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駐車禁止の場所に車を停めると、罰金だけでなく…

今から数年前、母親がライブから帰宅した。
楽しみにしていたライブだというのに
母は苦々しい顔で帰宅した。

「いやんなっちゃう!駐禁とられた!ライブ代より高くついたわ!16000円よ!?」

母は怒りを爆発させる。

 
私の県は車社会で、一人一台車を持っていて当たり前の世界だ。
地元のライブ会場は駅から遠く
バスもほとんどないのが当たり前だ。
ライブ参戦者は基本的に車で会場に向かう。

 
だが、ライブ会場の駐車場数は座席数の1/3以下だ。
有料駐車場スペースさえ付近にはない。

地元ライブ会場は、ライブ開始三時間前には会場入りしないと駐車場確保は保障できないというシビアさで
私は県外ライブを好んだ。
県外ライブは駅前にライブ会場があるため、こういったトラブル派生はない。

 
ライブ日に一日有給を使えていれば問題ないが
仕事終わりにライブに駆けつける大人も多いし
ライブ会場付近には時間を潰すような喫茶店の類もほぼない。
早々と来るのも、非常に癪なのである。

 
 
母が駐禁でキップをとられた場所は
ライブ時にたくさんの人が駐車場難民になり
仕方なしに車をその辺に停めることで
地元では有名な場所だ。  
違反したくて違反しているわけではない。
私もかつてそこのライブ会場に行ったことはある為
駐車場の数のシビアさはよく知っている。
通常は駐車場の数の少なさをみんなが承知しているから
多少駐車場からはみ出た場所に停めても大目に見てもらえる。

 
そことはまた別場所の地元ライブ会場に私が行った際、やはり二時間前に会場入りしたが駐車場は満車であり
交通整備員の方がたくさんの人が路駐に促すレベルだった。

「今日は大丈夫です。仕方ないです。キップは切りませんから。」

交通整備員の方は大量の駐車場難民の対応に追われていた。
やはりそこも、公共機関を使うには不便すぎる場所だった。
電車もバスも一時間に一本くらいだったのだ。

 
 
だが、母親はその日、ライブ後に車に戻ったら違反とされた。
母親だけではない。
付近の車は全てやられていたそうだ。
確かに駐車場に停めない人が悪いのだが
地元では、ライブ時に駐車場が少なくてその辺に停めるのは日常茶飯事だ。
その日そこを担当した人は、正義の剣を振りかざした。

 
母親含め、周りの人は当然激怒したが
「違反したそちらが悪い。」と、とりつくしまもなく
もちろん罰金は取り消しにはならなかった。

 
お陰でライブの楽しい思い出よりも悔しさばかりを感じる結果になったそうだ。

 
 
未だにその日のことを母親は根に持ち、時折話している。
そして私は私で、母親とはまたケースがだいぶ違うが、駐禁では忘れられない思い出がある。

 
 
 
 
 
 
あれは私が高校生の頃の話である。

私は駅そばの駐輪場を借りていて、毎月毎月お金を払っていたが
夏休み等長期休暇の際は借りていなかった。
友達と遊びに行く時だけ
日払いで駐輪場を借りていた。

 
夏休みのある日、私は寝坊をした。
慌てて家を飛び出した。
サイフの中にはお札しか入れていなかった。
駐輪場は一日130円。
日払いの場合は封筒にナンバーやらなんやらを書いてポストに入れなければいけないが
電車に乗り遅れそうだし
ここでお札で支払うと遊ぶお金が足りなくなるしと(※お釣りは夕方、自転車にくくりつけてある。基本的には無人駐輪場で、管理人不在)
私はスルーした。

後で払えばいいや。
電車間に合わないし、毎月停めているから身元は分かっているだろうし………ごめんなさい!

 
私は駅に急いだ。
都会と異なり、電車の本数は少ない。
次の電車に乗るとなると、予定が大幅にズレこんだ。

 
 
友達と遊んで楽しんだ後に自転車に戻ると
サドルにはデカデカと

130

と、白チョークで書かれていた。

 
私はそれを見て、ギョッとした。
サドルに何か書かれるのは初めての体験だし
チョークで黒板や道路以外に何かを書いているのを見るのも初体験だった。

チョークは、落ちない。

ハンカチやティッシュでこするくらいでは落ちない。
むしろ拭くほどに広がってしまう。
チョークとサドルがこんなに相性がいいとは知らなかった。
管理人さんの怒った顔が勝手に浮かんで怖かった。

 
 
友達と遊んだ後の為、小銭はできていた。
私は封筒に「朝払わなくてごめんなさい。」と一筆書き
お金をポストに入れて、自転車を押して帰った。

 
サドルに座ると、お気に入りのワンピースがチョークで汚れそうで嫌だった。

 
たった5分早起きせず、事前に小銭を用意しなかっただけで
130円で
友達と遊んだ数時間分の楽しみを奪うだけの力が
そのサドルにはあった。
トボトボと自転車を押しながら帰る時、半泣きだった。

 
事前に支払わなかった私が悪いのだから、言い訳はできない。 
追加料金を請求されなかっただけマシだった。
 
 
ただ、サドルに書かれた130のチョーク文字は強い気を感じて
自宅に帰ってそれを落としてからも
怖くて仕方なかった。

 
払わなかった私が悪いのは前提として
サドルにチョークで書く方に、もう関わりたくなかった。

何年も毎月事前に代金を欠かさず支払っていて、住所も電話番号も名前も登録しているのに
取り立て方は色々あるだろうに
初犯で数時間払わないことは、そんなにチョークを使ってまで咎めることなのだろうか。

 
 
私はその件がきっかけで駐輪場を解約し、別の駐輪場と契約をした。
もう二度とそこの駐輪場を使わなかった。

 
相変わらず私は朝が苦手なままで、時折日払いの際は後払いをしてしまったが
そちらはせいぜい、封筒や色紙をグリップに貼るくらいの取り立てだった。

チョークでサドルに書くことは一度たりともなかった。

 
そうだよなぁ…
普通はこれくらいの取り立てだよなぁ……
確かに事前に払わない私が悪かったが
あんなに目くじら立てなくても………
名前も住所も電話番号も控えていたんだしさぁ…………

 
私の中で、サドルにチョーク事件は根深く残った。

 
 
やがて、その駐輪場はなくなり、私が後に借りた駐輪場のみが今でも残っている。
更地になった駐輪場を見ても、今でもあのチョーク事件を思い出す。

 
  
 
だが、真に恐ろしいのはチョーク事件ではない。
上には上がいるとやがて私は思い知らされる。

 
 
 
 
 

私は18歳になり、車の免許を取得し、マイカーを手に入れた。
初心者マークをつけていた頃は運転が怖くて
ちょっとした買い物ならば自転車を相変わらず使っていたが
やがて自転車はパンクしてしまう。
月に数えるほどしか乗らない自転車のタイヤを直すのは勿体ない気がした。

 
タイヤがパンクをした頃は私も車の運転にだいぶ慣れてきた為
パンクをきっかけにもう自転車には乗らなくなった。
他の家族の自転車を借りることさえなくなったのだ。

 
車に乗るようになり、私は駐輪場ではなく、駐車場を借りることがしばしばあった。
学生時代に借りた駐輪場は、学校に事前払いだったし
街中で駐輪場を借りる時も、大抵カードを取らないとゲートは開かずに使えないし、お金とカードを入れないと、駐輪場から出られない。

バックれる気などないし、私は基本的に真面目にお金を払って駐輪場を利用していた。

 
 
だが、私がアラサーの頃にハプニングが起きる。

ある日、友達の家に泊まりに行くことになった。
いつもは友達の家に車を停めているが
その日は諸事情により車を停められなかった。

「近くに有料駐輪場あるよ。」

私は友達に案内されて、そこに車を停めることにした。

 
そこは変わった駐車場だった。

料金案内板はあるが、ポストが見当たらない。
連絡先に電話をしてもあまり出ない。
普段は近くの会社が管理しているらしいが
土日はその会社は定休日なので
駐車場をみんながよく使うであろう土日ほど
野放し状態だった。

 
私「え?お金どこで払うの?」

 
友達「お金は自分で封筒用意して、封筒に日にちや金額やナンバーを自分で明記して、ここ(マニアックな場所)に入れるんだよ。」

 
 
………本当に、変わっている駐車場だと思った。

基本的に無人駐車場は記入欄が書かれた封筒やペンやポストが用意してある。
友達が指定した場所は、説明を受けなければ分からないマニアックな場所だ。
お金を入れる場所なんて、説明がないとまず分からない。
というか、料金案内板にお金を入れる場所くらい書くのが普通ではないのか。

そもそも封筒を自分で用意しなきゃいけないなんて初めてだ。

 
友達「まぁ、こんな風に大雑把で分かりにくい場所だからさ、割と無断で停める人も多いのよ。」

 
私「……だよねぇ。お金払うポストが用意されてないし、お金払う場所分かりにくいし、管理人に電話しても土日留守電じゃねぇ…。」

 
その日、私は封筒を持っていなかった。
お金も万札しかなかった。
不用心な場所に万札を入れて支払いたくなかった。
確か一日300円だったと思う。

 
 
わざわざ近くの店に行き、万札を崩すのも面倒くさかったし
仕事帰りに友達んちで夕飯を呼ばれる予定だった私は
その日は金曜日で、久々に土日休みだった。
私は金曜日夜を早く楽しみたかったのだ。
そんな私に、悪魔が囁いた。

「…………一回くらい、ここに停めてお金払わなくてもバレないんじゃないかな…?」

駐車場から友達んちは歩いて10分だったし
友達に小銭を借りるのもしのびなかった。

 
私は明らかに見下していた。 
会社が片手間で空いている土地で駐輪場をしているくらいなのだろう。
だから、料金を入れるポストや封筒やペンが用意さえされてないし
土日に連絡さえつかないのだ。

 
一回くらい…
数時間くらいならば、ここに停めても管理人にバレないのではないか………?
友達も、みんな停めてるって言っていたし…………。

 
私はドキドキソワソワしつつも
そこに車を停めた。
事前にお金を払わずに停めた。

悪いことをしている自覚はあった。
言い訳になるが
もしも小銭が手元にあったり、1000円札を持っていたならば
そんなことをしなかった。
その駐輪場には自販機ならばあった。
万札は使えないけれど
1000円札ならば使えたし、お金は崩れたのだ。

 
最初は強く感じた罪悪感も、友達の料理の美味しさや楽しい時間にやがて薄れ
私は胃も心も満たされて眠りについた。

 
朝ごはんをよばれて、私は友達と別れた。
仕事がない土日は希望の塊だ。
あぁ今から家に帰ってあれをやろう、これをやろう、明日は●●ちゃんと久々に会うから楽しみだな……

と、胸を弾ませた私は、愛車を見た瞬間に絶望に叩き落とされた。

 
 
私の愛車のフロントガラスには、デカデカと白い紙が全面に貼られていた。

 
【駐車違反】 

 
と、紙には巨大な赤字で乱暴に書かれていた。

 
 
恐怖の気持ちでいっぱいになった。

 
 
私はとりあえず紙を剥がした。
剥がさないと運転はできない。
だが、その紙には特殊な糊がベッタリ使われていたらしく
手で剥がそうとしても糊はベタベタし
紙の破片は取れそうもなかった。

 
 
私は先ほど別れた友達に電話をかけた。

フロントガラスの状態を写真に撮り、どうしたらいいか相談しつつ
駐車料金の600円(二日分)を貸してほしいと頼んだ。

 
 
友達はお湯と道具を持って駆けつけた。
だが、お湯や道具を使ってもまだ紙や糊は取れなかった。
かなり強力な糊のようだ。
無理矢理道具を使うと、間違いなくフロントガラスが傷つく。
紙や糊をひたすらに落としながら、私は半泣きになった。

私は手帳の紙を引きちぎり
そこにお金を入れて丸め
謝罪と共にナンバー等必要事項を明記し
友達から聞いたマニアックな場所にお金を速攻で入れた。

 
 
友達は何回かお湯を運び、二人で30分以上かけて紙や糊を落とそうとした。

それでも、7割しか落ちなかった。

 
とりあえず私は7割落ちたところでコンビニに行き、お金を崩し
友達に600円を返金して
慌てて帰った。

 
帰宅してすぐに私は再び自宅の庭で糊や紙と格闘した。
自宅でも30分くらいかかった。 
それぐらい強力な糊だったのだ。

 
やはり、悪いことはしてはいけない。
そして、あそこには二度と停めない。

 
私は糊を落としながら、罪と罰について考えさせられ
トホホな気分だった。

 
 
ネットで調べると、フロントガラスに紙を貼られた方は私以外にもいたから
割とポピュラーな取り立てなのだろう。

 
お金を払わなかった私が悪いから何も言えないが
サドルにチョークで書かれた時以上の恐ろしさだった。

 
 
 
 
「もう二度と無断駐車をするまい。」

と誓った私は、常に車のダッシュボードに、多少の小銭と封筒とペンを入れるようにした。
また、必ず千円札をサイフ以外に入れるようにした。
自販機がそばにあっても、万札では両替ができないのでは
お金はあってないものと同じだ。

ちょっとした時にお金を支払いたい時
万札や電子マネーに頼っても、どうしようもないこともあると学んだ時
私は少し大人になった気がした。

 
母親が、駐禁をとられたのは
私がフロントガラスに紙を貼られた数年後で
16000円とフロントガラス全面紙張りを比較した時

素直に、「どっちもやだなぁ…。」と感じた。
どちらも体験したくない体験だ。

 
 
無断駐車はしたくないが
相変わらず車社会の我が県で生活すると、選択に迫られることは非常に多かった。


お洒落な喫茶店は公共機関で行くには不便な場所だし、駐車場はない、もしくはほとんどない。

花火大会等イベント時は、まず指定された駐車場があっという間に満車になるし
有料駐車場さえ満車になるしで
苦渋の決断を迫られる。

友達や家族や周りの人と情報交換し
穴場の場所を教えてもらい、そこに停めるしかない。
気分はいつもヒヤヒヤしている。
ごめんなさい、という気持ちでいっぱいだし
全面紙張りの記憶は嫌でも蘇る。

 
どんなにイベントが楽しくても
指定駐車場に車を停められなかった場合は
「私の愛車は無事かしら…?」と、いつも心配になり、不安になる。

駐車場が十分に確保してあるかどうかは
いつだって安心感に繋がる。

 
 
 
昨日の朝の時点で、今日はこちらのテーマについて書こうと思っていたが
たまたま昨日の夕方、タイムリーなことが起きた。

 
私は昨夜、ライブに参戦したわけだが
いつも停めている駐車場が全て使用禁止になっていると、先に着いていた友達から連絡が入ったのである。

 
そうなると、どこかのお店に駐車するしか道はない。

「危ないよ。店員さんにもし見つかったら…。」

友達からは心配の連絡が入る。
そして、どうやらライブ仲間同士で情報交換し、某駐車場を貸してもらえることになった。
持つべき者は友達である。

 
私は安心してその場を目指したが
なんと私が到着した時は別の方が停めてしまっていた。
仕方ないからUターンし
某お店に停めて、ライブ会場まで歩いた。
前にライブ仲間がここに停めたと言っていたからだ。
止むなし。

 
ライブ会場に到着して事情を話すと、「駐車場が一箇所だけ空いたからこちらに停めたらいい。」とライブ仲間が言い
駐車場を他の方が停めないように見張ってくれた。
そこは狭い駐車場で、私は運転が苦手だからヒヤヒヤしたが
ライブ仲間が誘導をしてくれた。
ホッとした。

 
そんなこんなで会場入りが遅れ、私は欲しかったグッズが買えなかったが
ライブ仲間が快くプレゼントしてくれた。
「自分はまたいつでも買えるから。」と、譲ってくれた。

別のライブ仲間からは、かわいらしいお菓子をプレゼントしてもらった。例の、私に駐車場がないことを教えてくれたり、ここに停めたらいい、と連絡してくれた方だ。
駐車場は分かりにくい場所だったので、案内動画までその場で撮ってLINEしてくれた。

 
私はライブ前から胸がいっぱいになった。
ライブ仲間のお陰で無事駐車場が見つかったし
これでライブは心置きなく楽しめる。
それに、ライブグッズや差し入れのお菓子から
たくさんの優しさや愛情を感じたのだ。
ありがたさしかない。

 
 
何かしら悪いことをしたら、それなりにペナルティは必要だ。
母の駐禁の件、私の駐輪場や駐車場の件は
基本的に母や私が悪い。
それは分かっている。

ただ、やり方がえげつなかったりすると
憎しみや恨み、恐怖感が募って残るし
あまりいい結果にはならないだろう。

 
現に私は、駐輪場や駐車場をその後使わなくなった。
取り立て方が変われば、その後も何年間も私はお金を落としただろうが
関わりを一切遮断した。
駐輪場や駐車場をやるからには、お金を稼ぎたいはずだ。
たかが一人、されど一人かもしれないが
私はチョーク事件も紙張り事件もたくさんの人に話し
話を聞いた人はそこを使わなくなった。

「お金を払わないともかがもちろん悪いけど、そのやり方はちょっと行き過ぎたね。怒らせると何言われたり、何されるか分からない管理人なんだね。」

周りはそういった反応だったのだ。

 
 
私だけでなく、私経由で間接的に何人も使わなくなったのだ。

商売とは、こういうものだ。

全てのお客が表立って当人にクレームを言いはしない。
ただ、不満や納得のいかない何かを感じた場合
人は誰かに話したり、SNSでエピソードを暴露する。

  
社会人として働いていた頃、「誰かが言った苦情は、口にしないだけで他の人も感じていると考えなさい。」と主任に言われたことを忘れない。

やがてLINEのサービスが始まると
保護者や同僚はグループLINEを立ち上げ、情報共有をしていた。
恐ろしいくらいに、情報は出回っていた。

特に、悪い情報ほどたくさんの人に素早く伝わる。

 
 
  
 
やがて、私のフロントガラス全面に紙張りをした駐車場も管理会社も潰れて、今はもうない。
潰れた理由は定かではない。






 















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