その場の勢いで告白した若かりし日とその結果
恋は特攻隊。
これは私の座右の銘である。
恋愛体質な私は、好きになると一直線だった。
初恋は小学一年生とませていたし
誰かを好きになると、バレンタインデーに手作りお菓子をプレゼントした。
授業中は好きな人を見つめ
放課後も好きな人を見つめた。
会えない時間は好きな人を思い描き
夢の中でも好きな人に会っていた。
全くもって恋愛脳である。
好きな人の好きなものが気になり
好きな人の目にうつる私はかわいい女の子であってほしいと願う…
くらいなら
かわいらしい恋する乙女だ。
だが、私はデブでブスで内気で
趣味が日記と作詩とイラストである。
かわいくない女が好きな人を見つめ
好きな人を追いかけ
日記やら詩やらイラストやらに思いを込め
バレンタインデーで手作りお菓子をあげるのは
不気味で可愛げがない行為とみなされる。
我ながら怖いし、気持ち悪いと思う。
当時はまだそんな言葉はなかったが
私はストーカー気質であった。
内気なくせに大胆な私は
小学生の頃から、いつ告白するかを決めた上で
好きな人には必ず告白してきた。
遠足ではツーショット写真撮影を頼んだり
隠し撮りしたりと
恋に関しては積極的であり
またそれが逆効果でもあった。
男子より女子の方が早熟だ。
誰が惚れただの好いているだのという話は
ターゲットの人がからかわれたり、傷つきかねない。
好きな人が男女で遊ぶと聞きつければ私も混じったり
高校生になれば、初デートをしたり、Wデートをしたりと
見た目が地味なくせに、私は実に恋愛にアクティブだった。
「好きな気持ちを告白できない人が分からない。好きって気持ちは溢れて止まらない。隠せない。」
「恋は特攻隊。恋愛は恐れちゃいけない。フラれるだろうけど、せめて気持ちは伝えたい。知ってもらいたい。」
私は口癖のように周りによく言っていた。
そう、私の告白の目的は付き合うことでも両思いでもなかった。
好きな人に好きな気持ちを伝えるということは、当たって砕けることとイコールだった。
私は自分がデブでブスで
性格も特別よくないことも知っていた。
男子にモテる女子はみんなかわいくて性格も明るくていい子だ。
私が最高に素敵だと思う
世界一カッコイイ好きな人が
私ごときを好きになるはずがなかった。
不釣り合いな自覚はあった。
思春期に入り、かわいい子は待っているだけで告白され
彼氏ができ
すごい子になると「告白させるように仕向ける。」と言い放ち
私は次元の違いをヒシヒシ感じていた。
特攻隊だからいかんのだ。
恋が上手くいかないのだ。
両思いがゴールではないからいかんのだ。
それは分かっていた。
だけど、私はかわいくない。
他の子みたいに、かわいくない。
男子は私を異性としては決して見ない。
年齢=彼氏がいない歴の時
私は恋愛における自信は全くなかった。
男子は気がない女子やかわいくない女子に対し
残酷なほど冷たかったり、見下すことを
私はよく分かっていた。
そんな中、私は大学生になった。
共学の高校で彼氏ができなかった私は大学生活に期待をした。
大学ならばもしかして、と思った。
そして、私は入学早々気になる人を見つけた。
A君である。
A君は同じクラスで、陽キャグループにいた。
身長175cmくらいの細身で、髪がサラサラな茶髪。
お洒落な服装で笑顔がかわいいイケメンだった。
私はイケメンに弱かった。
好きになる人はイケメンとは限らなかったが
身近にイケメンがいるとハァハァした。
なお、女の子でかわいい子がいてもハァハァした。
自分が容姿に恵まれていないから
容姿に恵まれた子に非常に弱かったのである。
A君は優しかった。
男女みんなに話しかけた。
私のような地味な子にも普通に話しかけた。
恋愛経験値が少なく
しかし恋愛体質な私は
すぐに胸キュンした。
あっさりA君を気に入った。
私はノリでA君に連絡先を聞いた。
同じクラスだった為、みんなで連絡先交換をするタイミングで
私もどさくさに紛れて聞いたのである。
入学早々にイケメンA君の連絡先をゲットした私はニヤニヤし
たまにメールをしてみた。
A君にメールを送ろうと思い、メールを作成している間や
メールを送る瞬間
返信を待つ間
A君からの返事を読む間と
たかがメール一通で非常にドキドキした。
A君の周りにはいつも人がいて
普段は挨拶とか軽い雑談くらいしかできなかったが
私はそれだけで満足だった。
18歳になった私は
さすがに恋愛や距離感について多少は学んだ。
ストーキング行為は逆効果だし
好きな人に申し訳ないと思った。
私はこの生まれたての淡い恋心を大切にしたいだけだった。
だが、私はすぐに顔に出る。
嘘がつけないタイプなのだ。
親友は実にアッサリと私の気持ちを見破った。
「お前、A君が好きだろう?」
さすがだ。
さすが親友だ。
私の目線の先によくぞ気づいた。
「いや、お前の気持ちダダ漏れだし。分かりやすいし。」
さすが親友だ。
ズバリ指摘してきた。
もはやこれはA君にも気持ちがバレバレな可能性が非常に高い。
「それで、いつ告白するの?♪」
人は何故恋バナが好きなのだろう。
自分の恋には臆病なくせに
人の恋バナは楽しくて堪らない。
親友もそのタイプだった。
私「いやまだ、好きっていうかさぁ~…カッコイイなぁって思ったり、笑顔がかわいいなぁって思ったり。
講義が一緒だと嬉しいなぁってなったり、メールする時、返信来る間もドキドキっていうか…。」
親友「立派な恋じゃねぇか!」
私「いや、立派というより、淡い淡い恋心よ。桜の花びらみたいな薄いピンク色よ。」
親友「告白だな!」
私「いや、早すぎるよ!?出会ってまだ約一ヶ月よ!?」
親友「バカか。あんなイケメン野放しにしたら、すぐ彼女できてしまうだろ?もういるかもしれないし。」
私「いや、彼女はいないらしいよ(即答)。」
親友「ちゃっかりチェック済みじゃねぇか!」
私「そりゃまぁ、一応ねぇ。気になった人に彼女いるかどうかは調べるじゃん。」
親友「じゃあやっぱり今のうちだな。彼女いない内に告っとけ。」
私「えぇ~…。」
親友「恋は特攻隊、っていつも言ってるだろうが。」
私「いやまぁそうだけど、砕け散りたくないよー!まだ始まったばかりの、淡い淡い恋心が…。」
親友「今はGW前だろ?今告白して上手くいけばデートできるぞ!」
私「なるほど?」
親友「砕け散ってもほら、GW期間は大学休みだから、お互いに会わない期間があるし、なぁなぁになるだろう。」
私「…一理あるな。よしっ!今から告白するっ!!」
親友「切り替えはやっ!でもその勢いだ!!いけっ!!!」
私は親友と大学食堂でそんな話で盛り上がり
本当にその場で告白した。
メールである。
親友の横でメールを作成し、送信した後に、親友と二人で帰った。
まさかA君は、食堂でこんなやり取りをクラスメートがしていて、勢いで告白されたとは露ほども思っていないだろう。
告白することは、メールを送る直前に決まったのだ。
A君はその日、もう講義が終わっていて大学にいなかった。
だからうっかり会って気まずくなることはなかった。
勢いで告白はしたが、そこあたりは計算ずくだった。
夕日がやけにキレイな春のある日だった。
メールの内容はハッキリ覚えていないが
返事はその日のうちに来たことは覚えている。
告白に対するお礼と共に、付き合うことはできない旨と詫びが書かれていたことは確かだった。
そのメールは自宅で一人でいる時に読み
私はそのまま親友に電話をかけた。
私「フラれたけど、やっぱりなって感じ。だってイケメンだもん。そりゃフラれるわなー(笑)」
親友「いやでもお前、すごいよ。告白したじゃん。なかなか好きな人に告白なんてできないよ。」
私「あ~…でも初めてメールで告白したよ。いつもは面と向かって言ってた。」
親友「お前は繊細なくせに、変なところ大胆だよな。いやでも、本当すごいや。」
私「フラれて逆にスッキリしたし、次の恋に向かって頑張るー!GW、一緒に遊ぼうね~!」
そうして夜は更けていった。
フラれたのに、私は涙の一粒も出なかった。
逆にスッキリして親友と笑いまくった。
それはまだこれが恋の始まりだからだ。
私は惚れっぽいが
知り合ってから半年以上経たないと、立派な恋にはならない。
そしてそこまでになると
諦めるのが容易ではなくなる。
GW明けにA君と会っても、全く気まずくなることはなかった。
見るたびにイケメンだなぁとは思ったが
ただそれだけだった。
A君は陽キャのイケメンで、私とは住む世界が違う。
フラれる前から分かりきっていた。
淡い恋心は、本当に淡いまま終わった。
大学に入学して半年が経った頃
大学構内でA君の姿を全く見なくなった。
もう私の中でただのクラスメートでしかなかったが
A君が最近大学にいないことは気になった。
クラスメート「Aな、大学辞めたらしいよ。」
私「辞めた!?なんで!?」
クラスメート「なんか毎日パチンコやってるらしい。パチプロ目指しているらしいよ。」
……私は顔を引きつらせた。
私は本当にA君の表面しか見ていなかったのだと思った。
A君は爽やかなイケメンで、陽キャで勝ち組だと思っていた。
だけどまさか
入学して一年もしない内に大学を辞め
パチンコ三昧な日々を送っているとは。
やがてA君とは連絡が途切れ
今どこで何をしているか分からなくなった。
クラスメートに尋ねても「知らない。」「分からない。」という答えが返ってきた。
告白をしてから約一年が経ち
大学生になって二度目の春が来た。
大学の近くの桜並木は満開になり
薄い淡いピンク色の花びらが舞う。
あの告白もA君の存在もかすれるようだった。
私が初彼とこの桜並木を歩く日は
このもう少し後の話になる。