星のみえない夜は砂糖菓子につつまれて/まつざきしおり
黄色と水色を主としたかわいらしい表紙や帯に書かれた「心の傷を癒やしてくれたのは甘くて優しい砂糖菓子でした」の文字に惹かれ
私は「星のみえない夜は砂糖菓子につつまれて」を購入した。
私は本屋が好きで、毎週必ず本屋に行くのだが
このようにテーマやタイトルや表紙に惹かれて買うことはよくある。
料理やお菓子をテーマにした本は私の好きなジャンルの一つだ。
このような本の買い方をすると、当然当たり外れがある。
思ったより好みじゃないこともあるし、期待外れな場合もある。
そんな中、この一冊は個人的に非常に好みであり、出会えてよかったと思った話だった。
この本は一話完結型の話がいくつも入っている。
各話の主人公は10~30代の女性で、仕事や家庭や学校生活において本音を言えなかったり、要領よく振る舞えずに疲れてしまったり、自己嫌悪してしまう。
そんな女性が夜訪れる場所が喫茶星屑であり、そこには店長さんとねこのまるつきさんがいて、主人公を優しく出迎えてくれる。
店長さんとまるつきさんと一緒に仲良くお菓子作りをし、お菓子の見た目のかわいさや甘さや作る工程からよりよく生きるヒントをもらい、次の日から一歩踏み出す話なのだ。
フルカラーの本で、作品全体の色合いがほんわかしている。絵がどれもかわいらしい。
エプロンのデザインもガーリーで素敵だし、お菓子もどれも美味しそうだ。
漫画なのだが、まるで絵本の世界のような夢と愛らしさが溢れた作品だ。読みやすい。
お菓子はどれも家にある材料や道具で作れそうなレシピばかりなのもありがたい。
特に空と月のレモンスカッシュ、ロマンチックで素敵。
私はこの本を三日に分けて読んだ。
仕事や家事が終わった後、寝る前に読んだ。
今日も疲れたな…
仕事失敗しちゃったな……
私、何やってるんだろう…
明日仕事行きたくないな………………
そんな気持ちの私の心に、この本の優しさは染み込み、読みながら涙が込み上げた。
店長さんとまるつきさんは、決して主人公を否定しない。
かわいらしいエプロンを貸してくれて、似合っている、と褒めてくれる。
お菓子作りが上手くいかない主人公に優しく寄り添い、教えてくれる。一緒に作ってくれる。
特に印象的で好きなシーンはみたらし団子の話で
「わたしが落ち込むのがダメなだけで、わたし…お豆腐みたいで弱いから…」と言った主人公に店長さんが言う台詞やお菓子作りの過程が涙ものなのだ。
私は自分を各主人公に重ねた。
どのエピソードも、まるで自分のように感じたし、似た経験もいくつもあったし、似たようなことを周りに言われた人生だった。
たった一人でいい。
こんな風に落ち込んだ時に店長さんやまるつきさんのような人がそばにいてくれたら、どんなにありがたいだろう。
私も喫茶星屑に行けたらどんなに素敵だろう。
今の私にはどんなレシピが用意されているのだろうか。
そう考えると、仕事で疲れていたはずの夜が優しい夜に変わっていき、心は静かに癒やされた。
きっと作者のまつざきさんも各主人公のように繊細で周りをよく見て動く人なのだろう。
生きてきた中で、たくさん傷ついたり、上手く振る舞えなくて落ち込んだのだろう。
きっと店長さんとまるつきさんの行動や言葉は、いつかまつざきさんが誰かにされたかった行動や言われたかった言葉だったり
されたり言われて嬉しかった実体験だ。
だからこんなに優しい話が描けるのだろう。
読んでいてそんなふうに感じた。
私の辛い気持ちを、まつざきさんなら気づいたり、分かってくれそうな気になった。
顔も見たことがない、会ったこともない方が描いた一冊や作者の存在が
私に大きな力を分けてくれた。
表紙の青と黄色は、なるほど、夜空と星の色だったのだと読み終わって気づく。
改めて表紙を見ると、それだけで込み上げてまたウルッとしながら、何度も読み返した。
心も体も疲れて眠れない夜、夢の中でいいから、私も喫茶星屑に行きたい。
そして元気になれたのなら、朝前向きに出勤したい。
私も店長さんとまるつきさんのように、人に優しく寄り添いたい。優しくありたい。
それでいて、自分らしさを自分だけは決して否定せず、受け入れていきたい。
あんな風に生きてみたい。
まつざきしおりさん、こんなに素敵で優しい優しいあったかい一冊を描いて届けてくれてありがとうございます。
早くも二冊目が楽しみです。続編待っています。