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家族と初詣、恋人や友達と初詣、仕事でも初詣

1月1日は家族と初詣。
1月3日は恋人or友達orライブ仲間と初詣。

 
 
1月3日までに初詣と名のつくものに二回行く私だが
初詣はそれだけで終わらない。

 
仕事である。

 
私の職場は、毎年1月の第一か第二土曜日が初詣イベントと決まっていた。

場合によっては、その次の日あたりに、3日に初詣に行かなかった方とプライベートで初詣に行ったりもするので
私は毎年4~5回初詣に行っていた。

 
決して信心深い訳でも
私が初詣大好き人間というわけでもない。
毎回一緒に行く人も違うし、神社も異なるのだから。

 
  
私は学校を卒業し、障がい者福祉施設に入職した。

社会人一年目の頃
1月の最初の行事は、初詣&書き初めと聞いた。

へぇ~
施設で初詣や書き初めをやるんだ!

私はそんな反応だった。

 
 
年末年始の休み後に各利用者や職員、保護者と
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」と何十回何百回とやり取りをし
お餅を何個食べたとか
年末年始は何をしたとかを
聞いたり聞かれたりしながら
山積みになった仕事を片っ端から片付ける。

 
仕事始めはバタバタし
その次の日あたりから、書き初めや初詣の仕事の打ち合わせを上司としたと思う。

  
 
施設で初詣に行く神社は毎年決まっていた。

私は初めて行く神社だが
施設付近に住む方にはとても有名な神社らしく
三が日は初詣で混むらしい。

 
社会人一年目の私は、利用者と行く初詣にワクワクしたし
初めて行く神社にもワクワクしていた。

 
行く前までは確かに、ワクワクしていたのだ。

 
 
他の職員の車の後ろにくっついていくと、その神社の駐車場は砂利だった。
砂利は車椅子が自走できないし、普通に押すのも厳しいので
斜め上に蹴り上げるように、ウィリー走行で車椅子を押す。

普通に押すよりも、体力を使い、職員は息が切れる。

 
息を切らしながら利用者を神社まで誘導したと思うと、そこには階段があった。
歩ける利用者はヒョイヒョイと上っていき、参拝している。
車椅子の人は下から拝むだけかな?と私が思っていると

「さぁ、やるわよ!」

と、上司が気合を入れている。
何をやるというのか。

  
「せーの!」

 
車椅子利用者一人に対し、職員が四人体制で持ち上げた。
車椅子の重さは25kg前後。
利用者は成人の為、体重は40~100kg。

 
車椅子の利用者を四人で持ち上げ
階段を上るというのは
職員の体力を容赦なく奪った。

 
車椅子の利用者は5人以上いたし
職員は8人くらいしかいないし
利用者は合計で50人以上いた。

 
 
砂利をウィリー走行した後、車椅子の利用者を持ち上げ
賽銭箱の前に段差があるのでまた持ち上げ
その合間にお守りやおみくじ、飲み物を買う支援を行い
参拝の様子を写真に撮り
再び階段下に降ろし
砂利をウィリー走行して、車椅子の方を誘導する。

 
職員が車椅子の利用者に対応している間に
歩ける利用者の方々がトラブルを勃発させ
職員は注意したり、神社の方や一般の方に謝罪し
初詣後に車に乗り込んだ時は
非常にグッタリした。

 
ササッとお昼を食べた後は、書き初めである。

半日だけでグッタリだが、まだまだ勤務は終わらない。

 
 
利用者が墨で汚れないようにビニール袋で体をおおい
新聞紙を広げる。
事務室の上の棚に、年に一回しか使わない書き初めセットがあることを
私はこの時初めて知った。

 
練習は新聞紙に行い、本番一回しか半紙は使えない。 


練習も半紙使わせてやりなよ……

 
と思ったが
経費の件は、下っ端の私は余計なことは言えないし、言わない。

 
利用者は自分で文字を書けない人も多く
まして鉛筆ではなく、筆と墨となると更に大変で
職員はほぼマンツーマン対応になる上に
書き初めしている最中の写真撮影も入る。

利用者が墨でイタズラをしたり
墨で汚さないように気を張りつつ
マンツーマン対応で保護者や利用者が満足するような作品に仕上げつつ
写真撮影。

 
正職員は、やることがいっぱいだった。

 
 
年明け最初の行事から、濃かったな…。

社会人一年目の為、まだ右も左も分からない時だ。
初詣&書き初め行事は心身疲れて
その日は帰宅後に私は熟睡した。

 
 
 
転機は、その次の年にあった。

私が社会人二年目の頃である。

 
私の次の年に入った職員が、「例年行っている神社より、●●神社の方がいいですよ。あそこはバリアフリーですし。ねぇ、ともかさん!」とふってきた。

 
●●神社は私が毎年家族と初詣に行っている神社で
私とその同僚にとっては馴染み深い神社だった。

私「あ~…確かに。距離はありますけど、あそこなら境内に公用車停められますから、砂利を車椅子移動はないです。」

  
同僚「賽銭箱にもスロープつけたよね?」

 
私「そうそう、最近つけたんですよ。だから、段差は全くないです。身障トイレがないのはネックですが、神社近くに身障トイレがある場所はあります。」

 
同僚「お守りやおみくじもたくさんあるしね。」

 
私「例年施設で行っている場所より売ってますし、自販機もたくさんありますし、出店ももしかしたらたくさんあるかも………1月3日以降、何日まで出店あるか分からないですが。」

 
 
私だけでなく、砂利や階段支援にヒィーヒィーしていた職員は
バリアフリーという響きに食いついた。

  
神社のバリアフリー化は難しいと研修で話題になった程
昔ながらの神社は、障がい者に優しい作りではなかった。

  
私は地元過ぎて意識していなかった。 

自分が昔からお世話になっている神社が、どれほどバリアフリーで、老若男女選ばない神社として頑張っているか
気づきもしなかった。 

 
 
私と同僚のプレゼンにより、試しに●神社に初詣に行くことになった。

すると、公用車はほとんど境内に停めさせてもらえたし
一般参拝者も少なく
バリアフリーで
職員も利用者も非常に楽だった。

 
その神社にはインスタ映えというか
集合写真にもってこいの撮影場所も用意されており
集合写真の場所も迷わなくてすんだし
参拝写真撮影も比較的楽だった。

 
お守りやおみくじも種類がたくさんあるから
利用者は喜んだ。

バリアフリーだから
自販機で飲み物を買ったり
出店で大判焼き等を買ったりも
車椅子の方にもしやすかった。

利用者にも大好評だった。

 
「あの神社、すごくいいね!」

 
私の地元の神社を、利用者や職員が褒めてくれたり、喜んでくれて
私は非常に誇り高い気分になった。
嬉しかった。

 
 
それから毎年施設の初詣は、その神社に決まった。

他施設と必ず被っていたから
他の施設にとっても
バリアフリーの神社として有名なのかもしれない。

 
職員同士会釈し、「そちらも仕事ですか?うちもです。今日もお互いに頑張りましょう。」と、無言で会話した。

 
初詣は毎年天気がよく、晴れやかな空が広がった。

優しい同僚が大判焼きを驕ってくれたり
利用者と一緒によく大判焼きを食べた。
仕事関係者と大判焼きを食べる、年に一度の機会だ。
こんな瞬間も楽しかった。

 
お賽銭を持ってこない利用者がいたり
万札しか持ってこない利用者がいたり
おみくじの内容に不機嫌になる利用者がいたり
お金が足りなくて、好きなお守りを買えずに不穏になる利用者がいたり
車椅子の利用者がトイレに何度も行きたがったりと

それなりに何かしらはあった。

 
だけど、買い物支援の時に金銭トラブルはいつものことだし
トイレがマメな利用者もいつものことだし
そんなことはどれもが大した問題じゃなかった。

 
 
私の願いは一つだけだった。

職場のみんなが健やかで笑顔で過ごせたらそれでよかった。
みんなと一緒にいられたら
このままみんなと笑い合えたらと
毎年願うことは一緒だった。

 
 
書き初めは私が社会人三年目の頃に、重度の利用者は中止になった。
私は重度の利用者担当だった為
11年施設で働いていても
書き初め支援はだから二回しかしていない。

 
 
午前中に初詣に行き、みんなでお昼を食べた後
午後はカルタと福笑いをやった。

そのカルタは私が幼稚園時代にもらったものを施設に寄付したのだが
トランプやウノ以上に
カルタはみんなに喜ばれた。

 
ひらがなさえ読めればできるのと、ルールがシンプルだからかもしれない。

 
 
書き初めよりも、カルタや福笑いは利用者に好評だった。

目隠しはさすがに厳しいので
福笑いは目隠しをしないで取り組んでもらった。

 
利用者に話を聞くと
自宅ではカルタや福笑いはやらないという。

だから
年に一度、職員と共にやるカルタや福笑いは楽しかったようだ。
特にカルタは好評だったので
やがて正月にこだわらずに、余暇活動で取り組むようにもなった。

 
 
家族とも、恋人や友達とも違う、和やかな雰囲気や時間がそこにはあった。
名目は同じ初詣だけど、行く人や場所が違えば、全然違う初詣になる。

普段はテレビを禁止しているが
イベントの日のみ、テレビはつけっぱなしにしていた。
  
 
テレビを見ながら福笑いやカルタなんて
なんだか平和で穏やかな時間そのものだった。
派手なイベントでは決してなかったけど
利用者も職員も楽しめたと思う。

 
1月末は毎年新年会の行事があり、そちらはお店を貸しきって行われ、職員が様々な企画や準備があった。
新年会がハードで濃厚な分
せめて年はじめの行事くらいは
のほほんとまったりと過ごしたかった。

 
 
 
今年、初詣に行ったら参拝者は激減していたし
県内はコロナウィルス感染者増加により
おそらく各施設は初詣行事は中止だろう。

 
家族とはササッと初詣に行ってきたが
今年は友達と初詣には行っていない。
今は恋人がいないから、恋人と行く予定もない。

仕事も去年退職したから
利用者と初詣に行くことも、もうない。

 
 
1月1日。
元利用者から年賀状が届いた。
仕事を辞めてからも変わらずに年賀状が届いて嬉しい。

見覚えのある利用者の文字に、ウッと涙が込み上げる。

 
今は生きることで精一杯だ。
生き延びることを第一に考えたい。

生きてさえいれば、きっといつかまた再会できる。
約束しなくても。


 



 

 

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