのかもしれない。

いよいよ私達の番になり、私は友達の部屋で見ることになった。
友達の部屋にはテレビがあったし、家族が出掛けていて、家には私達しかいなかった。
絶好の観賞会日和と言える。

「今日はなんでもしてあげる」

といったタイトルだった。
なんでもってなんだよ。それさえ分からないが、卑猥な響きということは分かった。

 
内容はオーソドックスなもので、男女二人しか出てこなかった。
二人とも特別若くもなく、美人でもイケメンでもなかった。

 
見終わった後、二人の間に微妙な沈黙が訪れた。
知識と実践映像は大きく異なる。
クラスの男女で猥談をするくらいならキャーキャーしながら笑い話だが、笑える余裕はなかった。
興奮とか、そういったものもなかった。
正直なことを言えば、気持ち悪いという感想に近かった。
友達と別れた後、外はキレイな夕日で、一人帰り道が切なかった。

想像したものと違かった。

私はフレンチキスしか知らなかった。
愛読書の少女漫画はキスがクライマックスだった。
だけどビデオはキスから…序盤から、想定外過ぎた。

 
恋人ができたらあれを、やるの?私が?できるの?私が?
男性はあれをしたいの?女性と?気持ちいいの?
でも○○ちゃんは痛いって言ってたよ…痛いのにやるの?

私にはできない…
できそうにない………
あんなことを、大人はみんなやってのけて、妊娠して出産までしているのか……………

 
見る前までは、楽しいものと期待していた。
見終わった私に待っていたのは、軽い絶望だった。

 
 
それぞれ観賞会が終わった後、私は率直な感想を伝えつつ、某男子に聞いてみた。どうだったかを、だ。

「興奮はしなかった…でも、体は反応した。男はそういうもんなんだよ。」

その言葉に、私はホッとしたのを覚えている。
女子だけじゃないんだ。
男子も分からないことだらけで不安で手探りなんだ。
みんな一緒なんだ。
未知なるものが怖いんだ。

  
私だけでなく、見終わった人は皆、少し暗かった。
「自分も早くあれがしたい!」と口にした人は皆無で、戸惑いや困惑が広がった。

私達は中学生になった。思春期に突入した。
子どもが作れる体にはなった。
だけれども
まだまだ知らないことだらけの、無防備な子どもだった。

アダルトビデオは直訳すると大人のビデオ。
子どもにはまだ、早かったのだ…。

 
 
 
高校生になると、周りには彼氏ができる人がちらほらいた。
私はそういった友達の話を聞くたびに、すごいなぁと感心した。

デートや恋人に憧れて共学高校に入学したものの、色っぽい話や出会いは私にはなかった。

 
「みんな、すごいなぁ!あーあ、私には恋人ができる気がしないなぁ!あんな大人の行為、できる気が全くしないよぉ!」

初めての恋人ができるまでは、本当に何年もそう思っていたし、口にしてもいた。
私に恋人ができるのはもう少し先の話になる。

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